潜入調査にあたるパーティの編成が完了したところで、国王からの任務詳細や激励が終わってからいったん解散、一時間後に出発するという伝達を受けた。
「甲斐田君、よろしくね!」
準備をとっくに終わらせている俺が王宮内をぶらついていると高園から声をかけられる。
「別にテメーと一緒に行動するとは限らねーだろ。ていうか一緒にやる気もねーし。藤原か兵士団と組んで行けよ」
「そう、なるかもしれないけど…。でも私、甲斐田君のこと見てるから!」
「いや敵情視察を優先しろよ、俺を見てどうすんだっての。敵を見極めろ」
「ご、ごめんなさい…」
割としっかりしていて頭の良いキャライメージだったはずの高園がキャラ崩壊しかけていて不安になる。この女が何を考えてるのか分からない。
すると向かい側から曽根と米田がやってきて高園に詰め寄る。
「縁佳、聞いたわよ!獣人族の国の潜入調査にあなたも行くって!本気なの!?」
「うん。黙っててごめんね二人とも。もう決めたことだから。それに、私なら大丈夫だから!」
高園はそう言って二人の肩を優しく叩いた。曽根は俺にキッと顔を向けて、
「縁佳を絶対に無事に帰して。守ってあげて!」
とそんなことを言ってきた。
「何で俺に言うんだ。藤原とかに言えばいいだろ」
「もちろん後で同じことを言うわ。でもあんたにもそうしてほしいの。あんたは強い、とても強いのは何となく分かったから」
「あのさ。そんなに高園が心配ならテメーも来ればいいじゃん。テメーの盾て守ってやればいいじゃん」
「………。私は、縁佳と比べて全然大したことない。一緒に行っても足手まといになるだけだろうし。迷惑はかけられない……」
曽根は俯いて弱音を吐きだす。
「テメーでそれを決めてちゃ確かに無理だわな。
一つ教えてやる。テメーで限界決めてちゃ、成長はそこまでだ。この世界では特にそうだ。俺は限界を無視して突き進んで今の自分になった。テメーがどうしたいのか、考えてみろよ」
それだけ言うと高園たちから立ち去っていく。曽根と米田に何故あんなことを言ったのか。仲間でも何でもないのに、何故かお節介ごとを言ってしまった。
(ヤキが回ったのかね。まあいいや)
しばらく経って集合時間になり、門の近くに全員集まる。
俺の旅パーティ、藤原も入れると10人。サント王国兵士団。兵士の数は300人とさらに増えていた。全員選りすぐりの出来る奴らだ。クィンやコザは言うまでもなく強い。
そして高園縁佳。兵士団に混じっている。
「もう、行って良いか?」
「はい。出発しましょう」
王国を出て行軍のように目的地へ移動を開始する。俺たちが先頭で進み、やや後方から兵士団もついてくる。
(こっちは旅のつもりで行ってるんだけど、後ろを見ると全然旅に見えないな……)
改めて兵士団の様子を見る。兵士たちは俺のことをどう思っているのだろう。集合した時も俺に悪感情を向ける奴は誰もいなかった。謁見にいた連中ですらも俺を悪く見てるようには思えない。
「どうかされましたか?」
いつの間にか隣に来ていたクィンが尋ねてくる。
「兵士たちは俺のことどう思ってるのかって。あれだけいれば俺のこと知らない奴もいるだろうし。見た目はただの男子高校生でしかない俺がこんな任務に一緒にいることをおかしく思う奴はいるのかなーって」
「なるほど…。確かにそう思われる方も何人かはいると思います。ですがコウガさん」
クィンは俺の顔を見て笑顔を浮かべる。
「ここにいる兵士のほとんどは、一週間程前…故ドラグニア王国へ遠征に行った方々なんです。皆さん、Sランクモンストールの群れやあの魔人族を一人をたった一人で討伐されたコウガさんのこと一目置いてるんですよ」
