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「一緒に……」

 部屋に戻ってからも縁佳はずっと悶々としていた。


 (一緒の部屋で寝るくらいだから、甲斐田君はアレンさんって鬼の人と本当に……)


 そこまで考えたところで落ち着きなく顔を枕にうずめる。これで3回目である。


 (………赦してくれたかな?仲直りは……まだ出来ていないよね)


 しばらくしてから今度は不安や寂しい気持ちに駆られる。久しぶりにまともに会話をすることが出来たものの、明確な和解はしていない。縁佳と皇雅との距離の隔たりは未だに改善されたとは言えない。


 (獣人族の国……)


 今日の謁見で皇雅とアレンは冒険者として「カイドウ王国」への潜入調査を命じられた。明日には彼らは仲間を連れて国を出るのだろう。任務が成功すればきっと帰ってくる。だからもう二度と会えないことにはならない。

 そう分かっている縁佳だが……


 (このままじゃ、ダメな気がする……。あのお話だけじゃ、まだ足りない…!)


 考えをまとめた縁佳はベッドから立ち上がり、二人に気づかれないよう部屋を出て―――藤原の部屋を訪れた。


 (甲斐田君のことをもっと知る為には―――)



                 *


 夜が明け眩しい朝がきた。つまりは依頼された潜入調査をこなしに行く日となった。

 簡単な食事を終えたアレンたちを連れてまた謁見の大部屋へ行く。部屋に入ると昨日と同じ既に多くの人間がいた。国王、ミーシャ、兵士団、国の要人ども、そして藤原美羽。

 昨日と違うことを挙げるなら、兵士が大勢いて整列している。しかも百数十人もいる。先頭には団長のコザとクィンが姿勢良く立っている。

 俺が部屋の中心位置に近づくにつれて、またも要人どもが喧しく喋りだす。 


 「国王様!どうかお考えを改めて下さい!」

 「そうです!冒険者一人に対する報酬が機密情報の開示というのは大き過ぎます!」

 「いくらミーシャ殿下に対する開示とはいっても、納得は出来ません!」

 「そもそもミーシャ殿下が提案した異世界召喚による成功例は全く無いではありませんか!実績が全く無い者に国の全てを教えるというのは不相応過ぎます!」

 「それに、あの少年の為に我ら…国がそこまで援助することもおかしいのでは!?」


 口を開けば俺の任務成功の報酬のことに対する不満・文句が飛び交う。俺が定位置に着くと一斉に俺に視線を飛ばす。当然そのどれもが歓迎されたものではなかった。


 「鬱陶しいな。なんかこんな扱いされるとさ、任務なんか捨ててやろかって思うんだけど」

 「………どうか堪えてほしい。彼らが何と言おうと、昨日言ったことは曲げない。宣言通り、成功すればミーシャ殿下への情報開示は必ず実行する」

 「そうか。良かった。

 ところでこの兵士たちは?」


 後ろを向いて兵士団の列を見る。クィンとは目が合わなかった。


 「今回の潜入調査は君たちだけに任せるつもりはない。我が国の兵士団も同行させてもらう」

 「え?俺らだけじゃないの?兵士たちも一緒?」


 再度兵士団を見る。全員同じ行儀よく立ち、顔も引き締めている。


 「元々この潜入調査は兵士団にやってもらうものだった。しかし我が国だけの力だけでは危ういと感じたのだ。前回の故ドラグニア王国のような失敗を犯すわけにはいかない。その為に、君たちの力を借りたいのだ」

 「そういうことだったのね…。まあ良いけど」


 特に異論が無いので兵士団との同行を了承する。改めて今回のパーティを確認する。

 アレンをはじめとする鬼族8人。藤原美羽。さらにはクィンと他サントの兵士たち百数十。かつてない大所帯になるな…。完全に行軍じゃねーか。


 「これが、潜入調査のメンバーか。ていうか潜入に向いてねーじゃんこんな人数」

 「いや、実際に潜入してもらうのはこの中から十数人程度とさせる。他の者たちは外で待機で……」


 国王と団長から作戦内容を聞いていた時だった。ドアを開けて新たな人物が入ってきた。


 「あ?高園?」


 そう、ここには藤原以外の救世団はいなかった。しかしたった今、高園が正装した格好で入ってきたのだ。

 和を基調とした黒と白が混ざった装束を着こなし、胸にはさらしを巻いている。下は袴を思わせるつくりになっていてまるで戦国時代の女武士(本当にいたかどうかは知らんが)のようだ。

