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「獣人族 カイドウ王国」

 国境内に踏み入りそのまま進むこと数分、進行方向から人の気配がする。そのすぐ後に二足歩行の人間サイズの獣が二人現れる。これが獣人ってやつか。初めて目にする。高園も同じく初めて見ることとなり、微かに息を吞む。


 「ん?大勢で何をしてたんだお前たち。この辺りの見回り…ってわけではなさそうだが。今はそれは俺たちが担当しているところだしな」


 見た目からして兎種の獣人、犬種の獣人が獣人に偽装したアレンたちに問いかけてくる。因みにこの「認識阻害」の効果は明確な獣の種を決めてはおらず、ただ獣人に見えるってことだけを設定している。今いる二人の獣人には「同僚の獣人」って感じで認識させている。


 「ん……と………」


 アレンが返答に詰まってしまう。その様子を獣人たちが怪しく思い始めたところに、


 「国王様の命で狩りに行ってたのよ!魔物の狩りを」


 スーロンがそんな誤魔化し発現をする。


 「狩りだと?王国の最近の方針だと俺たち下っ端は国境の外になるべく出るなって話だったぞ?どういうつもり―――」


 めんどうごとになる前に、姿を消している俺は二人の獣人の顔面に拳を入れて、昏倒させた。


 「もうこれの方が早いかも」

 「か、甲斐田君……」


 拳を突き出す俺に高園が困惑した表情を見せる。


 「高園。“鷹の眼”でここから先を見通してみろ。それで何がいるか俺たちに教えろ。アレンたちの後ろからでも見通せるよな?」

 「う、うん!」


 アレンたちの後ろから「鷹の眼」で進行方向とその周囲を偵察させる。それによる高園の指示のもと俺はマッハで偵察しにきた獣人どもを倒しまくる。

 その繰り返しをして半分程進んだところで、俺たちは「妙な」獣人どもと遭遇する。


 「甲斐田君、私でも分かるくらいに、あの獣人たち何か変だよ」

 「やっぱりそうだよな。何だあれは……」


 新たに現れた獣人たちの体から「黒い瘴気」のようなものが漏れ出ている。


 (これが国王や兵士団長が言ってたやつか…)


 さっきと同じように獣人どもに接近して延髄に蹴りを入れる。しかしこの獣人どもは倒れはしなかった。それどころか、


 「「…………」」

 「何……こいつら」


 苦悶の表情を浮かべることなく俺たちを睨む獣人ども。アレンが嫌悪の視線を向ける。俺は続けざまに人体の急所部分全てを射抜いて今度こそ倒す。


 「まだ漏れ出てやがる……」

 「…………っ」


 意識を失った獣人どもの体からは例の瘴気がまだ出ている。アレンたちはそれらに嫌悪の視線を向ける。


 「近づくにつれて変な獣人が出てくるみたいだな。それにこいつらどこか変だ。気をつけねーと」


 みんなに注意喚起をおこしてから進行を再開する。


 (あの黒い瘴気、まるで………)


 俺はとある可能性を浮かべる。予想が正しいのなら、獣人族は――――





 偵察の獣人どもを全員倒したところでクィンと藤原を合流させ、待機させている兵士団も動かす。

 最初に王国に乗り込むメンバーは俺たちと藤原とクィンだ。合流した二人にも「認識阻害」をかけて気配と姿を隠す。

 目の前には災害レベルのモンストールサイズはある大きな柵がいくつも並び立っている。その中心に出入りする門があり、その傍には門兵の獣人がいる。

 同じ獣人と誤認した門兵は俺たちに何も言うことなくすんなり通してくれた。これで潜入は成功した。


 「す、すごいです…!兵士団だけだと散々手を焼かせられた潜入がこうも簡単にいくなんて……」

 「本番はここからだからな。感心してねーで進むぞ」


 少しはしゃぎ気味のクィンを促して先へ進む。


 「カイドウ王国」。まず思ったことは、緑が多い。デカい樹木がいくつもあり草原も広がっている。さらに川も流れていて、完全に自然大国の様相だ。元はここは里だったこともあり、自然要素の名残がそのままになっているのだろう。人族の大国と違って都会要素はなく、集落みたいなのもある。


