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「国王からの命令」

 喧噪が俺の耳に叩き込んでくる非難の野次に、鬱陶しそうに顔をしかめる。


 (ムカつくが……これが国…現実ってやつか)


 無言で立ち尽くす俺を、隣にいるミーシャが心配そうに見てくる。


 「大丈夫ですか、コウガさん?」

 「どうってことない。耳障りだけど」


 飛び交う野次を、国王が一喝して静かにさせる。威厳がたっぷりある。大勢の人をしっかりまとめるのも上手いな。


 「さて…気分を害したなら申し訳ない。皆もこの国を想う故の反応であると、ここは分かってもらいたい」

 「まああいつらが怒るのはもっともだと思う、うぜーけど。それにしても、さっきあんたの面前で乱暴はたらいた俺が言うのもなんだけど……国王様の面前で勝手に口々に野次を飛ばすとか、この国の位の高い人間も、たかが知れてるよなぁ」


 と、あいつらに聞こえる音量でそう言ってやる。するとまたも俺に対する非難が飛んでくる。ミーシャは驚いた顔をし、クィンはやや慌てていて、藤原は悩まし気に手を顔に当てている。


 「君がそう言いたくなる気持ちは分からないでもないが、私の優秀な部下たちをあまり悪く言わないでもらえるか」

 「で、あんたとしてもやっぱり駄目なのか?この要求。あいつらの意思を無視した場合でも」


 少し間が空いてから国王は静かに答える。


 「私もやはり彼らと同じ意見だな。君が元の世界へどうしても帰りたいという意思は改めて分かったつもりだ。君の目を見ればな」

 「……………」

 「しかし、だからといって個人の目的を果たす為だけに国の全てを教えるというのはリスクが大き過ぎる。私もそう思っている。故にミーシャ殿には機密情報を開示はしていない」

 「そうかよ」


 ミーシャに目を向ける。聞きたいことはただ一つ。


 「国王はお前に人材(魔術師たち)を用意してくれるみたいだけど、そいつらの協力ありで異世界転移の魔術は半年くらいで完成できそうなのか?」

 「………今の状況では、何とも言えないです。お付きの魔術師の方々でも頓挫しかかっている状況、です…」


 申し訳なさそうに答えるミーシャから国王へ目を移す。


 「だそうだ。彼女らの現状を打破させるにはやっぱり少しでも新しい何かが必要だ。その一つとしてこの国の機密でも何でもが欲しいんだけど…ダメって言うもんなぁ」


 そこまで言ってから俺はこの国に入ってからずっと自身にかけ続けていた「認識阻害」をあえて解いてやった。

 目の前にいる国王はもちろん、この場にいる全ての人間には本来の俺の姿が映るようになる。背丈と髪と服装は変わらずだが、肌は褐色に染まり、体の至る所に赤紫色の線が走っていて、無駄な脂肪が一切ない細マッチョ体型へと戻ったのだ。


 「その、姿は……!」

 「これが俺の本来の姿だ。色々あり過ぎたせいで、ほぼ人外の姿になっちゃったけどな」


 そう言って少し笑ってみせるが、この場にいるほとんどの者は引いた反応をしていた。後ろから中西が「化け物…」とか言ってくるし、米田も怯えた声を上げてるしな。


 「今のコウガの方が似合ってる」

 「改めて近くで見ると、迫力がありますね」

 「うーん。まだ慣れないかなぁ」


 一方アレンとクインの反応は悪いものではなかったが、藤原は小声でマイナス評価をする。さらには隣からミーシャがどこか恍惚とした視線を向けてくる。頬もなんだか赤いのだが?


 「おい」

 「っ!ごめんなさい、見惚れてました…」


 慌てて顔を国王の方へ戻して姿勢を正すのを見て、俺も国王を見る。


 「大事な話をしてるものだから、あんたには俺の本当の姿をちゃんと見せないと、と思ってな」

 「……まあ驚かされはしたが、同時にこうも思わされた。

 ――その姿をとることで私たちに威圧をかけているのでは、と」

 「………」

 「カイダコウガ。私は国の機密情報の開示を承諾しない方針でいるが、その場合君は武力で私たちを従えようとするつもりか?」


 厳しい顔でそう問いただす国王。同時に部屋の空気がピリつき始める。控えている兵士たちが構えをとっている。クィンも俺を見て冷や汗を流している。


 「か、甲斐田君!それは絶対にダメなことだよ!力づくなんて…!」


 藤原が隣に来て必死にそう説得しにくる。何か勘違いしているみたいだが、俺にそんな気はねーっての。


 「力づくで?それこそ、この世界の敵…魔人族どもと同じになってしまうだろーが。そんな輩みたいな手段はとらないっての。こちらから仕掛けることはしないって言ってるだろ。

 けどまあ、俺としてはこの国がお姫さんに全面的に協力してほしいと思ってるんだけどな」


 しばらく沈黙が続く。これは駄目かなと思い、話を終わらせてアレンを連れてここから出ようと考えたその時、国王が口を開く。


 「以前クィンに聞いたのだが、君は冒険者赤鬼改め、鬼族のアレンだったかな、その少女と共に鬼族の生き残りを捜す旅に出ているようだな」

 「そうだけど?」

 「この後、君たちはどこへ行くつもりだ?」

 「獣人族の国だ。この大陸にあるんだよな?」


 そう答えると国王の顔色が少し変わる。


 「獣人族の国に、行くと言ったのか?」

 「そうだよ」


 便乗するように答えてやると国王はまた難しい顔になる。


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