「まず知って欲しいことは……ここにいる俺たち亜人族の全員は、不治の病に冒されている身だ。鬼族3人を除いてな」
藤原は目を見開いて小さく声を漏らす。スーロン・キシリト・ソーンも初耳だったらしく同じように驚いている。
「お前たち(=スーロンら)を捕えに出る少し前のことだった。この団体で大規模な討伐任務の途中で特殊な病原体を持った魔物に襲われた。その時に…ここにいる亜人全員が、不治の病にかかってしまった」
アレンたちは顔を青くさせてダンクたちから後ずさる。
「ああ心配するな。俺たちを冒しているこの病は、他人には感染しない。病原体の魔物に触れてしまった者だけに発症する。でなければその3人もとっくに体に異変が生じていたはずであろう」
スーロン・キシリト・ソーンを見ると3人とも何も症状は無いと主張する。それを知ったアレンたちは安心する。
「それじゃあ……皆さんは今も、病に蝕まれ続けているのですか?さっきの戦いも、ずっと無理してたのですか!?」
藤原が心配した様子でダンクに尋ねる。その顔は少し切なげだ。
「いや、今はまだ戦いに障るような症状は出ていない。ただ……病である知らせが、体に出ている」
そう答えながらダンクは服をめくって、鍛え上げられた腹を晒す。亜人たちも彼に続いてく服を少しめくる。
彼らの腹や腕には赤黒い斑点が浮き上がっていた。入れ墨の類ではないことは明らかだった。
「この斑点は日を重ねるごとに広がっていってる。パルケ王国を出る前に王国の書庫を漁ってこの病のことを調べた内容では、この斑点が全身にいきわたった時…体が徐々に動かなくなり、衰弱死するとのことだった」
そう話すダンクの顔はとても暗いものだった。亜人たちも、避けられない死を悟って絶望しているように見える。
「あと…どれくらいであなたたちは体の自由が利かなくなり始まるのですか?」
「今の侵食状況からして……もって半年といったところ、か」
藤原そんな……と悲しげに目を伏せる。彼女に代わって俺が新たに湧いた疑問を投げる。
「病原体魔物に触れてさえなければ病にかからないんだよな?それにウイルスみたいに感染もしない。だったらこんなところに来る必要も無かったんじゃないのか?」
「……言えなかったのだ。あの男……現国王であり義兄でもある、ディウルに」
ダンクは深く息をついて続きを述べる。
「情に厚く責任感も人一倍強いことで亜人たちに知れ渡っているあの兄国王は、俺たちがあの討伐任務で病にかかったと知れば、きっと自分を責めていただろうからな。きっと今も俺たちをあの任務に遣わしたことを悔いていたやもしれん。未練たらしく…」
「だから国王にはこのことを全て伏せたまま、王国を出て行ったと」
「ああ。さっきも言ったが俺たちはそう長くは生きられない。そこで俺たちはこの残り短い人生のうちで出来ることを探し考えた。
それが、この危険地帯に巣食うモンストールどもの殲滅だ」
「……何で、またそんな」
思わずそう呟く。
「ここにいるモンストールどもはいずれパルケ王国にも侵攻しに来るだろうと予感していた。事実今回のように魔人族が奴らを率いてこの大陸を滅ぼそうとしていた。今後もそんなことがまた起こらないことはないだろう。
ならば、この身を使ってモンストールどもを少しでも殲滅してやろうと、決意したのだ。ディウルたちだけの力で国を守れるように、俺たちがここで敵の数を減らすことを決めたのだ。
あの国を護る為に……彼らを護る為に…!」
ダンクから何か、気迫めいたものを感じる。アレンたちも同じ感性を受けたようで、みんなダンクに関心しきっている。
「…最後はいがみ合って絶縁同然の形で別れて出て行ってしまったが、それでも数少ない家族だ。残された時間を使って家族である
ダンクは謝罪の言葉とともに、スーロンたちに頭を下げた。亜人たちも続いて一斉に頭を下げて謝罪した。
その光景にアレンたちは目を少し丸くさせ、スーロンたちは戸惑いの表情を見せる。鬼族の誰もがそんなダンクたちに声をかけることはしなかった。
沈黙が続く中、藤原が立ち上がってダンクの前に来てこう言った。
「皆さんの病を治させて下さい!」