連携を上手く取れず攻めあぐねることになった大西たちは焦ってさらに攻めようとするが、モンストールたちに悉く反撃され始める。
「バカ、違うだろ!あの亀の甲羅に君の格闘術なんか全く役に立たないから僕と小林が魔法で……!!」
「じゃあさっさと前に出ろよ!何でお前がここにいるんだよ、邪魔だろうが!?」
「仕方ないだろう!?こっちも別の奴に攻撃されて逃げてるんだから!ほら、近接戦しかできない君の相手はそっちだ!!」
要塞を思わせる甲羅を持つ亀型モンストールとカンガルーのような姿をしたモンストールと対峙している里中たちは、今までに無かったピンチに陥ったことで仲間同士で揉める始末。
「く、そおおふざけんな!!おらぁ、おらぁ!!死ねよ!!」
「おい須藤!やたらに剣を撃つな!!全部弾かれてんの見えてねえのか!?」
「うるせえんだよ!!おいお前の剣も貸せよ早川!お前の武器で撃てばあのクソモンストールなんか刺し殺せんだろ!!」
「バカやめろ!俺の武器が無くなるだろうが!!」
狸型モンストールが全身に「魔力障壁」のようなバリアーを展開して剣の銃撃を全て防がれて頭に血を上らせた須藤は連携を崩してしまう。止めに入ったクラスメイトにキレる始末。
「何やってんだバカ!」「そっちこそ、あいつにその攻撃は効かねーって言っただろ!?」「ちょっと疲れたー!少し休むから下がらせてー」「はぁ!?こっちもそろそろしんどいけど戦ってんだぞ!?休んでねーで魔法を撃ち続けろよ!!」「ふざけんなよ、何でこんな……!!」「さっきまでは余裕だったじゃねーか!?」
戦場のあちこちから聞こえるのはモンストールのどう猛な声に加えて、冷静さを完全に欠いた若い男女の叫び声と怒鳴り声だった。王国全体から救世団と崇められ期待されていた戦闘組織のメンバーたちは、今この瞬間は戦士とはとうてい呼ぶことのできないただの高校生集団と化していた。
戦闘経験が乏しい故に、こういった窮地に陥るとすぐに冷静さを欠いて普段の実力が発揮出来なくなる……それが異世界召喚されて戦いの地へ赴き始めてからまだひと月程度しか経っていない彼ら3年7組の大きな欠点であった。
そしてその欠点は、戦場では致命的なものとなる。クラスメイトたちに代わって出撃した兵士団が次々倒されていく様を見たクラスメイトたちの戦意は徐々に低下していく。次第にモンストールたちに対して恐怖し始める者も現れ始める。彼らのうち一人が戦闘不能に陥ったことでその恐怖はさらに拡大されていく。
いつしか戦況は最悪と言わざるを得ないものとなってしまった。
「はぁ、まさかこうなってしまうとはな……」
「Gランクモンストールの群れを甘く見てしまったのか、あのガキどもがこちらの予想していた以上に不甲斐なかったのか」
王宮内でいちばん警護が利いている部屋にて、カドゥラ国王とマルス王子が大きな水晶玉越に戦場の様子を見ている。そしてその戦況を見た二人は失望した表情を浮かべている。
やがて二人とも椅子から立ち上がって、戦場へ赴く準備を始めた。彼らも元は兵士団に所属していて何度も戦闘を経験していた身。並みの戦士以上には戦える力を持っているのだ。
「あの中でいちばんマシなところから行くぞ。見たところ……オオニシがいるところがいちばんマシか」
「逆にあそこはもうダメかもしれぬな。兵士もほとんどやられてしまっている。あの者たちはもう切り捨てるしかありません」
「そうだな……。残念だが彼らには散ってもらう他あるまい。では行こうか、久々の戦場へ。お前たちも行くぞ」
動きやすい程度の重量の甲冑を着込んだ国王と王子は、部屋の外で控えていた兵士団を率いて戦場へ出るのだった。
「布陣が完全に崩れてしまっている…。このままではドラグニア軍が、敗ける……っ」
後宮にてミーシャも戦場の様子を水晶玉で見ていたが、彼女の表情は暗いものとなっていた。
「!お父様とお兄様も戦場へ…!?あの人たちが出ても果たしてこの戦況を覆せるかどうか……」
通信端末から報告を聞いたミーシャは深刻に思案する。彼女としてはこの迎撃戦はもう敗けてしまうだろうと諦め始めている。
しかし自分と母であるシャルネ王妃だけ逃げようとしてもそれが叶うこともまた困難だろうと考えている。
王宮にはほとんど戦える者が残っていない。残っている兵士たちと使用人たちとで国外へ逃げきれるのは絶望的だ。
「ミーシャ……私がいては邪魔になるだけだから、私だけを置いて部下たちとこの国から逃げなさい。あなただけでも、ここから……ドラグニア家の血筋を絶やさない為に……」
「それはダメですお母様!お母様を置いて逃げるなんてこと、私はしたくありません!」
ミーシャの断固とした主張にシャルネは困った顔で微笑む。同時に迫りくるモンストールの脅威を前にどうしたものかと深刻に考える。
(お父様たちには申し訳ないけれど、私たちだけでも逃げるしか…!命を懸けてでも他の大国へ亡命するしか!)
決死の決意をしたミーシャはシャルネを連れ出すべく、外にいる兵士たちに呼びかけようとしたが、
「あれは……誰なの、かしら……?」
シャルネがポツリとこぼした疑問の声に動きを止めてしまう。水晶玉のところへ戻りその中を凝視する。
「人族の、少年……?」
遠くから映っているせいで顔の特定が出来ないが、背丈からして少年らしき人間が一人、戦場に現れたのを確認した―――