何だか久々にきたな、こういう絡み。久しぶりとはいえやっぱり不快だ。アレンも不快そうにこのクソどもに敵意を孕んだ視線を向けている。
「騙るも何も、正真正銘俺がそのオウガで、彼女が赤鬼なんだけど?」
「“僕がオウガで彼女が赤鬼なんです”だと?まだ惚ける気かこの嘘つきどもが!!あの二人に顔写真が世に出回ってないからってお前らがあの二人だっていう根拠があんのか?そこの小娘はかなり出来るとはいえモヤシ、お前に至っては何も感じないってのはどうなんだ!?冒険者ですら怪しいじゃねーか!!」
モヤシ呼びしてくるクソ野郎の言い分に他の奴らもそうだそうだと囃し立てる。次第に遠巻きに見ている冒険者どもも俺たちに疑いの目を向けてくる。ギルド職員どももこちらを注目している。
「何も感じない」ということが異常だってことがこの愚物どもにとっては常識じゃねーのかよ。
「おい、今回は見逃してやる。名を騙った罰としてその報酬金を受付に返してこい。そしてお前が連れている女全員俺たちのところへよこせ。よく見ると全員かなり良いじゃねーか。鬼の亜人ばかりだが男以外全員良さげだ!」
そして意味不明で不快な要求をしてくる。藤原もこの発言にはカチンときたらしい、見るからに不快げだ。
「全身の骨を砕いてやろうかしら」
後ろからガーデルがそんなことを言い出す。そうしてもらうとスカッと出来そうだが後々面倒事になりそうだから、ここは俺が出ることに。
袋から金貨を数枚取り出して、それらを思い切り握ってみせる。
何回か金属がぐしゃりと潰れる音がする。数秒後手を開く。そこには、砂金と化した金貨の残骸があった。
「「「「「――え………??」」」」」
絡んできた冒険者どもと遠巻きに見ていた奴らとギルド職員どもは全員、嘘だろと言いたげな間抜け面でその様を凝視した。
どうやらこの世界における金貨の硬質は、攻撃力4桁の力で叩きつけたり握り潰そうとしてもビクともしないくらいの硬度をもっているらしい。それが素手で砂粒になるまで粉々にされたのだから、こいつらにとっては驚天動地な現象だったろう。
「で?誰が嘘つきだって?俺の仲間たちを何口説こうとしてんだ?」
感情が無い目と平坦な声のまま冒険者どもに威圧する。ギルスも前に出て殺気を飛ばす。ギルスの実力ならこいつら全員一人で潰せるくらい余裕だろう。
さらにアレンも体に雷の魔力を纏わせて威嚇をする。それらに当てられた冒険者どもは真っ青に震え上がるも、引けなくなった様子で虚勢を張る。
「はっ、少しは出来る奴ららしいじゃねーか!?そこのモヤシも素手で金貨を握り潰すとは大した力じゃねーか!?だが、どうせそれだけだろ!?なぁ―――」
耳障りな強がりを遮り、俺をモヤシ呼びしやがるクソ冒険者の頭を掴む。
「もぅが!?(み、見えなかった…!)」
そして掴んだ手から炎と風を発生させて、そのキモい顔面を燃やして刻んでやった。
「ぎゃああああああああああああああ!?!?」
モヤシ呼びしてきたクソ冒険者は悲鳴の絶叫を上げて藻掻いていた。汚いので扉を開けて、外へ投げ捨てた。ドォンと音を立ててそいつは倒れ伏した。
まだ腹の虫が治まらない俺は、残りの冒険者に感情の無い目を向けて制裁をくわえるべく近づく。全員顔を真っ青にさせて俺から逃げようとする。が、奴らの後ろにアレンとギルスが立ち塞いで退路を断った。
絶望する残りの冒険者どもに魔力を纏った拳を向けようとしたところに、藤原が俺の前に立って止めに入った。
「甲斐田君、やり過ぎよ。力を見せる為とはいえ、戦意の無い人たちにそこまでする必要はないでしょ?」
生徒を叱る先生のように(実際そうだが)俺を諫めてくる。その姿がクィンと被って見えてしまい、俺は萎えた。
「私たちの為に怒ってくれたのは嬉しいけど、過剰な暴力はダメよ。オウガ君は物凄く強いんだから、力をむやみに使うのは感心しないわ」
先生らしく注意する彼女に、俺はすっかり毒気を抜かされ、冷めた。アレンとギルスも俺の様子を見て気配を元に戻した。アレンは俺が藤原に注意されている様を驚いた顔で見つめていた。
「あの、そういうわけでして。彼はオウガ君で彼女は赤鬼さんです!彼らもついカッとなったところがあったので、ここは穏便に済ませましょう?
皆さんも、お騒がせしてしまいごめんなさい!」
藤原は絡んできた冒険者どものフォローをして、他の奴らに騒がせたことの謝罪をして回った。大人ってたいへんだなーと思いながら俺は彼女の姿を見ていた。
「っていうかあの女性って、フジワラミワじゃね?」
「あ!あの異世界召喚された…!」
「先日モンストールを大量討伐してくれた最強のヒーラーじゃねーか」
しかし今度は藤原を認識したことでギルド内はまた騒がしくなった。モブどもが藤原に駆け寄り話しかけてくる。
藤原が困ってしまったところで、扉を勢いよく開ける音がした。
「夜だというのに随分騒がしいな今日は。何事だ?」
そう言って入ってきたそいつは、煌びやかな装備をした大男だ。顔年齢は20代といったところ。さっき絡んでいた連中よりはステータスが高いな。
「ん……?おお、そこにいるのはミワではないか!?」
大男は藤原の姿を見るやいなやのしのし歩み寄って彼女に接近する。
「あの大男、知ってるぞ。王族でありながら冒険者稼業もやっている戦士、ダグドだ」
「冒険者ランクはB。国内では指折りの実力者だ…女癖が悪いのも指折りクラスだってな」
「こないだもここにいた冒険者の女を寝取ったらしいじゃねーか…」
周りの冒険者がダグドとかいう大男についてのクソな情報をヒソヒソと話すのを聞き取る。そうか、コイツもロクな男じゃねーみたいだな。もしこのままさっきの奴らみたいな絡みをしてくるようなら、潰すか。
「あ………ダグドさん。しばらくぶりです」
「ははは!我のことは呼び捨てで良いと前にも申したではないか……ん?」
大男は藤原からアレンに視線を向ける。するとまたもうるさい声を上げる。
「ほう、これはまた我の好みな女がいるな!?そこの、名は何と言う!?」
「………名前、赤鬼」
「赤鬼?それはコードネームか?我が聞いてるのは本当の名前だ!申してくれよ!我はダグド、コードネームは“牛鬼”!冒険者ランクBでもうじきAに昇格する予定だ。ネームに同じ“鬼”入ってる者同士、相性良いのではないか?なに、我は女の扱いには慣れてる。まずは一緒に飲もうではないか!ミワよ、君も今から付き合え!せっかく戻ってきたんだ、今日は我の屋敷へ泊っていけばいい!」
このクソ大男、俺らを無視してアレンと藤原を飲みどころか泊まりまで誘ってやがる。随分ふざけたクソ野郎だ。
なので二人の前に割って入って野郎を睨む。