「獣人族がどうかしたのか?」
「………うむ、君には知らせておこうか。
獣人族の国……“カイドウ王国”には最近おかしな動きがある疑いがある」
獣人族の国は「カイドウ王国」と呼ぶのか。
「おかしな動き、とは?」
「獣人族は元は国ではなく里として存在していた。里が国へと発展したのは最近…半年前といったところだ」
アレンが小さく声を出す。彼女も知らなかった事情だったな。獣人族の国があるということは。
「しかし王国が成り立った時期から、獣人族は鎖国体制をとるようになった。以前に我が国の兵士団が獣人族の国境に入りかけたことがあったのだが、獣人族たちは彼らを過剰に追い返す措置をとった」
日本でもかつては鎖国政策をとったことがあったし、その徹底ぶりは今の国王が話したことと変わらないものだった。モリソン号事件とかが良い例だ。
「王国が成り立ってからの獣人族は過剰に他の魔族や人族を寄せ付けない
「どんな?」
「それは……黒い瘴気を纏った獣人族の戦士を目撃したとのことだ」
「黒い、瘴気…!?」
アレンが驚愕して少し動揺する。そういえばアレンの家族を殺し里を滅ぼした魔人族には、体に瘴気を纏っていたと彼女から聞いたな。
「あいつ、なの…?」
小声で何かを言うアレンの背をさすりながら国王に質問する。
「その獣人を捕らえるとかはできなかったのか?」
「数度、カイドウ王国への潜入調査を命じたことがあったのだが、結果は全て失敗に終わった。国境に入り王国の門に近づいたところで、獣人族の戦士たちに撃退されたそうだ。兵士団団長コザ」
国王に呼ばれた兵士…コザが俺の隣に立ち一礼する。エーレ討伐の時にもいた男だ。
「最後の偵察任務ではこの私も偵察に出たことがありましたが、王国への潜入すら失敗に終わるという失態。任務の際に獣人族の戦士たちと一戦交えたのですが……」
コザが渋った様子で続きを話す。
「奴らは、まだ里だった頃のそれとはまるで別人でした。何か……禍々しさを感じるものがありました。獣人以外全てが敵だと言わんばかりの、過激な排他的な行動でした」
「禍々しい……黒い瘴気とかも見えたのか?」
「あ、ああ。私の目にもそれは映って見えた。人外の化け物。まるで………」
そこまで言うと口をつぐみ、国王に一礼してから下がっていった。
(獣人族。鬼族を捕らえているかもしれないという情報だけだったが、他にも何かがありそうだな。興味が出てきた)
「私も、ここにいる皆も、獣人族を脅威に思い始めている。私はこうも考えている。あの国をこのまま放っておくと、何か良くないことが起こるのでは、と。5年前のモンストールによる大侵略の時と同じ災厄が起こるやもしれんと予感している」
それはそれは大層な予感だ。それ程までに獣人族に脅威を感じているならこの俺が直々に行って―――
「そこでだ!君に…冒険者オウガとして正式な依頼を出したい!
獣人族カイドウ王国への潜入調査をここに命じる!!」
―――おっと?まさか向こうからそう言ってくるとは。しかしそれにしても…
「命じる、ね。俺はあんたの国の人間ではないんだけどな」
「しかし冒険者ではある。サントの冒険者ギルドに登録をしている以上は、冒険者にも王国からの任務を課すことが出来る。君も例外ではない」
「………まあ命令云々はさておき、俺とアレンも丁度獣人族に用があってこれから国に入ろうと考えてたから、まあここはあんたの命令に乗ってやらないこともないか………けど」
鋭い視線を国王に飛ばす。
「依頼任務を出すんだ。相応の報酬はきっちり頂くぜ?あんたは俺たちに何をくれるんだ?」
藤原が小声で言葉遣いに気をつけなさい!と注意する中、国王はこんなことを言い出す。
「ミーシャ殿下への機密情報の開示を許可しよう」
国王の一言に、部屋中がこれ以上ないくらいにざわついた。
「面白い。引き受けよう!」
こうして俺とアレンは冒険者として、国王直々の依頼任務を受けたのだった。
*
謁見が終わり、用意された部屋で今日は一日を終えることとなる。俺とアレンだけだとまだ広く感じるような広い部屋で旅の疲れを癒す。
「明日からいよいよ獣人族の国へ乗り込む。国王から聞いた話だと昔の頃とはまた違うらしい。昔のことは知らないから何とも言えないけど、まあ油断は許されないということだろうな。危険地帯の時と同じ気持ちで行くべきだろう。今のうちにしっかり休んで、みんな万全の状態で行こう」
鬼たち全員を集めて簡単にまとめ話をして最後にそう締める。アレンもセンたちもやる気十分に応じてくれた。特にアレンからは強い意志を感じられた。やる気とか張り切りとかがいきすぎて空振りしないよう俺がしっかり見ておくか。
明日についての話し合いを終えて解散し、部屋には俺とアレンだけとなる。やることも特に無く、消灯しようとしたところで、ドアを叩く音がする。
ドアを開けると、意外な人物が訪ねてきた。
「甲斐田君。今、話出来るかな……ううん、話をさせてほしいです!」
高園縁佳は何やら決意した様子で俺にそう言ってきた。