未だにショックから立ち直っていない様子のミーシャをそのままにして、再び彼女たちがまだ知らないでいることを教え始める。
「あの時あの地底で…俺は確かに死んだ。けどその後、気が付くと何故かゾンビっていう動死体として復活していた。今の俺は言わばアンデットモンスターってやつだ。こうして自分の意思をしっかり保っていられるのも、動くことができるのも、魔力があるのも固有技能が使えるのも何でかは全っっく分からないけどな」
「ゾン、ビ………動死体」
「ああそういえば、クィン以外の人間には俺が生前の状態で映ってるように細工してたんだっけ。ゾンビってバラした以上取り繕う必要はないな………ハイ」
ぱんと手を叩くと同時に周りにかけていた「認識阻害」を解除してやる。これでミーシャたちには今の自分の本当の姿を認識できるようになった。
「その、姿は……」
「これで分かったろ?俺はあの頃の俺なんかじゃない。肌の色も目も普通じゃない。さらには特殊な固有技能が発現したお陰でチート級に強い力を発揮できるようにもなった。ゾンビの力ってスゲーんだぜ?敵を捕食することでレベルを上げたりその敵の固有技能を略奪して自分のものにすることも出来るんだ。この能力で俺は成り上がってやったんだ。異世界召喚の恩恵をもらって浮かれているだけの勘違い野郎どもとは違う。こんなところでぬくぬくと鍛えていた連中と違って、俺は常に災害レベルの敵と戦い続けることで今の力を手にした」
ミーシャはたいそう驚いた表情をしていた。ゾンビってのはこの世界では全く確認されてなかった種類らしい。意思を持ち戦うことも出来る死体……まあ怖いよな。
「俺が怖くなったか?未知の化け物だと、俺をここに招いたこと後悔したか?」
挑発するように尋ねてみる。
「いいえ。カイダさんを敵だとは思ってません。非常に驚きはしましたが……あなたは私にとって命の恩人であり、味方だと思ってます」
「味方、ねぇ?」
ここで懐にあるアイテム「真実の口」を起動して、今の言葉の真偽を判定してみる。反応は…ナシ。嘘はついてない、本当に俺を味方として見ているらしい。俺は全くそう思ってねーけどな。
「だから……今回のことで、ちゃんとお礼がしたいのです。先程の謁見ではあんなことになってしまいましたが、私としてはカイダさんに恩返しがしたいと考えているんです」
ミーシャは俺をまっすぐ見つめてそんなことを言い出す。
「いやいや、恩なんか返さなくていいから。そもそもあれはここにいるクィン経由でのサント王国に依頼されたから仕方なく討伐しただけだし。テメーらに好かれたくてやったわけじゃねーから」
心底どうでもいいって感じに返事する。しかしミーシャは首を小さく振って言い募ってくる。
「それでも……何かさせて下さい!私はカイダさんに何もお礼をせずにこのまま帰したくはないんです。私が提案した異世界召喚のせいでこの世界で死なせてしまった償いもしたいとも、思っているんです!こんな私のことを助けて下さったことを、すごく感謝しているんです……!」
「知らねーよそんなこと……。はぁ、なんかめんどいことになってきたなぁ」
何かさせて欲しいと粘ってくるミーシャに溜息を漏らしてぼやく。つーか、彼女は何なんだ?生前の頃もそうだったんだが、俺に構い過ぎじゃねーか?
