そこまで言い切って、ミーシャは一息つく。自分の胸の内を俺に全て明かしたことでスッキリしてさえいるように見える。
あの時の俺はただ悔しさと元クラスメイトどもへの怒りを動力源にして鍛錬していたに過ぎない。それを希望だの元気だのって言われてもなぁ。なんにしろ俺は彼女に何かしら影響を与えていたそうだ。
「まあまあ、やっと彼に自分の想いを伝えられたわね。良かったわねミーシャ」
「は、はい……。もう二度と会えないと思ってましたが、こうして伝えることが出来て良かったです……」
王妃は嬉しそうにミーシャに話しかける。ミーシャも嬉しそうにしている。
「言いたいこと言えて良かったな」
俺は無表情でそう言ってから、そういえばと思い出したかのように続きを話す。
「あいつら…元クラスメイトどもって、今はこの国には俺を除いても全員はいないよな?それに…あいつらの担任(副)もあの時いなかった。六人だったか?あいつらは他の国にでも行ってるのか?」
俺はもうあいつらのクラスメイトではないからあえて「俺たちの担任」とは言わなかった。そこには決別の意も込めている。まあどうでもいいが。
俺の意を読んだのかミーシャは一瞬悲しそうな顔を見せたが、すぐに引っ込めて答えてくれる。
「カイダさんが予想している通りです。フジワラミワさんはハーベスタン王国へ、タカゾノさんをはじめとする残りの五人はラインハルツ王国へ短期滞在しています。全員それぞれの地で他国とともにモンストールと戦ってもらっています」
あの先生だけ一人で行ったのか。最初の頃からチートじみたステータスだったから、今はもっと強くなってるだろう。一人で派遣されたのも納得だな。クラス生徒だって、他の四人は知らんが高園も元クラスメイトの中なら彼女が戦力が一番上だろう。実戦訓練の前は俺の次に訓練に励んでたようだったしな。
「………タカゾノさんとフジワラさんは、あの実戦訓練の後から必死に訓練や任務に励んで、強くなってからカイダさんを捜索しに行こうとしてました。カイダさんがまだ生存していると信じ、助ける為に」
ミーシャはいきなりそんなことを話し始める。あの二人が俺を捜しに行こうとしてた?助ける為に?
「……………何だそりゃ?そんなことをして何の意味がある?何考えてたんだがか………」
「本当のことなんです!」
ぼやく俺にミーシャがそう強く言い切る。その意外なアクションに俺は思わず黙ってしまった。
「けれど………カイダさんが落ちたとされているあの地底は、今の彼女たちでさえ耐えられないレベルの瘴気が充満していることから、そして………あれから半月近く経過してしまった以上カイダさんが生存している可能性はゼロに等しいだろうという周りからの圧力から………お二人はここから発つ前には、カイダさんの捜索および救助を諦めてしまいました…」
それが妥当だろうな。実際俺は死んだわけだし。まあ謎の奇跡でゾンビとして復活してるわけだが。つーかあれから半月も経ってから俺を捜索しにって…どうなのそれ?普通すぐに諦めるでしょ、そこは。
「フジワラさんとタカゾノさんは、あの日……あの実戦訓練でカイダさんが地底へ落ちてしまったことに対して深く悲しみ、あの時あなたを助けられなかったことをひどく悔いてもいました」
ミーシャは痛ましそうにそんなことまで話しだす。あの時、俺が落ちていくのをどいつもこいつもが助かったことに安堵して、嘲笑ってた奴すらいた。誰もが俺がいなくなることに大して惜しまなかったんだと、思ってた。
「真実の口」を起動して、ミーシャの今の発言の真偽を判定する。結果は………反応無し。彼女の言ったことは本当なんだと、改めて思い知らされる。
「今もきっと…カイダさんが生きていること、あなたが自力で地底から生還してくることを祈っていると思います。あなたのことを想っている人は、ちゃんといます!もちろん私も…!」
「……………」
ミーシャの言葉に俺は黙ることしか出来ない。言葉が出てこないのだ。そんな俺に、クィンが嬉しそうな顔をしながら囁くように話しかける。
「イード王国での食事の時のこと憶えてますか?私が言った通り、コウガさんがいなくなってしまったことを悲しみ嘆いた人がいることを。あなたを大切な仲間だと思っている人は絶対にいることを」
クィンの言葉にも何も言えないでいる。反対にミーシャがクィンの囁きに反応して嬉しそうにしていた。
「よく分からねぇ」
やっと出た言葉は、それだけだった。そんな俺を、三人は微笑ましいものを見る目で見てくるので居心地が悪くなった。
「はぁ………というか、もうこの密会はお開きにしても良いよな?今日話したことは後でクズ国王どもに話しても良いぞ。好きにすればいい」
「あ……待って下さい!ですから、私はカイダさんに何かしてあげたいと思ってるんです。本当に…何か欲しいものやして欲しいことはありませんか?」
帰ろうとする俺を、ミーシャは何かお礼をさせて欲しいと言って引き止めてくる。その行為に強制してる感じはないものの、縋ってきている感じがする。して欲しいことって……王女がそんな言葉を使って良いと思ってんのか?そこの王妃、あんたはこの子にどんな情操教育をさせてきたんだ?そういうところはちゃんとしないとだろ。
クィンはどうしますかって顔で俺を見てくる。ので俺は……
「特に思いつくものが無いので、いいです」
「カイダさん!?」
「あら…まあまあ」
啞然としているミーシャと王妃をそのままにして帰る素振りを見せる。クィンが困った顔のまま俺について行こうとする。
部屋から出ようとした…………その時―――
(―――何っ!?)
刺すような殺気を察知した……!
「ちっ!?クィン、そこから左に向かって全力で跳ぶか走れ!!」
「っ!?はい!!」
「きゃ……!?」
「えっ!?」
ミーシャと王妃を抱えて右へ跳ぶ。その直後耳を劈くような爆音が響いた。見ると俺たちがさっきまでいた場所が消し飛んでいて、巨大なクレーターができていた。
(間一髪だったな。「未来予知」のお陰でクィンへの警告も間に合った。ついでにこの二人も助けてやった)
両腕で二人を抱えながら反対方向へ回避したクィンが無事なのを確認する。そして砂埃がなくなると同時に今の攻撃の主を目で捉える。
そいつは……一言で言うならば、「化け物」。太古の昔に存在していただろう大型の恐竜と同じあるいはそれ以上のサイズの化け物だ。そしてそいつは、強い。
Gランクよりも強い。そうかコイツは…………
「Sランク、モンストール……!!」
クィンが戦慄した様子で、奴をそう呼んだ。