進行は順調とは行かなかった。
次々に迎撃しにくる獣人の集団の戦闘レベルはアレンたちにとって楽に倒せるものではなくなってきている。
(象に熊、牛……あ、猿も出てきた。レベルがさらに上の戦士が増えてきている。一撃で殺すこともできなくなっている)
俺は建物の屋根から戦況を分析している。俺はこの戦いには手を出さないでいる。俺の意思ではなくアレンたちの意思によってそうなっている。今回の敵は獣人族ということで、因縁の敵として捉えているアレンたちは鬼族の代表として獣人族と戦う気でいる。そこに俺をできれば介入させたくないそうだ。
藤原やクィン、高園は良いのかと聞きたいところだが、まあ良いのだろう。俺だけがダメな理由、それは簡単だ。
俺が参戦すれば戦いが一瞬で終わってしまうからだ。以上。
(敵は間違いなく強くなってきているけど……みんな凄いなー)
種の階級が上位の獣人が出てきても、鬼たちが明らかな負傷を受けるところは見ない。しかも全員まだ「限定進化」を発動もしていない。
それだけ鬼たちが強くなっているのだ。先日の危険地帯での戦いでみんなまた上の舞台へ立てたみたいだ。
(まあ、あの二人も大したもんだけど)
続いて藤原とクィンを見る。藤原の魔法攻撃の威力は凄まじいもので、嵐魔法で豚獣人をズタズタにして、光魔法で牛獣人を動けなくしている。
彼女のステータスもバグってるレベルで強くなっている。俺を除いた異世界召喚組の中では彼女が間違いなく最強だ。
そしてクィンだが、さすがに鬼たちや藤原に後れをとるレベルだ。しかしそれでもこの大混戦で上手く立ち回れている。というか仲間を上手く使っている。
今だって隣にいるガーデルに「幻術」を使わせて周囲の敵の動きを止めて、その隙に高速の剣技で斬り伏せていく。連携が上手だ。日頃から兵士団でそういう訓練を積んでいたのだろう。
で、もう一人の同行者だけど、彼女も中々上手くやれている。
“
高園は混戦の渦から数百m離れた位置から、狙撃銃による雷の弾丸を撃ち放った。
(そうだそれが
高園がいる位置は俺と同じ建物の屋根からだ。それも俺よりさらに離れたところにいる。敵から遠く離れて、しかも敵味方が入り混じっている戦場に向けて、彼女は今度は躊躇無く引き金を引いてみせた。
結果、フレンドリーファイア(仲間撃ち)することなく、猿獣人の胸元を正確に撃ち抜いた。あそこの位置からしかも味方も混じっているというのに、敵のみを狙撃するその命中精度、大したものだ。
因みに彼女の武器は弓矢から狙撃銃へと変わっている。あの銃は弓矢が変形したものらしい。ラインハルツ王国へ派遣されてた時に、そこの兵士からもらった科学武器だそうだ。弓矢か狙撃銃に即座に変形できる代物だとか。
さらには弾あるいは矢に属性魔力を込めて狙撃する「属性狙撃」こんなことができるのは世界でも彼女くらいだ。狙撃の腕だけ見るならこの世界でも一級品に値する。
(それなりに努力してたんだ)
高園の活躍を無表情に観察してから再び戦場の中心地に目を向ける。鬼たちも二人組・三人組で戦いはじめ、上手く敵を撃破していく。倒れていく獣人はほとんどが死体となっている。黒い瘴気を纏った異質の奴らが増えてきている気がする。殺す以外で無力化させる術がなくなってきているのだ。
(それに………)
アレンが一人の獣人戦士と戦っているのを見る。敵は大猿の獣人でそれなりに強い。通常時のアレンとやや互角に打ち合っている。しかしアレンの方が力も技量も上であり、徐々に大猿が追い詰められていく。
止めの一撃となる雷を纏った貫き手が大猿の心臓部分を刺し貫く。これまで通り心臓を潰されたのなら黒い瘴気を纏ってようが死ぬ。
はずだった。
「死、ねぇ!!」
「うっ!?」
胸に穴を空けられた大猿は血を吐きながらも、アレンに向かって鋭い爪撃を繰り出した。アレンは咄嗟に頭を逸らして躱し、カウンターの蹴りを首に入れる。大猿の首が不自然な方に曲がる。首の骨が折れている。
しかし大猿は意にも介さず格闘術を繰り出していく。
「心臓を潰したのに、首も折れてるはずなのに、まだ動くの…!?」
普通ならとっくに死んでるはずの状態の大猿に、アレンは焦りを見せる。
「我ラ獣人族ヲ、そノ程度の攻撃デ殺せるト思うナ!!」
発音がおかしくなった大猿は何言か叫びながら両腕に魔力を纏わせて大技を繰り出す。
「心臓もダメ、首の骨もダメ、なら……」
大猿の大振りの一撃を跳び上がって躱したアレンは続けて全身を前方へ回転させてから、両脚を揃えたつま先でのスタンプ蹴りを脳天に炸裂させた。
頭の中身がドロッと出てきて、大猿は白目をむいて地面に倒れる。二度と動かなかくなったから死んだようだ。
(生命力がさらに上がっている…)
敵は戦闘力も生命力もパワーアップしてやがる。それにしても心臓を潰されて首の骨を折られても意識を保ってられるとかどう考えても普通じゃない。いい加減にあそこにいる獣人どもの誰かを「鑑定」してみるか。
そして「鑑定」したところ……
「こっ、これは……っ」
衝撃的な事実を知った俺は驚愕した。