目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

「躊躇うな」

 災害レベルの敵と何度も戦い、勝利してきたアレンたちにとって、目の前にいる獣人どもなど何の脅威にもならない。瞬く間に敵を倒していく。俺は観客として彼女たちの奮闘を見ることにする。俺の出番など完全に無いだろうし。

 騒ぎを聞きつけた獣人どもがアレンたちに牙を向ける。大混戦になりかける。

 アレンたちと藤原はまあ良いとして、あとの二人の戦いぶりはどうだろうか。


 まずはクィン。彼女もかつては俺たちと旅をした経験がある。俺たちを旅するということは災害レベルの敵と戦うことと同義。それを乗り越えたクィンならこの程度の敵も何ともない。向かいくる獣人を剣で返り討ちにしていく。


 「ふ――っ」


 剣速が上がっている。魔力のコントロールもうまい。剣に薄く纏わせて省エネで敵を斬り倒している。力も技術もドラグニアで別れてから格段に上がっている。



クィン・ローガン 23才 人族 レベル73

職業 戦士

体力 3000

攻撃 3500

防御 1750

魔力 2500

魔防 1750

速さ 2900

固有技能 神速(+縮地) 剣聖 炎熱魔法レベル7 水魔法レベル7 

嵐魔法レベル7 魔力防障壁 見切り 



 あれからレベルが10以上も上がってるのも中々だが、能力値の伸びが凄いな。何があった?よくそこまで伸ばしたものだ。サント王国に帰ってからよほどの鍛錬を積んだのだろうな。

 で、もう一人。元クラスメイトの…


 「――!――――っ!」


 ドス!「ぐお!?」

 ビス!「ぐっ!」

 ザクッ「ぎゃあ!?」


 高園縁佳。弓矢を武器として獣人どもを次々に射抜いている。まあ死なないよう肩や背、目玉とかを射ているだけだけど。

 それにしても、狙撃手にとってあの間合いだと戦いづらいだろうに。ましてや半分混戦の状況。動き回る敵を射抜くのは至難の業だ。

 なのにあいつは当たり前のように敵を正確に狙撃している。

 あれが「千発千中」の力か。凄いな。しかし至近距離から射抜いているせいで矢の威力が落ちている。高園が本領を発揮できるのは、敵から遠く離れたところからだろう。今は彼女の本気はまだ見れそうにないな。

 今はせいぜいみんなのサポート役として立ち回ってるところか。彼女が狙撃して隙をつくって、そこをアレンたちが容赦無く突いて討っていく。混戦の中でも連携がしっかり取れていて良い感じだ。


 しかし、「それ」は次の集団が迎撃に出た時に起きた。


 アレンが熊の獣人に鋭い蹴りを急所に入れる。戦力差が歴然であるから普通に倒れると思っていたのだが……


 「ガァオ!!」

 「っ!?」


 その熊獣人は倒れるどころか爪を立てて反撃に出たのだ。


 (完全に腹の急所に入ってた。これまで倒した獣人と同じく倒れるはずなんだが……)


 アレンは熊獣人の猛攻を躱して、今度は首に肘撃ちを入れる。あれは頸椎を破壊した。運が悪ければ死ぬ。良くても起き上がることはないはずだ。

 がしかし……


 「まだ、倒れない!?」


 首が歪にひねっていて、誰もが「これ死んでね?」って思う状態のはずが、それでも襲い掛かってくる熊獣人。そいつの体からは例の黒い瘴気が漏れ出ている。


 「なっ……!?」

 「こいつ……!?」


 周囲を見るとセンとスーロンも同じような獣人に苦戦している。今までの獣人なら絶命あるいは昏倒する程の攻撃をくらっても、戦意むき出しに襲い掛かってくる獣人どもがちらほら現れ始めた。そいつらも全て黒い瘴気を纏っている。


 「何なの、この獣人たち……っ」

 「美羽先生、いったいどうしたら…っ」


 藤原と高園はその異様な獣人たちに気圧されている。ギルスが炎熱魔法で獣人の全身を燃やすが、そいつは怯むことなくギルスに迫ろうとする。


 「……もう手加減はしない。

 殺すっ」


 異様な獣人たちを目の当たりにしたアレンはそう決心して、熊獣人に殺意がこもった拳と蹴りを全身に叩き込みまくる。血だるまと化した熊獣人の脳天に踵落としが炸裂する。頭から血をドロッと出して、熊獣人はようやく倒れて死んだ。


 「………っ!」


 血みどろで死体となった熊獣人をみた高園は小さく息を呑む。あの様子……もしかして魔物やモンストール以外での死体を初めて目にしたのか?


 「はぁ!!」

 「ふっ!!」


 アレンに続いてセンもスーロンも異様な狐・豚といった獣人どもに殺人の拳闘術を使用して殺していく。その凄惨さを目の当たりにした高園は顔をやや青ざめさせている。

 その高園に黒い瘴気を纏った狐獣人が襲い掛かる。高園は気を持ち直して即座に獣人の肩・脚・腹に矢を命中させる。一瞬で三か所を射る早業にはやるじゃんと評価するが、それじゃあその異様な獣人を無力化するのは不可能だ。

 案の定、狐獣人は怯むことなく高園に火の弾を飛ばしてくる。慌てて「魔力障壁」で防いで再び弓矢を構える。しかしその狙いは急所に向けられていない。


 (馬鹿が……ためらっていられる状況か)


 矢を射るも命中した箇所は左目。相手が普通の状態なら戦意を挫き倒れるところなのだろうが、今の相手はそうじゃない。目玉潰されようが意にも介さない狂った奴らだ。

 全身に火を纏った狐獣人が全身を使った突進を仕掛けてくる。高園は迎え撃つべく弓矢を構える。その近くに降り立った俺は高園に聞こえるように言葉を投げかける。


 「頭を射ろ」

 「………!?」


 高園は俺に少し目を移して驚愕する。


 「アレンも言ってたろ。あいつらを無力化するのはテメーじゃ不可能だ。殺すしかねー。腹決めて殺せ」

 「かい、だ君……」


 高園の目は迷いに揺れている。そうこうしているうちに火を纏った狐獣人が間近に迫ってきている。


 「させない!」


 そこに藤原が放った光の弾が炸裂して動きを止める。


 「さあ」

 「う………」


 高園は一向に頭に狙いを定めようとしない。狐獣人が再び火を纏って今度は切り裂き攻撃をしに飛び出してくる。高園に爪が振り下ろされる寸前―――


 ズバン!


 クィンが水を纏った「魔法剣」で狐獣人の首を刎ねた。


 「っ!!」


 高園はそれを呆然とした様子で見ていた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?