 彼女の登場にはクィンもアレンたちも国王も予想外といった反応を示した。ただ藤原だけが分かってたっていう感じだった。


 「突然入ってきてしまい申し訳ありません。大事なお話の最中だというのに。

 しかしながら、私から至急お頼みしたいことがあって、参りました!」

 「タカゾノヨリカ…。いったい何用かな?」


 国王や要人たちに注目される中、高園は頭を下げてこう言った。


 「 私もカイドウ王国への潜入調査に 同行させて下さい!!」


 要人どもがどよめく。俺も意外な展開にやや呆気にとられる。ただ藤原だけは落ち着いた様子で高園を見ていた。


 「あんたは知ってたのか?あいつがこう言ってくることを」

 「うん。昨日寝る前に縁佳ちゃんが訪ねてきて相談してきたの」

 「止めねーのかよ?今回の旅も危険が大きいぞ」

 「うん。でも……私は、縁佳ちゃんの意思を尊重することにしたの。それに、私もいるし」

 「大した自信だな。まあ回復役ヒーラーであるあんたがいれば死人はそう出ないだろうし。とはいえ、あいつは何で……」


 訝しげに高園に視線を向ける。彼女の顔はいたって真剣だ。


 「何故なにゆえに此度の任務に加わりたいと言うのだ?今の獣人族は普通ではないことは確かだ。場合によっては激しい争いにもなり得る。君はモンストールと戦う為に召喚された者なのであろう?獣人族との戦いに参加する義務はないと言えよう。

 それでもなお君がこの任務に加わりたい理由とは?」


 国王の問いかけと同時に部屋は静まり返る。皆が注目される中、高園は顔を上げてこう答えたのだった。





 (甲斐田君のことをもっと知る為?)


 時は遡り、前日の夜が更け始めた頃。

 美羽の部屋を訪ねた縁佳は、美羽に自分も皇雅たちとともにカイドウ王国へ潜入すると告げた。

 何故同行したいのかと美羽が聞くと、縁佳は先程の答えを述べたのだった。


 (さっき甲斐田君と話が出来ましたけど…結局彼のことを全部知ることが出来なかったんです。このままだと学校頃やこの世界に来たばかりの頃みたいに、距離が離れたままに終わりそうで…。

 上手くは言えないんですけど、明日の任務で私は、甲斐田君との関係を良くしたいとも考えてるんです!)

 (縁佳ちゃん……)

 (私は甲斐田君のことまだまだ分かっていない。だから知りたいんです、彼のことを少しでも、理解してあげたいんです。今までちゃんと分かってあげられなかったんだって気付いたから…。

 甲斐田君を知ることで関係を修復出来るとは思ってませんが、私はそれが必要だと思うんです!)


 美羽は縁佳の頭に手を置き優しく撫でる。


 (私も、甲斐田君と旅をするようになったけど分からないことだらけだよ。私も甲斐田君のことは分からないことだらけ。何を考えてるのも分からない。彼を知ることは凄く難しいことなんだと思う)

 (はい……)

 (だから、私と一緒に甲斐田君を知っていきましょう。甲斐田君自身に、彼の居場所は一アレンちゃんたちがいるところ一つだけじゃない、私たちもいるってことを教えてあげましょう!)

 (美羽先生、ありがとうございます!)








 「―――私は縁佳ちゃ……高園さんを同行させるのに賛成です!」


 高園が何か答えるのかと思いきや、藤原が唐突に口を挟んできた。


 「彼女は狙撃手であり、しかも彼女の固有技能には狙撃手と相性が良い“隠密”や“鷹の眼”などがあります。

 姿と気配を隠すことができ、遠くのものを観察することも出来る優秀な子です。私と……甲斐田君が保障します!」

 「は……?」


 勝手に俺のお墨付き…ってことにされて藤原を睨む。彼女は小さな声でお願いと言ってくる。顔に手を当てて呆れため息をつきながら「そうだね…」と答えてやる。一応言ってることに間違いはないからな。


 「フジワラミワやカイダコウガ程の者たちがそこまで推すというのなら…。それに確かに潜入調査に向いた固有技能も有している…。

 分かった。タカゾノヨリカの同行を許可しよう」

 「ありがとうございます!!」


 よく分からないうちに高園の同行が決定された。高園は藤原にありがとうございますとお礼を言い、そして俺の方を見て嬉しそうに微笑みながら小さくありがとうと言ってきた。



 高園縁佳がパーティに加わった……のか?

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