言われてみれば、ドラグニアにいた兵士たちが何人か混じっている気がする。デ…何とかって名前の奴もここにいるしな。
「あの場にいた兵士たちはあなたに助けられた恩を感じています。そしてあなたの強さに憧れも抱いています。当然私もその一人です」
「ふーん。人を見た目だけで判断するような奴らではないのか。珍しいな。冒険者ギルドとかじゃどいつもこいつも俺を見たままで勝手に評価して絡んできたクソボケばっかりだったからな」
「それは、まあ……。とにかく、皆コウガさんのこと頼りにしてますよ!」
「それはいいんだけど、俺たちはあくまで鬼族の捜索を優先するからな。獣人族の実態の調査はお前らに任せる」
「分かってます。それと……」
クィンは嬉しそうに微笑む。
「こうしてコウガさんたちと一緒に行動するのは何だか久しぶりですね。正直嬉しく思ってます」
「確かに、久しぶりな気がする」
「私も。また一緒に戦おうねクィン」
少し無邪気さを出した笑顔に俺もつられて笑う。アレンもクィンと一緒になれて気を良くしている。獣人族に対する疑念が高まり平静さをどうにか維持している彼女だが、以前の仲間と行動を共にすることで落ち着きを取り戻しつつある。
「クィンさんにも慕われてるんだね甲斐田君。やるじゃない」
「は?何言ってんだあんたは」
藤原が小声でそう言ってきて怪訝そうに見る。藤原は後ろを振り返って高園に視線をやって、ほら…と何か促してくる。
「縁佳ちゃんとも話してほしいな」
「話すことなんかねーよ」
「何でもいいから。彼女も君と話したがってるよ」
そう言って藤原は高園に手招きをする。高園は戸惑い近づいてこない。藤原は高園の手を引いて俺たちの近くまで連れてきた。
「…………」
「…………」
「……………」
「……………」
会話などする気はない俺は黙り、何を喋ったらいいのか分からない様子の高園も何も言えないでいる。結果沈黙が流れる。
「………まあこれはこれで良いか!」
「はぁ?」
勝手に納得して責任を放棄する藤原。高園を見て不思議そうに首を傾げるクィン。背中から高園の視線を感じるが話すことがないのでそのままにしてやる。代わりにアレンが高園のことをちらちら見ていた。
気持ちが落ち着いていたように見えたアレンだったが、目的地が近づくにつれてピリついた空気を纏うようになった。センたちも同じようになり、みんないつでも戦える状態を心掛けている。
「そろそろ…国境に入ります。一旦止まりましょう」
クィンの指示で全員進行を停止する。ゾンビで発達した俺の目の先には獣人族の国「カイドウ王国」が見えている。目測からして1km先だ。
「では……作戦通りに動きましょうか。コウガさん、あなたの固有技能で例の皆さんを…」
「ああ。アレン、みんな。俺の前に」
アレンとセンたち鬼全員が横に並んで俺の前に立つ。俺はアレンから順番に「認識阻害」を付与していく。
「クィン、藤原。どう見える?」
「皆さん、獣人にしっかり見えてます」
「うん。鬼じゃなく獣になってるよ」
二人とも同じ評価をもらう。クィンからあらかじめ獣人族の姿を写真で見せてもらい、それをイメージしてアレンたちを獣人の姿に作り替えた。
「よし。じゃあ鬼たちはこれで良いとして、あとは俺が姿を消す。それとテメーもいけるか高園」
「うん。任せて」
まずはじめに国境を通過するのは、姿を消せる俺と「認識阻害」をかけた鬼族全員、そして「隠密」で気配を消せる高園で行く。次に俺たちの合図でクィンと藤原が後に続くという流れだ。クィン以外の兵士全員にはここで待機してもらう。
「じゃあ。行くか。高園、アレンたちの後ろについて進んで行け。みんな、もう進んでいいぞ」
俺の号令のもと、第一の進軍は国境内に踏み出した。
いざ、カイドウ王国へ…!