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「助けないワケ」2

 「アレンは、仲間想いで優しい子だ。アレンがああしたってことは、クィンのことも鬼族たちと同じくらいに仲間だって思ってるんだろうよ。アレンにもしっかりお礼を言わなきゃだな。“私のせいで傷を負わせてしまってごめんなさい”じゃくなく“助けてくれてありがとう”って」

 「そう、ですね…!アレンさんも私にとって命の恩人です」


 クィンは俺の言葉を嬉々として聞き入れた。話は終わり……かと思いきや、クィンはまた深刻そうな顔をして俺を見た。まだ何か言いたげだな。


 「さっきコウガさんは、他の冒険者の方々は助けたつもりはなかったと言っていましたね…。コウガさんはこの村に来るまでにもいくつかの町や村へ行って、侵攻してきたモンストールの群れと戦ってきたのでしたよね?」

 「ああ、ドラグニア王国へ向かったの以外の群れは、俺が殲滅しておいたぞ」

 「そのことは、兵士として感謝しています。ですがその……町や村にいた民や冒険者の方々は、どうなさったのですか?」

 「どう、とは?」


 質問の意味は分かってはいるがあえて尋ねてみる。


 「今回の私たちのように、窮地に陥っていた人々を助けることをしましたか…?」


 クィンはどこか縋るような感じで尋ねてきた。対する俺は淡々と答えを言う。


 「率先して人助けをする…なんてことはしなかったな。俺はただモンストールどもを討伐することだけに集中していた。その結果助かった奴らは何人かはいたが、正直どれだけ助かったのかは分からん」

 「…………本当に、あなたはただ、モンストールを討伐することに専念しただけだったのですね…」

 「エルザレスの屋敷で言った通りだ。“人助け”はしないって」


 (村や町の民を助けには行かねーけど、モンストールの群れと戦うだけなら、手を貸すぜ)

 (誰かも知らない奴なんかを積極的に助けようとなんて、俺は思わない)


 クエスト前に屋敷でクィンに言った言葉を思い出す。あの通りに俺は動いた。どの村も町も、顔も名前も知らない民や冒険者を意図して助けたことは一度もしなかった。

 俺の目はただ敵しか映さなかった。鍛錬の成果を試すことしか考えず、人命救助など全くの無視。屋敷で宣言した通りだ。


 「あの時言ったことは、冗談だと思ってました。そう…思いたかった……。けれど結局あなたは……あの言葉通りにしか動かなかったのですね……」


 クィンは悲しそうに俯いた。俺が人助けしなかったことがそんなに残念なことだったらしい。


 「やっぱり私は、コウガさんにはその圧倒的力を使って多くの人々の命を率先して救って欲しかったです。それだけお強いのならば、多くの誰かを守ることは可能だったはずです。たとえ敵が災害レベルだろうと……っ」

 「まあやろうと思えば出来たかもな」


 クィンはキッとこちらに視線を飛ばす。その目には悲しみと非難が込められている気がした。


 「もう一度あの時の質問をしていいですか?コウガさんは何故、他人を助けようとしないのですか?それだけの力を持ちながら…目の前に窮地に陥っている人がいても、そうしないのはどうしてですか?」


 その問いにあの時答えた通りに答えようと思ったが、クィンの目を見た俺は少し黙って考えて、あの時とはまた違った答えを言っていた。


 「見捨てられたから」

 「………!?」


 ポツリと出た一言を聞いたクィンは予想外といった反応を見せる。


 「俺は生前……ドラグニア王国での実戦訓練で誰も敵わないモンストールに襲われて、俺だけ逃げ遅れて……そして誰からも見捨てられた。まあそのことはもう話したよな?

 あの時思ったんだ、俺はまだ助けられたはずだろうって。よくよく思い出してみると、誰かが手を差し伸べてさえくれれば…俺はまだ助かったはずだったんだ」

 「コウガ、さん……」

 「けど……あいつらはそうしなかった。弱かった俺を切ろうって、あいつらは一致して俺を助けることを止めたんだ。わざとそうしたんだ。元クラスメイトだけじゃない、王族や兵士どもまで……!

 死んで復活した俺は思ったんだ……一緒に召喚された連中も、この世界の人間も、ほとんどがロクな奴じゃねぇって。実際そうだった。ここに来るまでの俺がどれだけ蔑まれてきたか…!どいつもこいつも人を見た目で判断しやがって。で、力を見せたら今度は異物扱いしやがる。俺をモンストールみたいな知性の無い化け物と同列にしようとしやがる。人族なんかは特にそうだ。民度の低いクズどもが…!」


 次第に感情的になってしまいつい声を荒げてしまう。その声を聞きつけた鬼族たちや他の冒険者どもが俺たちに視線を向けてくる。


 「そんなロクでもない連中を、俺が助ける?ふざけないでくれ。勝手に殺されてればいいんだ!俺を助けようとはしなかったこんなクソ世界の仲間でもない人間どもの命を助ける?やってられるか!」


 ギロリと、俺はクィンに怒りの目を向ける。それだけで彼女は萎縮した。


 「クィン、屋敷では俺にこんなことを言ってたな……“力ある者は力無き人々を助ける為にその力を使うべきだと考えている”と。そりゃけっこうな思想だ。お前はその考えを大事にしていけばいい。

 けどな……その思想を俺に押し付けるのはナシだろ?俺は俺の思うように動く。人を助けて欲しいなんて、俺には二度と言うな」


 クィンは何も言い返さなかった。ただ……俺に悲しげな視線を向けるだけだった。どこか俺を憐れんでさえ感じられる。周りの連中も何も言わないでいた。単に俺が怖いとかそんな理由だろう。

 俺は病院施設から出て行き、あてもなくぶらつくことにする。

 今のは、きっと八つ当たりなんだろうな…。この世界に来てから死ぬまでのこと、死んでからのこと。色々鬱憤が知らず知らずのうちに溜まっていたんだ。

 気にしてない、どうでもいいと口に出して心中でも呟いてみたものの、実際は気にしていて不快感もあったんだ。

 俺はけっこう神経質で短気なところがあるってことなんだろうな。んで、クィンに他人を助けようとしなかったことを咎められたことで、ついキレちまった。

 かつて遭遇してきたクソな冒険者どもだけを判断材料に、この世界の人族はクソだと決めつけている。それがとても視野が狭いことだってのは分かっている。けどそう判断せずにはいられない。

 人間ってのは善いところよりも悪いところを見て評価を決める生き物だから。



 翌朝。無人の家を借りて寝食を過ごした俺は、今日はどう過ごそうかなと考えながら外に出て、アレンの見舞いに行く。

 病院施設に入ってアレンと会話していると、クィンが俺たちのところへ来た。


 「コウガさん、あなたに依頼します。

 一緒にドラグニア王国に来て下さい。モンストールの群れの殲滅に力を貸して下さい!!」  

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