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「Sランクモンストール襲来」

 「何だ、何事だ!?」


 王宮内は騒然としていた。理由は単純、後宮が突然破壊されたからだ。その瞬間を偶然目撃した王族の一人がパニックを起こして騒いだのを他の何人かが気づいて騒ぎになった。それがカドゥラ国王とマルス王子にも伝わり、二人は後宮が瓦礫の山と化してしまったのを目にして愕然とした。


 「あそこには……母上が!それにミーシャも……!」

 「ぬぅ……!ブラッド兵士団団長!兵士団を率いて現場へ向かうのだ!これは新たなモンストールによる襲撃だと思え!」


 マルスは青い顔をして後宮跡を凝視する一方、カドゥラはブラッドに素早く指示を出した。二人とも先程皇雅による暴行を受けたことで顔に包帯を巻いた状態でいる。


 「国王様、シャルネ王妃とミーシャ王女の救出にも手を回した方がよろしいかと」


 命令を受諾したブラッドはカドゥラに二人の救出の意見を出す。


 「そうだな。シャルネは何としても救出せよ。我は救世団のところへ行く我が直々に命じた方が早いだろう以上だ、行動せよ」


 カドゥラはそれだけ言うとマルスを連れて部屋へ戻って行った。彼はシャルネのみを救出せよと命じただけでミーシャの名は一言も口に出さなかった。


 (王女様の身はどうでもいいというのですか。それにあなた方で王妃を救出しに行こうとも、思わないのですね……)


 ブラッドは内心そう呟きながら兵士団をまとめて、後宮の方へ向かった。



                  *


 (Sランクモンストール、ね)


 姿があらわになった敵……とてもデカいサイズのモンストールを見上げる。あの頭部や体躯からして、Tレックス型のモンストール………なんだと、思う…。

 判断が微妙な理由は、奴の見た目があまりにも“異様”なのだ。


 「何だこりゃ……マジの化け物じゃねーかテメー……」


 Tレックスの両肩からさらに一本ずつ腕が生えていて、頭にはたぶんトリケラトプスの角?が生えていて、さらにはその腹部には顔がもう一つある。完全にカオスだ。


 「ひ……っ」

 「う……っ」


 ミーシャは恐怖で声と体を震わせている。兵士であるクィンですら対面しただけで怯んでしまっている。普通基準では奴は十分にヤバいってことだろうな。Sランク……今までのモンストールと同列に考えない方が良いな。

 ……というかあのレベルのモンストール、実は一体だけじゃねーんだよなぁ。


 「備えろ、また来るぞ」

 「え………………きゃああ!?」 


 俺の警告にミーシャが反応しかけたその時、地鳴りが響いた。巻き添え対策としてミーシャと王妃を再び抱えて距離をとる。どうやら震源は俺たちのところじゃないようだ。


 「王宮か」


 予想は当たったようで、王宮の真横で大爆発が起こった。遠くから視認出来たのは、巨大な猿のような腕だった。次第に姿が見えてきて………案の定猿というかゴリラみたいなモンストールが現れた。


 「ゴリラ………いやオーガ?それらを足して割ったような………ようするに化け物か」


 まるでゴリラとオーガを合成して創られた化け物、あいつもSランクのモンストールだ。あの大穴からしてどうやら地底からいきなり掘り上げて現れたってところか。ゴリラ鬼型モンストールは王宮を睨みつけて、そこへ攻撃を始める。それを目にしたミーシャと王妃が呆然としてしまっている。


 「お父様とお兄様、が………!」

 「…………!」


 二人を地に降ろしても彼女たちはそこから動こうとはしなかった。いや動けない、が正しいか。あの化け物のところへ行っても一瞬で殺されると分かってるんだろう。

 王宮の一部が破壊されてからすぐ、兵士団が出てきてモンストールと戦いを始める。


 「何だよあの国王!無茶苦茶過ぎるだろ!?連戦なんて出来る調子じゃねーってのに………!」

 「俺たちのこと道具としか見てねーだろ絶対!決めた、今からでもここから出て行こうぜ!やってられねーよ!」

 「ひっ!?さっき王宮を壊したのってアレなの!?何あれ、前に戦ったモンストールたちよりもヤバそうなんだけど!?」


 そのすぐ後に、元クラスメイトどもがグチグチ言いながら王宮から出てきて戦闘に参加した。一人一人の言葉を拾って推察するからに、クズ国王が無理矢理出陣させたようだ。

 ゴリラ鬼がドラグニア軍と戦い始めてから数秒後、さらなる刺客が空から現れる。そいつは魔力光線を王宮のてっぺんを撃って破壊した。

 見た目はプテラノドンっぽいのだが、俺たちの前にいるTレックスと同じくらいにカオスな見た目をしている。異様に長く鋭く尖っている嘴とカメレオンみたいにギョロっとした大きな目玉、筋肉質な体躯と巨大な翼。その化け物は上空から魔力光線を撃って攻撃し続ける。

 さらにさらに、王宮へ向かっているモンストールが二体。ゴジラみたいな奴と、初クエストの時に討伐したエーレよりも一回りデカいサイズの鵺型だ。


 「あ……あぁ………!Sランクのモンストールが、5体も………っ」


 クィンたちはまるでこの世の終わりを見ているかのような絶望顔をしている。俺も今回は余裕綽々ではいられない様子だ。

 とはいっても5体のSランクモンストールに対して緊張しているわけではない。ここにまだ現れていない“何か”の気配に対して警戒しているのだ。


 (何だ…?ハッキリとは掴めないが、どこかに…。あの時……地底で遭遇したあの人型モンストールと同じ、あるいは本人の気配が………)


 「っ!コウガさん、こちらにも……!」


 クィンの警告を聞いて振り返る。始めに襲ってきたTレックス型モンストールが距離をつめてきた。俺たちを標的としている。やる気らしい。


 (まずは、目の前の敵だな。Sランクモンストール、どんなものかねぇ)

 「コウガさん、私は………」


 拳を固める俺にクィンが緊張した様子で話しかけてくる。


 「相手はSランクだ。一緒に戦える自信はあるか?」

 「………恥ずかしながら、足を引っ張るだけになるかと…」

 「なら、そこで二人の護衛をしてろ。奴は俺一人で討伐する」


 クィンは短く「はい」と返事して下がった。俺はTレックス型モンストールに近づいていき、奴と真正面から睨み合う。

 そして戦闘が始まる。Tレックスはその見た目と反してもの凄いスピードで向かってくる。本気を出したアレン並みかもしれない。

 だが俺の「瞬足」には及ばない。「複眼」で動きをしっかり見切ってやる。

 Tレックスが繰り出した右腕の爪裂き攻撃をひらりと躱し、がら空き状態の横腹に「硬化」を纏った左ボディブローを叩き込む。脳のリミッターは200%解除してある。

 腸を飛び散らせるつもりで殴ったのだが、数メートルくらい吹っ飛ばした程度に終わってしまう。Tレックスの身体を破壊することはできなかった。


 「Sランクまでくると、流石に簡単には殺せないか。久々に力をより解放できそうだ!」


 Gランクでさえワンパン程度で屠ってしまっていたが、こいつはそうはならなかった。そのことに対し、歯応えのある敵と遭遇したということに俺は嬉しく思ってしまう。

 もっと力を解放しても、この敵は倒れない。本気でぶっ飛ばしにいける。


 「ほぼ無限に強くなれる俺にどこまでついていけるのか、試させろ!

 脳のリミッター500%解除」


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