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「Sランクモンストール襲来」2

 今の俺の身体が耐えられるリミッターの解除率は、1000%くらいまでだ。それを超えると、身体がはじけ飛んで自滅してしまい、復活に時間がかかる。身体が完全に壊れないギリギリのところを見極めねばならない。

 今度は俺がTレックスに向かって駆ける。500%の「瞬足」の速度は音に並ぶ。Tレックスに俺の動きは捉えられていない。目はあまり良くないようだな。

 隙だらけの足元目がけてローキックを放つ。

 不意打ち同然の蹴りをくらったTレックスはその場でバランスを崩して前のめりに倒れる。

 その頭上から雷電属性の魔力光線を撃ち落とす。超高圧電流を纏った極太の黄色い光線がTレックスを貫く。雷鳴が鳴り響く中、Tレックスの断末魔の叫びが聞こえた。

 光線が収束する。その場にいるのは胴体に大穴が空いて感電状態で死にかけているTレックスだった。


 「もう終わりか……………いや」


 絶命したと判断しかけたその時、Tレックスは目をぎらつかせて急接近してきた。「縮地」を使ったか…!

 不意を突かれた俺は大口開けたTレックスの口の中に入ってしまう。そして思い切り嚙み砕かれる。


 (…!牙に拘束されて、動かねぇ)


 しかも牙から炎が発生して俺を焼きにかかっている。体がだんだん炭化していく、数千度あるぞこの炎。

 ゾンビなので灼熱の炎に怯むんだり焼け死ぬことはないが、強力な咬合力による拘束を解けないのはマズい。


 (仕方ない。リミッター600%解除)


 脳のリミッターをさらに100%解除して力を増す。まだ炭化していない左手で牙を握り潰して拘束を一部解く。続いて両脚に力を入れて強引に牙の拘束から脱出する。


 「ここから、出しやがれ!!」


 「硬化」を纏った左拳で閉じている口を思い切りぶん殴ってやる。するとグオオオ!!と、大音量が響いた。コイツ吠えやがったな、鼓膜破れたじゃねーか。

 口が開いたかと思ったその時、後ろからもの凄いエネルギーが俺を襲った。


 (光線を放ちやがった……!)


 魔力光線とともにTレックスの口の中から脱出する。咄嗟に「魔力障壁」を張ったお陰で体は炭にならずに済んだ。


 「腹に大穴開けたのにまだ動けるのか、しつけぇな」


 顔があった部分の腹を魔力光線で撃ち抜いたがまだ死んでいない。爬虫類の目をギロリと向けて、四本の腕から魔力を迸らせる。

 その腕全てから巨大な炎球を撃ち出した。こっちは両腕をバズーカ砲へと武装化させ、そこから水魔法で構成された砲弾を撃ちまくって、炎球を全て消し去った。

 続いてTレックスは「縮地」でこちらに迫り、四本の腕と頭の角、そして牙に真っ赤な炎を纏わせながら突撃してきた。


 (やっぱり物理攻撃が得意そうだな。だがそれは……俺もだ!!)


 両腕両脚を「硬化」させて構える。繰り出す技はオリジナルの武撃。


 “連繋稼働リレー・アクセル


 迫り来るTレックスを見据えながら自身の体内で力のパスが行われていることをイメージする。そしてTレックスが攻撃範囲内に入ったところでそのイメージを実現させる。

 後ろ足である左足を起点に力のパスを始める。左腿→股関節→右腿→右足へとパスしていくと同時に力を増幅させる。さらに腰→体幹→左肩→左肘→拳へと、増幅していく力をパスし続けていき、同時に体の旋回の準備も始める。

 Tレックスがグオオオと吼えながら燃え盛っている腕と角と牙全てをぶつける直前、胴体を素早く旋回させ、捩じりが加わった左正拳を放つ!


 “絶拳”


 ――――ドッッッッッッ!!!


