要塞と化している怪獣を見据えたまま、武の構えを取る。意識を集中させて体内で力をパスさせていく。今度はさっきとは違って、細かくパスを繋げていく。手と足の指に至るまでパスを繋げ力を大きく、強くしていく…!
左足をスタート地点にして、左脚(ふくらはぎから腿へとさらに細かく分けて)→腰→胴体→右脚(以下略)→右足へと、土台をパス強化。
そして同時に、上半身も右手をスタート地点にして、右腕(前腕と上腕へと細かくパス)→右肩→腹(右腹斜筋から腹直筋・左腹斜筋へと!)→左肩→左腕(以下略)→左手へと!
パスが完全に繋がったところで仕上げに右足をダンと地面にめり込むくらいに踏み込んで、体を小さく素早く旋回させて、本気を込めた左拳を放つ!
“絶拳”(700%本気バージョン)
甲羅に当たると同時にヒビが入り、亀裂が広がっていくと同時に拳が甲羅の先へ深く入っていき、そして甲羅が粉々に崩れるとともに怪獣の胴体に拳がめり込み、破壊していく。
俺の拳に耐えきれなかったか、怪獣の胴体がボォンとド派手に爆裂した。ボトボトと肉片が落ちていく音を聞きながら今の一撃からの残心をとる。
今の一撃……エルザレスと戦った時に放ってたら、アイツを殺していたかもしれない。リミッターを今までいちばん外してたし、本気を込めてたし。
チート化した俺が本気を出したのだから、Sランクだろうと関係無く一撃粉砕に成功。怪獣はとっくにただの肉塊と化していた。
「あー。全部捕食してから殺せば良かったな。まあいいか。経験値は入ってるし」
「略奪」で固有技能を奪うことを失念してしまったことを少し悔いながら怪獣の肉塊を焼き消す。
突如現れたSランクモンストール五体は俺は全て討伐した。その際被った被害は、ドラグニア王国の兵士団が全滅、そして……救世団こと、元クラスメイト29名が全滅、と。
とりあえず王宮へ行ってみようか。モンストールの死骸が一つも無いことを確認してから移動する。
ほぼ崩壊してしまっている王宮へ戻るとクィンたちもそこにいた。
「コウガさん、どういうつもりですか……!?」
「いったい何のことだ?」
顔を合わせるなりクィンがちょっと怖い剣幕でそう言ってくる。言いたい内容は分かってるけどあえて惚けてみせる。
「どうしてあなたと同じ異世界の人たちを……助けなかったのですか!?遠くからだったのでハッキリ見えてはなかったですが、あなたは彼らがモンストールに殺されていくのをただ見てるだけでした………違いますか?」
「ああ、その通りだ。あいつらは窮地に陥り、近くを通りかかった俺にみっともなく救いを求めてきた。俺はそれを断り、あいつら全員を見殺しにした。生き残った奴はいない。あそこからここへ帰って来たのは俺一人だけだ」
クィンの問い詰めに対して俺は淡々と答える。
「何故助けなかったのですか!?コウガさんの実力なら四体のSランクモンストールが相手だろうと、救世団……異世界の方々を守りながら戦えたはずです!ですがあなたは守るどころか……何もしないで彼らが殺されていくのを見ていただけ……!
何故あんな酷いことをしたのですか!?あの人たちは、コウガさんの仲間――」
「仲間じゃねーよ」
「………っ!?」
俺があいつらの仲間?それだけは言わせねー。咄嗟に冷たい感情を乗せた声で否定する。クィンはもちろん、彼女の傍にいたミーシャさえも怯む。
「俺の生前のことはもう知ってるんだったよな?だったら分かるだろ、俺とあいつらにはもう何も無いってこと。数時間前も、俺とあいつらとのやり取りを見たお前なら分かるはずだ。仲間じゃねぇ、
「コウガ、さん………」
「どうしてあいつらを助けなかったのか、か。助けるわけねーだろあんな奴ら。学校では俺を除け者にして陰湿な嫌がらせもしてきて、この世界で力が逆転した途端俺を囲って暴力振るって、見下して蔑んで、そして嘲笑いながら見捨てて見殺しにした………そんな連中を何で助けなきゃならねーんだ?」
「………………」
「俺は嫌だね。たとえ金を積まれても助けない。俺があいつらを殺すことはしないがそれだけだ。あいつらを守って助けるなんて、俺に何の見返りも得も無いことはしねーよ。だから見殺しにしたんだ。今まで俺にだけ対して酷い仕打ちをしたことを後悔させながらモンストールどもに殺されてもらった。
理解はできたか?俺があいつらを見殺しにした理由を」
「そんな………それでも、あなたは助けるべきでした!そうするべき……だったんです……!」
やっぱりというか、納得はしていない様子のクィンは怒りと悲しみが混じってそうな声で途切れ途切れにそう言った。
「カイダさん。Sランクモンストールを討伐していただいたことには感謝しています。再び私たちを助けていただきありがとうございます」
黙ってしまったクィンに続いて今度はミーシャが話しかけてくる。モンストールどもを討伐したことに対する礼を言うだけかと思ったが、まだ何か言いたそうだ。
「ですが………私も、カイダさんには異世界召喚組の方々の命を救って欲しかったです。確執があったとしても……それでも……」
「お前も同じようなこと言うのな」
「あ………」
特に相手にする気はないから雑に返事をしてミーシャから離れて会話を終了させる。ミーシャから悲しみの意がこもった視線を感じる。ちらと見ると王妃も複雑そうな表情をしていた。
(あーあめんどくせ。ゾルバ村へ戻るか)
Tレックス型モンストールと戦う前に感じ取った“何か”のことは気になるが、現れない以上はもういいだろう。
そう考えていた、その時―――
「あの同胞たちを一人で難無く殺し尽くしたか。あの時からさらに力をつけたようだな。さすが、俺の肉を喰っただけはある。
なあ、興味深い人族の男よ!」
「――――っ!?」
その声は…上の方から聞こえた。
そしてその声には…聞き覚えがあった。
地底でゾンビになってから最初に遭遇した……
即座に声がした方へ顔を向ける。そいつは王宮のてっぺんに座っていて、俺が姿を視認したことに気づくと王宮から降りて俺たちと同じ地に立つ。
「テメー、は……!!」
「あの時喰った俺の肉は美味かったか?興味深い人族の男」
人型のモンストールは、初めて遭遇した時と変わらずヤバいオーラを出しながら不敵に笑いかけてきた―――