「あー。まずはその勘違いから正すところから話す方がいいみたいだな」
「いったい、何の話でしょうか…?」
クィンの穏やかではない表情と俺のめんどくさそうな顔を見たミーシャは、嬉しそうな顔から不安そうな顔へと変えながら尋ねてくる。
「俺は死んでいる。あの日……テメーらに落とされた先…瘴気にまみれた地底で、モンストールどもに襲われてそこで力尽きて、死んだんだ。」
「………………………え?」
俺の言葉を聞いたお姫さんの顔が固まる。何を言われたのか分からないって顔だな。
「いいか?俺はあの地獄から生き延びてはいない。瘴気にまみれた真っ暗な地底で孤独に死んだんだ。死にたくないと呟きながら力尽きて死んだ。甲斐田皇雅はあの日確かに命を落としたんだ」
「………!………っ」
もう一度ありのままの事実を教えてやる。しっかり丁寧に、俺の最期のことも含めて。俺が死んだってことを聞く度にミーシャは顔色を悪くさせいき、やがて膝をがっくりと落としてしまう。
「死ん、だ………?カイダさんはあの時にもう………殺されてしまっていて……。命を、落としてしまっていて……」
「違うだろお姫さんよぉ」
お姫さんが力無く出した言葉の一部に反応した俺は切り込む。
「俺が死んだのは他でもない、テメーらのせいだ。テメーらが俺を殺したんだ」
「っ!!」
その一言を聞いたミーシャはビクリと肩を震わせる。
「だってそうだろ?あのクソ王子がモンストールごと俺を地底へ突き落せって命令したんだよなぁ?俺を…俺だけを生贄にした。兵士どもに地盤を魔法で破壊させて、脚を負傷して動けなかった俺を無情に切り捨てたんだ。テメーらが助かることを引き換えにして俺を落としたんだ。そのせいで俺は地底でもモンストールどもに襲われて、死んだ。間接的にテメーらも俺を殺したようなもんだろ。違うか?」
「……………」
「違わねーよなぁ。全て事実だ。テメーらはあの日、俺を生贄にして助かる道を選んだ。結果俺は殺された。この結果は覆らない、揺るがない。テメーとクソ王子、元クラスメイト全員のせいで、俺は死んだんだ!」
「…………っ!」
さらに言ってやるとミーシャの両目から涙が零れ落ちる。だから何だ?全て事実であり相違ない結果をこいつに教えてやっているんだ。耳を塞ぐことは許さない、現実を叩き込んでやる。
「ちょっとコウガさん、これ以上は……!」
やっぱりというか、クィンが止めに入ってくる。それをうざったく思いながらミーシャを見つめる。彼女は……泣いている。悲しそうに、絶望した顔をしていた。
「ごめんなさい、私が…あなたをこの世界に召喚したせいで、あなたの尊い命を落とさせてしまいました。取り返しのつかない過ちを……私は犯してしまいました。本当にごめんなさい、ごめんなさい……!」
「そうだな、テメーが異世界召喚なんて提案をしなければ、俺は今も元の世界で平和な生活を送っていたんだろうな。テメーがクズ国王どもに異世界召喚を唆しさえしなければ俺は死なずに済んだかもしれないのにな」
謝罪してくるお姫さんに俺はさらなる非難の言葉を浴びせる。しかし言葉とは裏腹に責めた口調では話していない。平坦な声、客観的に述べているって感じだ。実際俺は冷静だ。
確かにイラついてはいる。元の世界でやりたいことを沢山残したまま死んでしまったからな。その怒りはある。けど今は感情を出す気にはならなかった。
そのことを察したのか、クィンはそれ以上止めに入ろうとはしなかった。ただミーシャはそれでも謝罪を何度も繰り返し、自分を責めているみたいだが。
「カイダさん。どうかそれ以上は……。聞いた話なのですが、ミーシャはあの日……マルスが下した命令を取り消させようとしていたんです。カイダさんをまだ助けられると反対したそうなんです。ミーシャはあなたが落ちてしまうまで諦めてはなかったんです。どうかそれだけは分かって上げて下さい……」
「お母、様……」
王妃がベッドからそう言ってくる。ミーシャを擁護する発言に対し、俺はあっそと冷淡に返すだけだった。心底どうでもいいといった態度でいる。
「それじゃあ……カイダさんはどうして今、こうしてここにいるのですか?死んだということが本当なら、あなたはどうしてここに?まさか霊体化したのですか……?」
「そうだな、じゃあ俺が死んだって話は切って、次に移るか」