 激突した末勝ったのは……俺の拳だった。

 俺の左拳は、Tレックスの頭部を跡形無く消し飛ばしていた。


 「ここまで力を使わせるなんてな。Sランクまでくるとさすがに強くて丈夫だったな。けどまぁ、エルザレスには及ばないレベルだ」


 Tレックスの炎がついて燃えてしまっている左手を消火してから死骸となったTレックスを「魔力光線」で消し飛ばす。

 これでまずは一体目か。死体を処理すると遠くで待機させているクィンたちのところへ戻る。


 「まさか……Sランクですらも一人で、しかも圧倒するなんて……!」

 「ま、まあまあ………こんな戦士初めて目にしましたわ……」


 ミーシャと王妃は完全に圧倒されている様子だった。若干引いている様子すら見てとれる。クィンも平静ではない様子だった。


 「エルザレスさんとの模擬戦で分かってはいたのですが、やっぱり次元が違い過ぎますね…」

 「やっぱそうなのか。まあさっきの奴の能力値は平均10000オーバーしてたしな。人族一人で敵うレベルじゃねーのは確かかもな」


 軽いノリでクィンにそう答えると彼女はやや顔を引きつらせる。Sランクの敵がどれだけぶっ飛んでいるのかを改めて実感したようだ。


 「カイダさん、二度も助けていただいてありがとうございます。私もお母様も無事窮地から逃れられました」


 ミーシャは俺に感謝の言葉を述べる。王妃も俺に頭を下げて礼を言ってくる。適当に返事してるとミーシャは続いて頼み事も言ってきた。


 「お願いです……王宮に侵攻している残りのモンストールも殲滅してもらえませんか?カイダさんしか頼めないし倒せないと思ってるのです…!」

 「コウガさん、私からもお願いします。あれを放っておけばドラグニア王国はもちろん、この大陸をもあれらに滅ぼされかねません。あなたに頼ってばかりで申し訳ありませんが…」


 ドラグニアが滅んでも構わないのだがアレンたちにも被害が及ぶのはダメだな。だからここは彼女たちの頼み事を聞いてあげよう。

 早速王宮のところへ行ったのだが、そこで俺が目にしたのは―――


 全滅しかけているドラグニア軍の無様な姿だった。


 「ふーん?兵士団はもうダメそうだな」


 状況は見た通り、最悪なものだ。兵士団はほぼ全滅、兵士たちによる守りが失った元クラスメイトどもが前に立って戦うが、敵のモンストールどもには全くダメージを負わせられていない。

 当然だろうな、今回の敵はSランク。Gランク相手に苦戦というか負けかけていた連中が敵うはずもない。


 「はぁはぁ……!こんな化け物に、勝てるわけない!!」

 「なんでだよ………なんでさらに強いのが襲ってくるんだよ!?ちょっと前に現れた奴らの倍以上強い……!」

 「勝てない………殺される!もう逃げよう!!こんなのと戦ってられるかよ!!」

 「そうだ!こんな国もうどうでもいい!!こんなところで死にたくない!!」

 「こんな化け物どこから世界を救うなんて馬鹿げてる!!早くここから離れてやる……!!」


 兵士どもがいなくなって攻撃も全く通用しないと理解した元クラスメイトどもは、完全に戦意を失くして逃げることを決意する。クズ国王への恨み言や泣き言を喚きながらモンストールどもに背を向けて逃走を始める。

 ああ…遅過ぎたな。逃げるなら奴らがここに現れた時点でそうするべきだったのに。戦力差をすぐに把握しなかったのは致命的なミスだ。大した力しか持ってない奴らは特にな。元クラスメイトどもにはそういう危機察知能力が皆無だ。だからGランクの群れ相手に醜態を見せるし、無謀にも俺に突っかかって返り討ちにされるし、そして今に至る。

 で、あいつらの逃亡を見逃すつもりは一切ない様子のSランクモンストール四体は、あいつらを追撃………殺しにかかる。

 その前にまだ残っている兵士団が狙われた。兵士どもは為す術も無いままゴリラ鬼型モンストールや怪獣型モンストールに無惨に殺されていく。


 「………っ!ここまでか……。救世団や国王様も恐らく殺されてしまう。無力な兵士団団長であった―――」


 ブラッド兵士団団長もあっさりモンストールに殺される。兵士団が殺されても俺の心は微塵も揺るがなかった。あいつらはまだいちばん弱かった頃の俺が訓練の相手を頼んでも断ったり、陰で俺を嘲笑ったり、命令とはいえ実戦訓練でモンストールごと地底へ落としたりと、俺にとって悪い奴らでしかなかった。そんな奴らが無惨に殺されようと何も思わない。死んだ?あっそ、って感じだ。

 兵士団を全滅させたモンストールどもはやはり逃げ出した元クラスメイトどもを標的に定めて、襲い始めた。

 俺はというと……ただ黙って突っ立っているだけで何も行動しなかった。


 「コウガさん?どうして……討伐しに行かないのですか!?早くしないと、彼らが……!!」


 いつの間にかクィンが少し離れたところに来ていて遠くから俺にそう言ってくる。護衛しやすくする為かミーシャと王妃もいる。


 「うーん、ここからじゃよくは見えないな。もう少し近づくか。おいクィン、これ以上は近づくなよ。モンストールどもに気づかれて襲われることになるから」


 彼女たちにそう言ってモンストールどもにさらに近づいていく。


 そしてついに、あいつらにとって地獄の時間がやってきた――


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