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「俺が要求すること」2

 こうして、俺が日本へ帰る算段は少し進んだ。

 ミーシャ・ドラグニア。彼女は“有能”だ。彼女は異世界召喚を提唱して実現してみせた。

 今のところは“異世界からここへ呼び出す”しか実現できていないが、彼女なら時間をかければ“この世界とは別の世界へ飛ばす”ということも実現できるだろう。

 そう見込んだから彼女に協力させた。こっちがいくつか妥協することを条件にな。そこまでするだけの価値が、彼女にはあるってわけだ…。


 「コウガさん、そしてミーシャ王女にシャルネ王妃。お二方の衣食住のことは心配ありません。国王様はお二方を必ず厚遇なさります。国王様はそういうお方ですから。ただ…国の機密云々についてはその、保証しかねますが…」


 クィンは俺というかミーシャと王妃にそう言って安心させる。サントの国王は知らんが、クィンは正義感と人情に厚いお人だから、たとえ国王に反対されても何とかしてくれるだろう。そう予測してああいった要求を突き付けた。狙い通りに動いてくれそうで何よりだ。


 「コウガは………やっぱり元の世界に帰りたいと思ってるんだよね?」


 クィンとミーシャとの話をつけたところに、アレンがそう言って割り込んでくる。その顔には少し寂しさの色が見える。


 「ああ。さっきも言ったが元いた世界ではやりたいこともやり残していることもまだたくさん残っている。あっちの世界での方が、未来があるんだ。死んだ身だがそれでも帰りたいと強く思っている。この考えは絶対に覆らない」

 「そっか……………。コウガにとっては、そこが本当の居場所なんだ…。元の世界へ帰ることが、コウガにとって幸せになれる……んだよね?」

 「ああ、その通りだ」


 迷うことなく答える。それを聞いたアレンはまた寂しそうにする。見ればクィンとミーシャも同じような表情をしている。センとルマンドに至っては「そんな!?」って言いたそうにしている。何でそんな顔を……なんて問いはしないし思考もしない。彼女たちの気持ちまで加味することはしない。それこそ知るかってんだ。アレンには悪いけどな。


 「お姫さん、異世界召喚を提案してからそれを実現させるのにどれだけ時間がかかったんだっけ?」

 「約………五年はかかりました。ただ、当時は異世界召喚という術式を完成させる研究から始めた為、そのせいで長い時間がかかりました。けど今は、その術式を完成させる方法は既に知っているので、あとは人さえ集まればもっと早く実行が可能になると思います」

 「土台が既に出来上がってる状態って感じか。その土台作りに当時は長い時間をかけたんだな?だったら…………」


 一瞬考えてから、元の世界へ帰してもらう日の期限を決める。


 「半年だ。テメー……お前がサント王国へ移って色々落ち着いて、サントの人間どもからの協力を得てからで良い。魔術を完成させる作業に取り掛かり始めてから半年で、それを完成させて俺を帰らせろ」

 「………!」


 ミーシャは何に驚いたのか、何故か頬を紅潮させながらビックリしていた。


 「…?そういうわけで、やってくれるよな?」

 「はい……はい!頑張って成功させてみせます!コウガさん!!」

 「……………(名前呼び?)」


 急にやる気を出したミーシャだがまあいい。やる気になってくれて何よりだ。


 ところで、半年という期間を決めた理由はもちろんある―――


 (次は、そうだな…………半年程後になるかもな)


 やっとのことで退けたチート魔人・ザイート。奴のあの引っかかる発言が脳裏にこびりついている。奴はこれから“準備”に入るのだろう。今度は万全な状態になってから表舞台に立つつもりでいる。それを実現するには恐らく………半年後にもなる。

 奴が万全状態になる前にこちらから出向いてぶっ殺せば良いって思うんだが、奴は自分と同じクラスの魔人がまだ数人いるみたいなことを言っていた。そいつらの巣窟へ今の俺が行っても返り討ちにされて消される、たぶん。

 残念だが今すぐは奴を潰しには行けない。俺自身も今よりもっと強化させる必要がある。俺も“準備”に入る必要がある。


 「―――ん?」


 そんな考え事をしていると、こっちに向かってくる気配を感知した。これは……強いな。けど竜人族や魔人族といった類ではないな。こっちに近づくにつれて種族が分かった………人族だ。だが誰なのかはまだ分からない。

 気配がする方へ、俺は歩き出す。それを見たアレンやクィンはどうしたのかとついてくる。


 導かれるように歩き続けること五分、その人物の正体が明らかになる。

 俺も、「彼女」も予想外のあまりに目を見開いて見つめ合ってしまった。

 そして、彼女が先に口を開いて、俺を呼んだ。



 「甲斐田、君………!!」










 藤原美羽。


 元いた世界、日本の京都府にある府立桜津高等学校では俺のクラスの副担任を務めていた女性。

 そんな彼女と、ここで再会した―――


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