ドラグニア王国に、AランクからGランクのモンストールが多数群れを成して襲撃してきた。
その数は約30程。モンストールは群れをバラけることなく全員常に団結して進軍していた。
モンストールは仲間意識が無いものとして知られていただけあって、ドラグニア兵士団にとっても王国の上層部にとっても予想外で異常なものとされていた。
過去のモンストールとの詳細な戦闘内容を記した書物をしっかり読み通していたミーシャ王女ただ一人は、今回の敵の動きを予測できていた。
そのお陰で彼女による戦闘の配置は敵の進軍に上手く対抗できる位置となっていた。
敵の群勢を包囲するような配置で着いていた救世団および兵士団は、確認できる敵全てがその包囲網に入ったと同時に迎撃を始めた。
「死ねえええ!!“
「“
「“光の束縛” 今だみんな!!」
「よし!“爆裂拳”」
救世団はそれぞれ相性の良い者同士でチームを組んで団結して各配置場所からモンストールの群れを強襲している。
彼らによる突然の襲撃に対応できなかったモンストールたちはまともに彼らの攻撃をくらい、侵攻が中断される。ドラグニア王国の戦士たちの攻撃はそこからさらに勢いと激しさを増していった。
「おらぁ!飛んでけ俺の斬撃ぃ!!」
「あそこ!一体かなりダメージ入ったぞ!あいつから仕留めるぞ!!」
「あはははは!このまま何も出来ずに倒されちゃえ!!」
「これなら行ける……行けるぞ!!」
「攻めろ攻めろ攻めろぉ!!Gランクの群れが相手だろうと、異世界の恩恵をもらった俺たちの方が強いんだ!!」
攻めの姿勢を維持出来ていることに、ドラグニアの戦士たち、特にクラスメイトたちは活気づいていた。
実際、戦闘が始まってしばらく経ったところで、群れのうち一体を討伐寸前まで追い込んでおり、他のモンストールにも大打撃を与えることに成功している。
ミーシャが提案した戦闘配置の功績も大きい。一方のモンストールたちは集団で動いているため互いが邪魔になっている状態にある。さらにドラグニアの戦闘員たちにぐるりと囲まれているからどこから対処すれば良いのか判断出来ずにいる。
戦闘の序盤はクラスメイトたちと兵士団が優勢に立つ流れとなった。
「ははは!あいつら四方八方からの攻撃に対応出来てねーみたいだぞ!行ける、行けるぞ!俺たちがあんな化け物ども全部ぶっ倒してこの世界を救ってやるんだ!」
中でも大西グループの連中が特に調子づいており、攻めの手を緩めることなく一体にかなりの力を使っていた。兵士たちから出過ぎだと注意されても全く聞き入れていない。彼らの頭の中ではこの迎撃戦を終えた後のことしか考えていない。この国をこの災害から守ったという功績を楯に、より贅沢を尽くそうと、やりたいこと何でもやってやろうと。ただただ未来の悦楽のことしか考えていなかった。
ここにいるクラスの連中は皆、最初から逸脱したステータスを宿し、国からそれぞれの職業に適して優れた武器や装備を支給されて、そんなに苦労することなく強くなれてモンストール相手でもすぐにAランク以上の敵を討伐出来るようになれた。
彼らは最初の実戦訓練を除けば大した失敗をすることなくここまで来ている。モンストールも魔物も上位レベルなら全員簡単に討伐出来るようになっているから、彼らは皆「ああ、こんなものか」と思うようになっていた。
さらには国王や王子たちによる贔屓もあったことで彼は自分たちがこの世界で特に強いとより思うようになった。
言うならば苦労知らず。異世界召喚の恩恵のお陰で彼らは僅かひと月程でこうした災害と戦うステージに立っている。その間戦った敵はほとんどが上位レベルのものだった。
――それ故に彼らは知らないでいた。災害レベル以上の敵の本領を。
戦いの流れが変わったのは、ドラグニア軍がモンストールを九体討伐し十体目を標的に絞って攻めようとした時だった。
モンストールたちの動きが変わった。各グループによる攻撃を徐々に対処し始めてきた。
「なあ、あの化け物ども…俺たちの攻撃に対応出来てねーか?さっきみたいな手応えが無くなってきてる気がするんだけど…」
「実は俺もなんだけど…。あれ?さっきは仕留められてたはずの一撃が、あの巨大ゴリラ今度は防ぎやがった」
「はっ、この囲い込みからの一斉攻めに慣れただけじゃねーの!?次もっと激しく攻撃すればいけるっしょ!押せ押せええ!!」
クラスメイトたちは自分たちがまだ優勢であると信じて、攻撃を続ける。だがモンストールたちは彼らの猛攻にさらに対応していき、群れを散開させて数体ずつでドラグニア軍と対立し始めた。
始めはモンストールたちは突然の迎撃に対応できずただ固まるだけだったが、群れの数が減ったことでそれぞれ動きやすくなったらしく、あちこちに配置されているドラグニア軍対してこちらも2~3体ずつ分かれて…と対処するようになった。
「バカな…!?モンストールに戦術という概念があるはずが……!」
災害レベルだろうとモンストールには知能がないとされている……人族も魔族も、モンストールに対してはそういう認識を持っていた。しかしこの日、その概念が覆ることとなった。
「び……ビビッてんじゃねーよ兵士さんたちよぉ!?俺たち救世団が、負けるわけねーんだ!!」
大西をはじめとするクラスメイトたちは少し怯んだものの、自分たちの勝利を疑うことなく、真正面からモンストールたちと戦い始めた。
「ぐ…重……っ!?さっきは、これでぶった斬れたろうが……!?」
大西が魔力で切断性を増した両手剣を横薙ぎに振るったが、蜥蜴型モンストールの硬い鱗を切断することは叶わなかった。モンストールが剣に触れる寸前に、自身の体を防御系固有技能「絶牢」で守ったからだ。大振りでしかも攻撃を防がれたことで大きく隙をつくってしまった大西は蜥蜴に反撃される。
「く、そ……!おい鈴木!お前の軍略家の技能でこの蜥蜴野郎の弱点を暴け!!」
「ま、待ってよ!今はそいつじゃなくて別の奴のを分析してるんだから!」
「つ、かえねぇなぁ!?」