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「新技」

 竜人戦士たちに見送られながら国を出てしばらく三人で移動した後、俺とアレン・クィン・他鬼戦士たちとで分かれてそれぞれ行くべきところへ向かった。

 俺が回る村や町の順番は何でもいいけど、ゾルバ村は後半へ回した方がいいな。数日前よりさらに強くなったアレンやクィン、鬼族たちがそこへ向かってるからな。とはいえ、Gランクが十体もいるらしい群れと戦うのはさすがにキツいだろうしな。他の群れをさっさと片づけてから俺もゾルバ村へ行こう。


 頭の中で色々考えているうちに、名前の知らない町の近くに着いた。この町にもうすぐモンストールの群れが来る、そう予測したから最初にここに来た次第だ。

 前から気づいていたことなんだが、俺にはモンストールの気配が感知できるようだ。魔族のように戦気を感知するのは出来ない代わりに、ああいった化け物どもは何故か離れたところからでも感知できるようになっている。

 原因は分からない。長い間瘴気まみれの地底でモンストールどもと戦って喰らってきたからだとか理由は色々ありそうだが、不明だ。

 いつかはこのゾンビ化した俺の謎についても解き明かしてみたいな。未だに今の自分のことをよく分かっていない状態だからな……。

 と、色々考えていると、町からたくさんの人間が外へ出てくるではないか。

 どいつもこいつも必要最低限の荷物を持って港へ向かおうとしている。コゴルが流した情報を聞いたばかりのようだな。誰もがモンストールから逃れようと海へ出ようとしている。

 町へ入ってみると案の定、人は全く見かけなかった。町を軽く一回りしてみたところ、冒険者らしき奴が数名いて、兵士は全くおらず、逃げることを諦めたのか家にこもっている奴もちらほらいた。


 「おい、あんたも冒険者なのか!?」


 町をうろついていると俺に声をかける男が現れる。振り向くとそこには声をかけたらしき男の冒険者とその後ろに数十人の冒険者らしき奴らがいた。とりあえずそうだと答えると、男は俺の装備を見るとがっかりした様子を見せた。


 「その程度の装備ではGランクとはまともに戦えないだろう。すぐに殺されるぞ。悪いことは言わない、あんたもここから逃げた方がいい。冒険者だからって逃げてはいけないってことはない。力が無い者がここに残ったって意味なんかない」


 俺に忠言を送るその冒険者には悪気がないのは分かっている。けど相変わらず俺を見た目で弱者扱いしてくることに対して若干イラっとした。


 「余計なお世話だ。俺は今からモンストールの群れを殲滅させる。テメーら俺の攻撃の余波に巻き込まれないよう気をつけろよ」

 「………忠告はしたからな」


 男の冒険者は一瞬苦いした顔をしたのちに俺から離れて行った。他の冒険者たちも俺を変な奴を見る目を向けて後に続いた。

 死んでいるから冒険者としてのオーラも人として当たり前の生気もないせいで俺が力の無い人間だと思われるのは相変わらずか。ったく、いつも下に見られるのは気分が悪いぜ。


 「っ!そろそろ来るか」


 町へ向かってくる複数の気配がさらに強まったのを感じる。モンストールどもがいよいよこの町に侵攻してくる。

 気配が強い方へ走って向かう。途中でさっきの冒険者どもを軽く追い抜いていくと後ろから驚きの声が聞こえた。

 そして町の住宅街らしき地帯に着くと、どう猛な猛獣の叫び声が聞こえた。


 「もう町に入ってたか」


 俺の前には、全長20mサイズのモンストールが十数体いる。狼の面をした四足型の奴、豚みたいな面をした二足型の奴、その他色々猛獣を巨大化させて不細工にさせたような化け物がそこいらにいた。少し前も地底でこんな化け物どもと遭遇したので、何も思うことはない。


 「よし……じゃあ、テメーらで鍛錬の成果を確認するとしよう!」


 俺が声を出すとモンストールどもが一斉に俺を見て、獣の咆哮を上げた。俺を敵と見なして攻撃するつもりらしい。

 一番手に豚型のモンストールが、ドスドスと音を立てて進撃してくる。岩石のような拳に魔力をこめて、俺目掛けて放ってくる。


 (を試すには絶好の機会だ!)


 まずは迫りくる豚型モンストールの拳を迎え撃つ方の腕……左腕と、反撃に使う右腕を集中的に「硬化」させる。

 次……豚型モンストールの拳が左腕にぶつかる瞬間、全身の筋肉と骨のフル稼働を始める。攻撃された左腕を起点に、左肩→胴体→右肩→右腕の順に、受けた衝撃エネルギーを体内でパスしていく。

 そして右腕から最後……右拳へ莫大なエネルギーをパスして、豚型モンストールの力も含んだ渾身の「カウンターパンチ」を、奴に思い切りぶつけた!


 ―――ズパァァァアアアン!!


 もの凄い爆音が鳴り響く。俺の拳をモロにくらった豚型モンストールは、悲鳴を上げることなく風船が割れるようにパァンと血肉をまき散らして破裂した。

 エルザレスの屋敷で数日間鍛錬を積んだことで、俺は新しい技を身につけた。

 そのうちの一つが、「カウンター技」だ。

 この技は攻撃を受け止めた部位で返すのではなく、受け止めた部分を起点にして右から左へ、左から右へ、右腕から左足へ、左脚から右拳へと……受け止めた相手の攻撃を、全身を使って体内でパスして加速させて、相手が放った攻撃以上の威力にして相手にぶつけて返す、難易度が高いカウンター攻撃だ。

 敵の攻撃を数倍、数十倍にして自身の力も上乗せして放つから威力は絶大だ。

 相手が強いほどこの威力は強くなる。途中失敗すれば体がバラバラに吹き飛ぶがな。


 右手にべっとりついた血を払って次の標的を探す。今度は俺から動こう。

 血の臭いに反応したのか、狼型モンストールがグルルと唸りを立てて前に出てきた。なら次はこいつで新技のテストをしてやろう。

 闇色の魔力がこめられた牙をむき出しにして突進する狼型モンストールに対して俺もまっすぐ走りだす。

 攻撃の間合いに入ったところで走った勢いをそのままに技を繰り出す。

 右足に体重を乗せて踏み込んで、腰→体幹→左肩→左肘→拳へと、溜めた力をパスしていきさらに加速させて、体を旋回させる。

 左拳を「硬化」してさらに左肘に加速装置を生やして稼働させる。音速と化した左ストレートが、迫りくる狼の口めがけて放たれる!


 ズドォォォオオン!!


 ダイナマイトをいくつも爆破させたような音を立てて、向かってきた狼型モンストールの頭部を跡形もなく吹き飛ばした。


 「『絶拳ぜつけん』……とでも名付けようか、今の」


 左拳を見つめながらぽつりと新技の名前を呟く。さっきのカウンター技も、今の攻撃も、無事成功した。


 体内に力を加速させながらパスしていって最後は一つにまとめて一気に放つ。この一連の流れは攻守ともに使える技だ。

 これを『連繋稼働リレーアクセル』と名付ける。俺が独自に創り出したオリジナル武術だ。

 ただこの技を使う際の、力の加速パスというのがかなり難しく、失敗すれば暴発して自分の体が壊れるというリスクがある。一昨日までは何度も体がいかれたっけな。

 ゾンビの体を持つ俺だからこそ躊躇いなく使える技だ。普通の人間がやれば下手すりゃ手足が吹き飛ぶ。


 「次は、魔法で殺してみるか」


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