 「そういえば今のところ、下位の種類しか遭遇してねーな…」


 獣人族は種によって強さの階級が決まってある。

 まとめると…猫種>猿種>牛種・熊種>豚・象種>犬・狐種>その他草食・小動物系(兎・鼠・鳥など)という階級だ。

 階級がトップである猫種の中でも、獅子ライオンが頂点に立ち、虎・豹・チーターがそれに続く。普通の猫もいるがそいつらは熊や牛と同列の強さとなっている。

 猿種はゴリラがいちばん強く、それ以外の猿種は牛種でいちばん強いミノタウロスと同レベルらしい。

 その他にも同じ種でも様々な獣が存在していて多種多様だ。魔族の中でいちばん種が多いゆえに、数もいちばん多い言われている。

 以上が、事前にカミラから聞いた獣人族の基本情報だ。


 国境内を偵察していた獣人どもは犬や兎、狐種しかいなかった。見回りを任されているのは種の階級が低い奴らしかいなかった。ならば、ここから先から階級が上の獣人どもが出てくると考えて良いだろう。

 王国に入ってからアレンたち鬼全員は油断なくあたりを見回している。鬼がどこかにいないか捜し始めている。


 「気持ちは分かるけど、そうやってきょろきょろしすぎてると怪しまれるぞ。獣に擬態しているとはいえ」

 「ん……そう、だね」


 アレンたちは反省するもののあまり落ち着いていられてない。


 (手っ取り早く内情を知るには、やっぱりキングを取るのが最速最善か)


 姿と気配を消している俺は屋根を飛び回って見回し、この国でいちばんデカい建物を見つける。いちばん偉い奴、いちばん強い奴がいるとするなら、やっぱりああいう存在感が大きいところだろーよ。


 「ここをあてもなく動き回って鬼たちを捜すよりも、まずは本山からいこーぜ」

 「確かに……ここは一気に獣人族の王に会って話を聞くのが最善ですね。あまり動き過ぎると獣人たちに感づかれてしまいますし」

 「……話ができたらいいが。問答無用で戦闘になることも考慮しとけ」


 クィンの賛同を得たところで行き先は獣の王がいるであろう大きな要塞らしき建物にする。緑が多いこの地には似つかわしくない不気味な様相をした黒い要塞らしき城?だな。ゲームだと魔王城とも言える。

 この辺りにいる獣人どもは偵察兵と同等あるいはそれ以下のレベルしかいない。比較的戦闘向きでない獣人たちだ。

 しかし要塞城に近づくにつれて、辺りの空気が変わってくる。


 「戦気が……」

 「うん。強くなってきてる」


 魔族は感知できる戦気の変化を感じ取ったアレンたちはいつでも出れるよう武器を構え魔力を手に纏い出す。

 この地域は「強い」獣人どもが住んでいるようだ。それにしても……自然が多かったはずの地が、この地域に入ると……


 「ここ、同じ国なのかしら?雰囲気がさっきと全然…」

 「はい。何だか、怖く感じます…」


 藤原と高園もこの辺りの異様な何かを感じ取っている。緑が豊富だったさっきの地域と比べ、何だここは。どこも舗装された地面になっていて、木々も全く無い。まるで近代的な様相だ。


 「まるで、里の中に王国を無理矢理ねじ込んだ造りだなここは。アンバランス過ぎる」


 やっぱりここには「何か」がある。国王が懸念していただけあるな。鬼を捜すことしかしないでいようって考えてたけど、興味が出てきたからこの国の調査もやってやろうと思うようになった。


 (それに………ここにはあの時と同じ……。そしてあの黒い瘴気…)


 俺たちがこの地域に踏み出してから一分も経たないうちに、獣人が何体か現れる。


 「オイ!お前ら……“獣”の臭いがしねーな?本当に同胞か?」


 狼の獣人が鼻をひくつかせてアレンたちを睨んで尋問してくる。それから十数人もの獣人どもが俺たちを囲むように道を塞いでくる。


 「あの目……どうやらほぼ確信しているようです。私たちが……侵入者であることを」

 「じゃあ……開戦だ!」


 俺はアレンたちにかけている「認識阻害」を解除して、合図を出す。


 「鬼族の生き残りは、どこ!?」


 アレンたちは鎖から解き放たれたかのように獣人どもに攻撃を一斉に放った。


 こそこそ進むのはここまで。ここからは大胆に動いて、この国の謎を暴いてやる。

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