「話が、あります」
カミラは真剣な眼差しで、しかしどこか照れた様子で俺を訪問してきた。
「あんたも話を?」
「うん、私も同席してほしいって言われたから、私も混ざるね」
藤原はカミラに優しげな視線を向けてそう返す。とりあえず二人を部屋に入れる。アレンをベッドでくつろがせながら俺は話の場を整える。
「で、話とは?」
前置きは不要だと断りを入れて早速本題に入らせる。
「………まずは、カイダさんにこれまでの私のことを知ってほしいのです」
「何で?」
「それは………漠然とした理由なんですが、あなたに話しておきたいとただそう思ったからです」
「ふーん。分かった、聞くよ。暇だし」
そしてカミラは自分のことを話し始める。
武家の子でありながら武の才能がなく軍略家の才しかなかったせいで周りから冷たく扱われたこと、両親しか心の支えがなかったこと、軍略家として大成しても疎まれ妬まれてばかりだったこと、心の支えだった両親と死別してからは孤立していたことに苛まれていたこと。
そして今日、王族や貴族たちから自分など切り捨てようなどとはっきり言われてしまったこと…。
話している時のカミラは、感情豊かだった。両親の話になると懐かしむような表情で、武家の話になると暗い表情で、そして両親の死のところは悲痛そうな顔で話していた。
「才能が無くて見下されてきたから出来ることを探した。出来ることを見つけてそれを磨き上げて成り上がると今度は妬まれてしまう…。あの家から異端者として産まれた私は、誰からも負の感情湛えた目で睨まれる運命だったのでしょうか…?
皆と同じ“普通”じゃなかった私だから、認めてもらえず、むしろ排他的な扱いを受けることになってしまったのでしょうか…?」
「………」
藤原もアレンもカミラの話に聞き入っている。
「私に期待していた国王や民、他の王族や貴族だってそうです。勝手に期待して私の心労など考慮しないで、かける言葉は優れた策を出せだの国を存続させる為の策略を展開しろだのばかり。私の頑張りや貢献に対する感謝や労いなどあって無いようなもの。皆、空っぽの言葉を投げかけるだけ。時には私の固有技能を気味悪く言う人もいました。
そしてしまいには、才能が無いから努力して上りつめただけなのに認めてくれず排斥されようとしている。勝手に期待しておいて勝手に切って捨てようとしている。
私は……ただ、出来ることを全力で励んで、尽くしてきただけだった!」
途中から恨みつらみなことを口に出しているが、俺はカミラの言葉に聞き入っていた。何だか他人事に思えなくなってきたのだ。
「ただ“普通”に生きていたいだけなのに…この国では嫌われてばかりです……」
――カミラは、俺と似ている。
具体的にはその境遇が、どこか似ているのだ。
幼少期から敵が多く、常に誰かと諍いを起こして敵をつくってきた俺と、才が無く見下されてそのくせ成り上がったら成り上がったで妬まれて疎まれてきたカミラ。
将来国にとって使えないものと分かってからは蔑み虐げて、最後は嗤われながら捨てられた俺と、それとよく似たことをされそうになったカミラ。
中身は少し違えど、俺たちは似た仕打ちを受けてきたのだ……。
“普通じゃない”と認識されたら最後。そいつがどんなに成り上がってもどいつもこいつもそいつを決して認めようとはしない。かつての俺のように。
普通じゃない・理解できない奴は、距離をとられ、やがて虐げられて排斥される。それは悪人に限らず、人畜無害な奴さえも対象になる時もある。
こういうのがリアル……くそったれな
「………あんたも、色々嫌な目に遭ってきたんだな。イラつくよな、辛かったよなぁ」
「あなた、も……?」
「せっかくだ、俺のことも少し話してやろう」
そして今度は俺の、元の世界での自分とこの世界にきてからの自分のことを話した。藤原もアレンも俺の話をしっかり聞いていた。藤原は俺のことをどこか悲しそうな目で見ていた。同情か?だとしたら余計だ。
「……………やっぱりあなたが、ミワさんが以前話していたあの生徒さんだったのですね」
「何のことだ?」
「あ、あはは……ごめんね、数日前の滞在任務の時に、カミラさんに甲斐田君のこと話しちゃって…」
なるほど、だからカミラがそんな納得いった顔をしているのか。
「この世界に召喚されたあなたは、恵まれない者でありながらも自分に出来ることを必死に探して鍛えて、強くなろうとしていた。蔑まれて虐げられながらも諦めることなく…。なんだか私とカイダさんは……」
「ああ、似ているな。だからあんたの言ってること、分かる気がする。理解できるし、共感も出来る。似た境遇を送ってたんだな、俺とあんたは。この世界で」
そう言い合って俺とカミラは微笑み合う。
「だからカミラ、あんたは尊敬に値する人だ。さっきも言ったが、あんたは凄いよ」
「カイダ、さん……」
カミラは感極まった様子で俺を見返す。そんな彼女に藤原は温かい眼差しを向けていた。アレンも微笑んでいる。
「言った通りでしょ?甲斐田君なら理解してくれるし認めてくれるって。彼がその人だって」
「はい……はい!」
何のことを言ってるのか知らんが、藤原は俺がカミラの話を理解して共感して認めてくれることを読んでいたのかもな。だからここへ連れて来た。恐らく、カミラの心を癒す為に。まったく、ここでも先生やってんのな。
「ありがとうございます、カイダコウガさん。私を、認めてくれて」
この日、俺はカミラ・グレッドと通じ合った――