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「俺はいつも通りに制裁を下す」2

 「ああ?何だ貴様は?今は二人に話しかけているんだ、どけ」

 「テメーこそいきなり現れて何ふざけたことほざいてんだ?この二人は俺の旅の仲間だ。俺の断り無しに誘ってんじゃねーぞ?まあ断りしに来ても拒否してたけどな」


 俺の発言にギルド内は騒然とする。俺のこのクソ大男に対する言葉遣いがマズいって感じの空気だ。どうでもいいが。


 「貴様……!我を高位な貴族だと知っての無礼か!?そんな貧相な形をした分際で、我の邪魔をするなァ!!」


 短気を起こしたのはクソ大男が先だった。野郎は俺の顔に鉄鋼の装飾が施された拳を入れてきた。ゴスッと鈍い音がギルド内に響き渡り、緊張した空気となる。


 (―――ブチッ!)


 俺はついに切れた。

 拳が顔にめり込むも俺に痛みが無ければ顔に傷もついていない。俺の物理防御力ならこんな雑魚の拳などダメージにもならない。

 俺がよろめきもしないことにクソ大男は不審がる。藤原が焦った様子でいる。言いたいことは察するがダメだね。もうコイツを潰すって決めたから。

 さっきもそうだが、俺の仲間…特にアレンに対して下卑た絡みをしたことに俺はさっきからかなり頭にきている。


 「先に手を出したのは、テメーだからな?」

 「はぁ?それが何だ!まだ退かないならここで斬り伏せ――」


 クソ野郎が何か言い終える前に、野郎の右拳を武装化した刀できれいにスパッと切断した。

 しばらく沈黙が訪れる。皆誰もが…斬られた本人ですらも何が起こったのか理解が追い付いていないせいだ。


 「あ……ぎゃああああああああああああああああああああああ!!?」


 沈黙を破ったのはこのクソ大男の悲鳴じみた絶叫だ。次いで女性らしき冒険者どもが悲鳴を上げる。やがてギルド内がさっき以上に騒がしくなってしまう。

 藤原がやや青い顔をして俺に何か言いにこようとした時、ギルド内に入ってくる兵士が二人現れる。


 「ダグド様!?何てことだ!!」

 「貴様がやったのか!?この方を知っての狼藉か!?」


 ハーベスタン王国の兵士か。それもこのクソ大男のお付きの兵らしい。二人を無視して、右手首を押さえて荒ぶっている野郎のところへ立ち見下す。


 「はぁーはぁー!?貴様ぁ!わ、我をぉ!誰だと思ってるのだぁ!?この国の、王族でぇ時期冒険者Aランクの有力者だぞぉ!!我に、こんなことして、た、ただで済むと思って――」

 「うるさいクズが」


 スパン!今度は左手を斬り落とした。


 「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!?!?」


 両手が無くなった両腕を絶叫して涙を流しながら凝視するクソ大男。


 「い”、痛い!痛いい”ぃ!!我の手が、あぁあ”!!」

 「ホントうるさいなテメーの声は。そんなに痛いか?なら楽にしてやるよ」


 そう言ってクソ大男の頭に手を置いて、重力魔法「斥力」をとばして、野郎をいきおいよく床に叩きつける。衝撃のあまりにクソ大男は意識を失って倒れ伏した。


 「殺さなかっただけでなく激痛地獄からも解放してやっただけ優しいと思えよ?テメーみたいなクズ野郎なんか死んで良いところ」だったんだぞオイ」


 気を失ったクソ大男を見下しながらあえてそう吐き捨てる。それにしても国が衰退してるとこういうクズが横行するようになるのか、元々権力ある奴はこういうクズしかいなくなるのか、どちらもか。


 「よ、よくもダグド様を!?」

 「大至急王宮に報告を!そしてこの大罪人を捕らえろぉ!!」


 動揺しつつも命令を出して俺を捕らえようとする兵士ども。それは悪手だろうが、蟻ンコども。


 「何をそんなに怒ることがあるんだ?このクズは、武力と権力があるのを良いことに散々威張り散らして、剰え他人をたくさん害してきたんだろーが?己の下らない欲求を満たす為に平気で他人のものを奪い汚してきたゴミカス野郎だ。こうなって文句あるまい?」

 「ぐ……ダグド様は性格に難あるお方ではあったが、彼無くしてはこの王国をモンストールの脅威から少しでも守ることはできなかった!この国が生きながらえていられるのも彼のような実力者がいてこそ!そんなお方に貴様はなんてことを――」

 「あー分かったもういい。言いたいことは分かったから。それを踏まえて俺は言うぞ?

 知るかボケ!何よりこいつは、俺を不快にさせて害し、さらには俺の仲間にちょっかいまでかけやがった!殺してやりたいところだがこの程度で許してもらえるだけありがたいと思えばぁか!!」 


 俺の言い分に兵士二人も他の冒険者どもも呆気に取られてしまう。ガーデルやギルスは小さく笑い、センとルマンドも苦笑いしている。さっき絡んできた冒険者どもは慌ててギルドから出て行って逃げていた。


 「甲斐田君!!」


 するとここで藤原が怒った様子で俺にそう詰め寄ってくる。


 「だから実名で呼ぶのは――」

 「そんなことは今はどうでもいいでしょ!さっき言ったばかりなのに、君は何てことを!!」


 俺にそう怒声を浴びせてからクソ大男のところへ駆け寄り、切断された両手首の断面に手を当てる。


 “回復”


 淡い光とともに野郎の手首から手が生え……いや、手が再生されていく。俺がこれまで見て来た藤原の「回復」は傷を治すくらいしかなかったが、ああやって欠損した部位を再生して治すところは初めてみた。


 「これで良し。あの、仲間が大変な無礼をしてしまい本当に申し訳ございませんでした。ダグドさんの両手はもう完治してますので」

 「あなたはフジワラミワ殿…!治していただいたことには礼を言うが…」

 「そこの少年をこのまま帰すわけには………なっ!?奴はどこへ!?」

 「え……あれ、甲斐田君!?」


 ギルド内から聞こえる藤原や兵士たちの焦った声を背に受けながら俺は一足先に宿へ向かっていた。


 (悪いな藤原、説教なら宿部屋で聞いてやるよ)


 そう心の中で詫びるのだった。


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