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「高園縁佳は言えてなかったことを告げる」

 「質問は終わりか?」

 「まだあるよ。

 ―――それだけ強いのなら、ドラグニアに襲撃してきたモンストールの群れも、討伐出来たんだよね?」

 「ああ。何なら魔人族一人もあの時殺したぞ」

 「そう、だったよね……。じゃあさ、あの時一緒にいた

はずの、クラスのみんなを守りながら戦って、勝つことも……出来たのかな?」

 「そうだな……。その気になればSランク程度の敵5体だけなら、まあできたんじゃね?Sランクだろうが瞬殺できたし」


 高園が吐息を漏らす。体を少し震わせている。


 「何だ?テメーも堂丸みたいに俺を非難しにきたのか?だからそれはお門違いってやつだって言ったろ?あいつらが殺されたのはあいつらが弱かったからだ。せめてなりふり構わず逃げて、国から…大陸から出て行ってたらまだ生きていられただろうに。行動が遅かったのも殺された原因だ」

 「………!!」


 曽根が今にも嚙みつかんとばかりに俺を睨みつける。


 「どう、して……みんなを見殺しになんてことを…。そうしなきゃいけなかったの?」

 「そうだ。そうしたかったからそうした」

 「みんなが憎いと思ってたから助けなかったの?」

 「憎いって感情も確かにあったな。それも理由になる」

 「後悔も何とも…ないの?」


 高園の目には涙が溜まっていた。怒りよりも悲しみの感情がこちらを見ている。


 「あるわけねーだろ。俺は間違ったことはしていない。もう一度言う、あいつらが死んだ…殺されたのは、あいつら自身の責任だ」


俺にとってあいつらなんか死んだって構わない奴らだ……なんてことは言わなかった。藤原の前では言わない約束だったからな。その藤原は悲しそうに俯いている。


 「あんた、ねぇ……!!」


 曽根が立ち上がって俺に怒りの視線を飛ばしてくる。


 「そこまでのことだったの!?甲斐田にとってそれだけみんなが許せなかったの?だから平気で見殺しに……!!」

 「そうだよ。それだけのことだったんだ。テメーらには分かんねーだろうな、一生。地の底で、暗闇の中で独り、理不尽に人生を終わらされた俺の気持ちが。今はこうしてゾンビとして活動しているが、あの日あの時!俺は確かに死んだんだ」

 「っ……!」


 俺が鋭い視線を飛ばしてそう言うと全員が押し黙る。


 「テメーらには一生分かることねーよ。誰も。俺のあの痛み、苦しみ、恐怖、怒り、恨み、そして絶望…。俺はあいつらに、これらの一端を味わわせたに過ぎない」

 「…………」


 高園は無言で涙を流しながら俺をジッと見続ける。


 「それとこうも決めている。俺は世界の救世主には絶対にならねー。テメーらが組織していた救世団とかいう大層な正義の味方になんかならねー。守るもの、救うものは俺が決める。これからもずっとな」

 「…………甲斐田君が守りたいものって、何なの?これから何を守るつもりなの?」


 高園は涙を拭いて静かにそう尋ねてくる。


 「まずは…仲間、友と呼べる奴ら。ここにいるアレン、藤原、鬼族のみんな。少し世話になった竜人族。これらは最優先に護る。

 それと…目的の為のミーシャ元王女。彼女は死なせてはいけない。

 あとは……まあ手が届く範囲までなら守ってやる。それだけだ」


 高園は黙って俺を見つめる。何を考えているのか分からない。


 「わ、私たちは……どうなの?ドラグニア王国にいたクラスのみんなと同じ、助けては、くれないのかな……」

 「…………」


 今度は俺が黙ってしまう。それをどう捉えたのか、曽根が俺を睨み、米田は怯えた顔をする。


 「ううん。その前に、ずっと言っておかなきゃって思ってたことが。甲斐田君―――」


 高園は立ち上がって俺の前に立つ。その場で丁寧に頭を下げてくる。


 「あの時、あなたを助けることが出来なくてごめんなさい!」

 「―――――」


 俺は絶句する。曽根と米田も同様だった。藤原も意外そうにはしているものの、少し微笑んでるようにも見えた。


 「あの時みんなで力を合わせていれば、甲斐田君を助けられたかもしれなかった。私もみんなも…モンストールに恐怖していたせいで、動くことが出来なかった。そのせいで、甲斐田君を死なせてしまった。

