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「高園縁佳は話をしたがる」

 「話だぁ?」


 訝しげに眉をひそめて高園を見る。彼女の後ろをちらと見ると来客は他にも二人いる。


 「「………」」


 米田と曽根だ。二人とも高園とは特に仲が良い関係だったな。テメーら来ておいて俺に対して警戒心をあらわにしているのは何なんだ?


 「俺に対し全く友好的でない態度を見せている二人を連れて、話をさせてほしいと。それ俺がただただ不愉快にさせられるだけじゃね。嫌なんだけど。二人に睨まれながら話をするとか」

 「えっと、小夜ちゃんと美紀ちゃんは私がここに来るって言ったら付いて行くって言って、付き添いに来ただけで」

 「あっそ。で、話っていったい何の話をする気?」


 高園は何か安心した様子を見せてこう答えてくる。


 「甲斐田君があの日……実戦訓練でいなくなってからのことを知りたいの。今までどう過ごしてきたのか。その力はいったい何なのかを」

 「そんなのだったらとっくに知ってるだろ。お姫さんや藤原、クィンからもう聞いてるはずだ。俺がそんな今更なことを話して何になる?」


 突き放すように返してやると高園はどう返答しようか困り、なんか泣きそうな顔で黙ってしまう。


 「…………めんどくせーな。もう帰れよ」


 そう言って追い返そうとするが、「甲斐田君」と新たな声がかかる。


 「そう邪険にしないであげて。縁佳ちゃんと一度ちゃんとお話してあげてほしい」


 藤原がドアを掴んでそう言ってくる。


 「だから、それをして俺にいったい何の得が…」

 「損得とか考えないでさ、何でもいいから会話してあげて。甲斐田君、この世界に来てからクラスの子とはまともに話したことないでしょ?」


 さらっと刺さる言葉を吐くな。俺だから良いものの。普通の男子生徒だったらダメージくらってたぞ。それはそうとここで問答するのも不毛だし、上げるとしようか。


 「…………アレンが眠くなるまでだぞ。付き合うのは」


 そう言ってドアを開けたまま部屋に戻る。高園はありがとうと嬉しそうに言ってから部屋に上がる。それに米田と曽根、藤原も続いてくる。


 「あんたも入るのかよ…」

 「私は話には入らないから。置物だと思ってくれて構わないから」


 そう言いながら真っ先にアレンがいるベッドに座って気持ちよさそうに伸びをする藤原にため息をつきながら冷蔵庫を漁って人数分の飲み物を用意する。一方アレンは突然の来客に警戒する家猫みたいに、ベッドの端から高園たちをジッと見つめている。アレンの態度を見た高園たちは気まずそうにアレンをちらちら見る。


 「………っていうか甲斐田ってあの鬼の人と同じ部屋で過ごしてるの!?」

 「本人たっての希望だ。センたちの部屋だとどこも手狭になってしまうからな」


 曽根の突っ込みに淡々と返す。椅子にどかっと座りアルコールが少し入ったシャンパンをぐびっとあおり飲む。


 「じゃあ手短に話す。質問は俺の話が終わってからな」


 そう切り出して俺の異世界での短い物語を話す。みんな終始黙って俺の話を聞いた。いつの間にかアレンは彼女たちとの距離を少し縮めていた。


 「紹介が遅れたな。アレン、この3人が俺と同じこの世界に召喚された日本人、同じ高校同じクラスだった奴らだ。テメーら、彼女はアレン。鬼族の生き残りの一人。旅の中で最初に仲間になった子だ」


 俺の語りを終えた後、それぞれに人物紹介をする。高園はアレンの顔をジッと見つめる。アレンも高園の顔をジィっと見る。


 「甲斐田君もアレンさんと一緒に鬼族の生き残りを捜して救う旅をしているんだよね?どうして…そうしようって思ったの?」


 高園は俺とアレンを交互に見ながらそう尋ねてくる。


 「理由?そんなもん必要か?」

 「え……?」

 「ああまあ、普通なら理由の一つくらいあるべくしてあるんだろうな。俺の場合は明確な理由は無い。最初は俺の目的の手がかりを探すついでっていうノリだったし。

 元の世界へ帰る手がかりを掴んだ今は、その実現を待つ間の時間を使ってアレンの協力に本腰を入れてるって感じだ」

 「………どうして、アレンさんの力になろうって思ったの?」

 「それこそ理由なんて要るか?仲間なんだから手伝う、協力する。それだけだろ」

 「…………ふしゅ」


 ベッドからアレンの鼻息が聞こえる。見ると彼女が頬を赤くさせて嬉しそうににやけていた。高園は何やら羨ましそうにもじもじする。米田と曽根は何をそんなに驚くことがあったのか、唖然としている。


 「甲斐田に……異世界で仲間ができてたって本当だったんだ」

 「甲斐田君が進んで人助けをしてる…!?」


 テメーらが俺をどういう奴だと見ているのかよーく分かった。


 「甲斐田君は、本当に死んでいて、ゾンビになっちゃったんだよね?それも…私たちの何倍…何十倍も強くなったんだよね。いったいどうやってそんな力を身につけたの?」


 俺は立ち上がって近くに置いてあったステータスプレートを取って高園に渡す。彼女も、覗き込んだ二人も絶句し顔を青くさせた。それ程までに俺のステータスに衝撃を受けたのだ。


 「何十倍というか、今の俺はテメーらの何百倍も強い。ゾンビの特殊技能を使って格上の敵どもを喰らい続けた結果、チートでしかも不死身というえぐい奴になれた」

 「敵を、喰う……」

 「それと、こんな力に驕って堕落することなく、鍛錬もしてきた。俺は日々成長し続けている。テメーら以上に俺は努力していると言い切れるぜ」


 同意するようにアレンが無言で首を縦に振る。高園は少し懐かしむような反応をする。


 「そうだよね。甲斐田君はいつも、努力を怠らない人だった。今もあなたは目的の為に日々努力することが出来る人…」

 「何言ってんだ?で、そう言うテメーはどうなんだ?ステータスを見させてもらったが、強いとは言えねーな。まあ普通の連中から見れば強いんだろーけど」

 「え?甲斐田君、私のステータスが分かるの?」

 「ステータスを鑑定する固有技能があってな。謁見の時に全員のを見てみた」

 「え………私と小夜のも、見てたの……」


 曽根が米田を抱いて後ずさる挙動をとる。茶番に付き合う気はない俺は高園に視線を戻す。

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