「ですが……この村にはまだ四体ものモンストールがいます。他の冒険者や兵士の方々に任せていますが、心配です。すぐに他の場所へ…!」
「そうだね…。進化はもう維持出来ないから解くけど、出来る限り戦う」
「限定進化」を解除したアレンたちは、携帯していた治療セットで傷を応急処置程度で治し、竜人族からもらった体力と魔力を少々回復させる丸薬を飲んで体力を少しでも戻す。
全員足並みを揃えて分断されている他のモンストールの群れへ移動する。
「………!これは……っ」
アレンたちが見た光景は、凄惨なものであった。
「このままでは冒険者さんたちが全滅してしまう…!」
分断されている二つの戦いはともに人族側が窮地に立たされている。それぞれの群れを担当している冒険者たちの数はどれも半分を切っている。よく見ると村の駐屯兵として滞在していたドラグニアの兵士たちは一人もいなかった。
「とにかく、私たちも二手に分かれて加勢しましょう!」
クィンの言葉に従って、アレン・クィン・セン、ルマンド・ガーデル・ギルスとで分かれて再び戦場へ駆けていった。
「加勢に来ました!まだ諦めないで下さい!」
クィンたちが来たことに冒険者たちは歓喜するも、状況の悪さが変わらないことを自覚して苦しそうな顔を見せる。
「すまない……俺たちが連携を取れなかったせいでこのざまだ」
「人のせいにするのはどうかと思うんだが言わずにはいられない…………あの駐屯兵どもが勝手な行動を取ったせいで連携が破綻したんだ!」
どうやらドラグニア兵たちが手柄を占領しようと暴走して、冒険者たちとロクに協力もしないで勝手を振舞ったようだ。結果彼らはモンストールに返り討ちに遭い全滅した。
「兵士だから冒険者より上の立場なんだって思う兵士はいるって聞いてたが、この村にいたあいつらはその思想が特に酷かった。俺たちの言葉を全く聞き入れない馬鹿どもだった
ってそんなことはもうどうでもいいな。俺たちも限界が近い……早いとこ奴らを討伐するぞ!!」
この場を取り仕切っている男冒険者に同意して、アレンたちは二体のモンストールと戦い始める。
先程の四体ものモンストールの群れとの戦いの疲労とダメージが残っているアレンとセンは「限定進化」を発動出来ないでいる。クィンも「魔法剣」の威力が落ちている。
ライオン型モンストールたちに挟まれながらの戦いが続き、徐々に追い詰められていく。
「ぐぉ……!すまない、これ以上前へは…………っ」
「ぐっ……!」
一人また一人と味方の冒険者たちが倒れていく。アレンたちはさらに窮地に立たされる。
ルマンドたちも同様で、かなり追い詰められている。
「っ!クィン!!」
赤い鬣ライオン型モンストールとの打ち合いに敗れて体勢を完全に崩してしまったクィンのところへ、後ろにいた紫のライオン型モンストールが牙を立てて追撃しにかかった。
牙がクィンを襲う寸前、アレンが身を挺してクィンをモンストールの攻撃範囲から逃がした。しかしアレンはその攻撃を避け切ることが出来ず、モンストールの牙がアレンの右脚に刺さった。
「あぐ…………っ」
「ア、アレンさん!!」
刺さった牙から黒い魔力が溢れてくる。闇属性が付与されているようだ。闇属性は体力と魔力を削る特性がある。
その牙をくらったアレンは、力が抜けていくのを感じてしまう。
「く……起き、上がれないっ」
深刻なダメージを負ったアレンはすぐに起き上がれないでいる。その彼女に紫ライオン型モンストールは大口を開けてそこに魔力を集中させる。
「まずいわ………“幻術”」
センがアレンの前に立ちはだかり、モンストールに「幻術」をかける。しかし嵌められたのはほんの数秒で、すぐに彼女たちに照準を定める。
「くっ、魔力が弱いせいで全くかかってくれない…!」
疲弊して地面に手をつくセンは忌々し気にモンストールたちを睨みつける。アレンはふらふらになりながらも立ち上がる。戦意はあるもののかなり重傷だ。闇属性による体力の大幅減少が痛い。
「く……“魔法剣”でどうにかっ」
「魔力光線」を撃とうとしているモンストールの前にクィンが「魔法剣」を構える。
(私を庇ってくれたアレンさんに代わって私がこの攻撃を凌がないと…!)
自分にそう言い聞かせるが、今の自分の力量ではあの攻撃を凌ぐのは絶望的だということは明らか。
「こんな、理不尽に…私は負けたくありません……!モンストール無き世界にする為に、ここで負けるわけには………っ」
剣に紅蓮の炎を纏わせてモンストールと同じくらいの炎の剣を顕現させる。全ての力を出し切って挑むつもりだ。
モンストールは闇色の「魔力光線」を放つ。徐々に向かってくる光線にクィンは涙を浮かべながら剣を振るう。
拮抗したのは5秒程か、クィンの炎の剣がかき消される。
数秒後には全員光線に焼かれて消される、そんな悲惨な想像をしたその時、
背後からさらに極太い光った「魔力光線」が、闇色の「魔力光線」を一瞬でかき消して、紫ライオン型モンストールをも消し去った。
「こ、れは……」
呆然とするクィンたち。アレンだけがどうにか後ろを振り返り、そして安堵した笑みを浮かべた。
「コ、ウガ…!」
脚を大怪我してふらふらになりながらも俺を見て嬉しそうに笑うアレンに、俺はしっかり応えた。
「お待たせ」