 本当に、ごめんなさい!!」


 切実なその言葉は全て本物だった。高園の体が震えている。床には彼女の涙らしき雫が落ちている。一方彼女の言葉を聞いた曽根と米田は気まずそうに目を逸らしている。


 「………さっきの質問の答えだけど」


 謝罪の言葉をスルーして俺はこう答える。


 「ここにいる3人には何もされてはいなかった。学校でもこの世界でも。見捨てられはしたがテメーらには悪意がなかったことは分かってる。

 だからまあ……故意に見殺しにすることはしないかな。というかそういうことを許さない人がここにいるからな」


 藤原を見ると彼女はいつもの優しい笑みを浮かべていた。


 「甲斐田君……」

 「とはいっても、テメーらとの蟠りは全く消えてねーままだ。ここにはいないあの二人は俺は赦す気はねー。二人には嫌な思いをされてきたからな。冤罪や誹謗中傷、暴行とかな。俺とあいつらとの溝は深い」


 冷たい声音でそう言い、シャンパンを一気に飲み干す。


 「アレン、そろそろ眠くなってないか?」

 「ん………ちょっと眠いかな」


 俺の意図を理解してくれたアレンは眠たそうにしてくれる。


 「というわけでだ。話はもう終わりでいいよな。テメーらも話すことはもう無いだろ?」

 「うん……。そうだね。もう遅い時間だし」


 高園たちは立ち上がってドアへ向かっていく。曽根と米田が部屋へ出る中、高園が俺に少し近づいてきた。


 「今日は、ちゃんと話をしてくれてありがとう。改めて……また会えて、本当に良かった…!」


 また目を潤ませながらそう言ってくる彼女に俺はそうかと短く返す。


 「それと……アレンさんとは、その………恋仲!とかに……な、なってるの?」


 続いてアレンをちらと見ながらそんなことを恐る恐る聞いてきたので、はぁ?と首をかしげる。


 「仲は確かに良いけど、恋かどうとかは……」

 「私とコウガとの相性はバッチリ。将来的には結ばれるかもしれない」


 アレンが会話に割って入りそんなことを言い出す。眠たそうな顔からシャキッとした顔になっている。こら、演技は?


 「え、えええ……!?」

 「何?テメーが気にすることなのか?」

 「それは、その……。

 ~~~っ!お、おやすみなさい!お話出来て良かったです!」


 そう言って慌てて出て行った。藤原は俺に変な笑みを見せてから高園の後を追って出て行った。


 「最後のは何だったのかね」

 「…………ふんしゅ」


 アレンは何故か勝ち誇った顔をし、ほくほくした様子のままベッドへ戻って行った。


 (また見捨てるか、ちゃんと助ける、か………)


 洗面所で歯磨きしながらさっきまでの話を思い返す。さっきは藤原の名を立ててああ答えはしたが……どうだろうな。

 正直アレンや鬼たち、カミラに藤原といった、これまでの旅メンバーと同じように助けようとは思わない。ミーシャみたいに死なすとまずいような奴らでもないし、そこまで頑張って助ける価値がある奴らじゃない。特に堂丸や中西なんかは死んでほしいくらいだ。


 (あの時、あなたを助けることが出来なくてごめんなさい!)


 高園の噓偽り無い謝罪が脳でリフレインされる。彼女は俺にとって「悪」ではないことはもう分かっている。

 が、きっと分かり合うことはないだろうな…。

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