アレンの体には傷や汚れが至る所にある。体力の消耗による疲弊だけでなく外傷もけっこう負っているようだ。それだけ今回の戦いが激しく、過酷だったのだろう。
「今回はSランクモンストール二体も戦ったのか。そら厳しかっただろ。よく無事に勝ってくれた」
「ん!すごく苦労した。危ないところもあった。仲間たちと…亜人とも協力してSランクを殺した」
「そっか、協力を…」
鬼族を捕らえていた連中と共闘する。まだ
そして「鑑定」してみるとレベルが10くらい上がってる。センたちが20近く上がってるのに対してアレンの上昇幅はいまいちだ。
……かと思ったが、能力値がレベルの割には高くなってる。レベルは高くなるほど伸びが遅くなるけど、能力値はそうではないようだ。
「甲斐田君、おかえりなさい!」
藤原がふらふらした足取りで俺たちのところに歩いてくる。その顔には安堵の表情がべったり貼り付いている。そんなに心配だったのか。
そんな彼女も、レベルの上昇が凄いことになってる。鬼族パーティとの差がほとんど無いステータスだ。やっぱこの人もチートキャラだったんだな。
「良かった、今度はちゃんと戻ってこられて…!」
俺の手を両手で掴んでブンブン振る藤原をめんどくさそうに眺めてテキトーに返事をする。
「本当に、安心した……もう実戦訓練の時みたいにはさせないからね」
あの時のことをまだ引きずっていたらしい。だからこんなに気にかけていたのか。一方的に感情を爆発させている藤原が落ち着くのをめんどくさそうに待つ。それから藤原は質問してくる。
「ところで……魔人族の強さは、どれくらいだったの?」
「そうだな……今回戦った奴はまだ弱い方だった。それでも、あんたやアレンたちが束になってかかっても無事では済まないくらいのレベルだったな。死者を出すことは避けられなかったと思う」
「そう、なんだ……」
藤原もアレンたちも近くにいたダンクも、俺の発言をしっかり聞いていた。そして誰もが深刻そうな顔をする。世界を脅かす災厄がどれ程の化け物かをある程度予想できたようだ。
「………というか、魔人族ってこの世界の至る所にいたりするのか?前回はアルマー大陸にいたし。」
「………魔人族は一度滅んでから百年間以上ずっと地上に現れることはなかった。俺の親世代の戦士たちも、その親世代の戦士たちも奴らを見た者はいなかった。ここにきて何故いきなり侵略を…」
「まあ今まで地底でずっと準備してたからって本人らが言ってたしな。その準備が最近やっと終わったんだと。手始めにアレンたちの里を…鬼族を壊滅させて、人族大国のドラグニア王国も滅亡させた。さらにはハーベスタン王国も滅ぼそうともした。
今この時から、奴らは本格的にこの世界を滅ぼそうとしてるみたいだ」
話に入ってきたダンクの疑問に答えてやるとダンクはさらに険しい顔をする。この先さらに過酷で絶望的な戦いがくるだろうと想定しているのだろうか。
「貴重な情報を聞いた。そして……よくぞ魔人族を討ってくれた。お前のお陰で俺たちは救われた。改めて礼を言う」
ダンクは俺に手を差し出して感謝の意を込めた握手を求めてくる。その厚意に応じて握手してあげるとダンクは小さく笑って頷いた。
「なんか、最初に比べてトゲがなくなったな。友好的になったというか」
「む……それは、当然ではないのか?お前たちは命の恩人なのだからな。こんな………先が長くないであろう俺たちの危機を救ってくれたのだから」
「……?え、どういうこと?」
後半部分で何やら重要そうなことを言ったので思わず聞き返す。藤原もどういうことなのって言いたそうにダンクを見る。
「言ってなかったな。これも何かの縁、お前たちには話しておこうか。その前に、腰を落ち着かせるところへ行かせてくれないか。それと、皆の治療や回復も行いたい」
壊滅被害が少ない集落に移動して、亜人たちの治療とアレンたちの回復を行うこと数時間(特に藤原の回復に時間がかかった)。夜が更けて全員ある程度落ち着いたところで、ダンクにさっきの話の続きを促す。
「そもそも……あんたらはどうしてこんな危険地帯に里をつくったんだ?ここには今回の襲撃してきた連中程じゃねーけどそれでも上位レベル以上のモンストールどもがはびこってるんだろ?どんな強い冒険者とか兵士団でもこんなところでの滞在なんて絶対無理というか避けたいような地帯だろ。俺の仲間たちでも無理だと思うぞ」
アレンたちを見ると全員こくこくと頷く。
「自殺願望があってここに住んでるわけでもないことはこれまでの話や今回の戦いで分かった。だからなおさら分からない。あんたらは何故今までずっとここで暮らしてたんだ?仲間や鬼族を死なせてもまだここにいる理由は?」
アレンもセンたちも藤原もダンクたちに目をジッと向けている。みんな俺と同じ疑問を持ち続けていたのだろう。スーロンたちもどうやら知らないようで、同じように注視している。若干非難の感情も乗せてだが。
俺たちに注視される中、ダンクは一呼吸してからその重く閉ざされていた口を開いた。