「なあ……ずっと気になってたんだけど。お姫さんはどうしてそこまで俺に関わろうとするんだ?どうしてそんなに俺にお礼をしたがってるんだ?他の異世界召喚組の連中と比べると俺に対してだけやたら構ってきた気がするんだけど。何か理由があるのか?」
「それは………っ」
思い切って訊いてみることにした。クィンや王妃もいるが関係無い。ここで答えを言わせよう。
ミーシャは急に赤面しだして王妃の方を見る。王妃は優しく微笑んでミーシャに何かを促す仕草をする。それを見たミーシャは決心がついたのか、再び俺の目を見つめながら近づいてきた。
「私は、体が弱い子として産まれてきました。武力に関しても才能・センスが全く無いものでした。そのせいでお父様から早々に見切りをつけられました。あの人は魔術に秀でたお兄様にしか目を向けていませんでした。他の王族の方々も、お兄様にしか期待しておらず、私はほぼいない者のような扱いを受けてきました。中には、陰で私をこう呼ぶ者さえいました。お飾りの王女。そして“ハズレ者”とも」
「…………」
最後の一言を聞いた王妃は悲しそうな顔をする。というか何の話をしようとしてるんだ?俺が口を開こうとした時、隣に移動してきたクィンに口を塞がれる。
(今は……ミーシャ王女様のお話を聞きましょう)
お願いするように囁かれたので仕方なく黙ってやる。それにしてもハズレ者……まさかこのお姫さんにもあんな蔑称をつけられていたとは。
「お父様に目を向けてもらいたくて、軍略を学び、同時に政治の道へ進み、数年後には軍略家としての才が認められました。けれど…お父様たちの対応は変わらずでした。私の案を聞き入れてはくれましたが、相変わらず私に興味が無い様子でした」
クズ国王どもは即戦力にしか興味無さそうだしな。圧倒的武力こそが強いと思い込んでいるクチだろう。その理屈は間違ってはいねーけど、それは俺くらいのレベルにならないといけない。それにしてもあんなゴミクズどもに目を向けて欲しかったなんて。子どもはやっぱ自分の親に構って欲しいものなのかねぇ?
「時々戦闘訓練にも参加してみたのですが、体が弱い私にはついて行くことができず、挫折しました。本当は、私にも戦える力が欲しかったのです。
そんな中、ひと月程前に実施した異世界召喚で現れた方々の中で唯一、まともな召喚の恩恵が与えられていない人と出会いました。
――カイダさん、あなたのことです」
今の発言には不思議と、嫌味が感じられなかった。お姫さんの一言一言に、悪意は一切感じられない。
「召喚後の謁見の時、退屈そうにしていたあなたを見た時、最初は何となく気になる人という感じでした。他の人たちと違った仕草をしていて、それがたまたま目に映って、可笑しくてつい笑ってしまって...」
初日の謁見の時か。俺だけ退屈そうにしてたのが目立ってたからあの時目が合ったのか。
「あの謁見で、あなたが強気な発言した時はビックリしました。いきなり召喚された身であったにも関わらず、立場や報酬を確立させようとするなんて、この人はとても賢いなぁって思いました。それからカイダさんのことがさらに気になったのです。晩餐会の時のこと憶えてますか?カイダさんとお話をしたいと思ってつい話しかけてしまいました。そして私が異世界召喚を提案したことも教えたのも、あなたが他の人たちとは違うってことを直感で悟ったからです」
「はは、それは間違ってねーな」
つい笑って反応してしまった。ミーシャも最初に会った時と同じように可笑しそうに微笑んだ。
「そしてその後、私は知ってしまいました。さんのステータスのことを。他の人たちと違って恵まれない能力値と職業であったこと。“ハズレ者”と呼ばれていたことを…。その翌日の訓練で、クラスメイトから乱暴されたことも」
少し暗い表情になる。クィンもどこか神妙な面持ちをして聞いている。
「ある時…休憩時間を使って、訓練場の様子を見に行った時、カイダさんが一人で訓練しているところを見かけて、その様子をこっそり見ていました。
才能に恵まれず、体が弱い私と、不十分な恩恵しかもらえなかったあなたに…私はあ親近感を抱いていました。同じ恵まれない者、ハズレ者と言われた者同士。私たちはどこか似ている……そう思いました」
「…………」
「けど、違ってました」
突然の否定形が入ったことに、俺は訝しげにミーシャを見る。
「カイダさんは、とても一生懸命だった。
弱いからという理由で諦めて折れた私と違って、あなたは諦めてなどいなかった。歯を食いしばって、這い上がろうといった姿勢で、一人で自身を鍛えていた。
あの必死に努力しているカイダさんの姿に惹かれました...!
あの頑張っている顔は、私に希望を、元気を与えてくれました!
私にできることを精一杯やろうって、強く思わされました!
カイダさんは、私にとって憧れの存在なんです!」