しばらくしてようやく迎撃集団を全滅させた。アレンたち。死んだ獣人の数は全体の半分以上。そのどれもが例の黒い瘴気を纏っていたものだった。あとは普通の獣人で、倒れているの少しで残りの奴らは逃走した。
「今襲ってきた連中は下位から中堅クラスの戦士ってところか。けど、中には異常な生命力を持った奴がいた」
「頸椎を破壊しても、内臓を破壊しても倒れなかった獣が何人かいた。心臓か脳を完全に壊す以外しか倒す方法が無かった」
「私もそうだったわ。何だか今まで戦ってきた魔族とは異質過ぎる」
「というより、正直人と戦った気がしなかったぜ…」
「いったい何だってんだ、この獣ども…」
アレンたちの会話を聞いて俺は少し思案する。黒い瘴気を纏った獣人どもの生命力が桁外れだった。傷を負っても怯まない。というかあいつらに恐怖心というものがまるで感じられなかった。首を折っても死なないなんておかしい。心臓か脳を潰してようやく死ぬって奴らしかいなかった。
戦闘力は大したことなかった奴らだったが、あの生命力の強さはみんなにとって厄介だろうな。ここからさらに強い獣人どもも今みたいな生命力を宿しているなら、苦戦は免れないだろうな。
で、それはそうと……
「…………………」
高園は消沈した様子で立ち尽くしている。彼女を藤原とクィンが心配そうに構っている。
「クィンさん。さっきは助けていただきありがとうございます」
「いえ…。その、大丈夫ですか?」
「は、い……」
そんな高園に俺は少しイラっときて、彼女に言葉をぶつける。
「人を殺すのを見たのは初めてか?」
高園は小さく頷く。手がまだ震えている。
「テメーのことだ。この世界にきてからはモンストールか魔物しか戦ったことねーんだろ。そしてあいつらしか殺してこなかった。
だからこうして知性を持った人と初めて戦うことになり、初めてそいつらの死を目にした。獣の形をしてはいるが奴らも俺たちと同じ人間だ」
「……………」
「ここには人間しかいない。だからあの時、テメーは殺すことを躊躇したんだろ?そのせいで自身も危険に晒しもした」
一つ言っておくと続きを述べる。
「この先で待ち構えている獣人どもはもう人間じゃない。奴らはもはやただの獣と化している。だから………殺すことを躊躇うな。それができねーなら、すぐにサントへ帰れ。ここから先は躊躇いはすなわち死だ」
高園はしばらく俺を見つめる。アレンたちも俺たちの様子を黙って見ている。
「………甲斐田君の言う通り、今日初めて人が死ぬところを目にした。初めて人を殺す場面に遭遇した。私は……躊躇ってしまった」
高園はどこか悔しそうにしている。藤原とクィンに目を向けて聞いてみる。
「あんたも初めてなのか?人を殺すところは」
「うん……。今までモンストールや魔物とした戦ったことなかったから。正直私も堪えてたんだ…」
藤原は自嘲気味にそう答える。
「私も……本当はさっきのあれが、初めての殺人だったんです」
クィンは厳しい顔でそう答える。高園と藤原は少し驚く。
「こうなることは……予想してました。獣人族と争うことになることを。そしてこの剣で彼らを斬ることを。
ですから、覚悟を決めてここへ来ました」
クインの言葉に二人とも胸を打たれたような反応をする。
「私も出来れば人を殺したくはなかった。しかしこればかりは、アレンさんたちの判断が正しいと思ってます。こちらが躊躇えば殺される。もうその領域に踏み込んでいるのだと。先ほどの獣人たちには得体の知れない脅威を感じました。ですから、私は戦います。この先の獣人族も斬る決心はついています」
クィンはきりっとした顔でそう言った。彼女は覚悟を決めている。ここに来る前からこうなることを予感していた。だからアレンたちと同じように迷いなく殺すことができた。
「要は覚悟ってやつだ。というか、獣人族はもう人を辞めている。人じゃない。だから遠慮はするな。できるか?テメーに」
高園に問いかける。この先へ進む覚悟があるかどうか。
彼女はしばらく黙るが、自身の頬を叩き、俺に顔をしっかり向ける。その目には迷いはもうなかった。
「ごめんなさい。もう大丈夫です。あなたたちについていきます!」
虚勢ではないことが分かり、そうかと言ってアレンたちと共に先へ進み始める。
美羽に肩を優しく叩かれた縁佳は意を決して、皇雅たちの後を追った。
(決めたんだから。あなたのこと見てるって、離れないって……)
カイドウ王国の城の一室。
「侵入者ぁ?この国にそんなのが入ってきたってのか」
獣人族の国王は不機嫌そうに通話の相手に話しかける。
「まあ、お前さんがそう言うのならそうなんだろうなァ。まさかここに入ってくる馬鹿が現れるとはなァ。サント王国の連中か?まあいい」
国王は大きな椅子から立ち上がり、部屋を出る。
「湧いて出たゴミムシどもの駆除といこうか。どんな奴らが来たのかを確認してから殺してやる。
オイ!“幹部”どもを先に動かせ!俺は後で向かう!」
大きな声で部下に指示を出して、獣人の国王は侵入者たちのもとへ向かって行った。