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「獣の憎しみ・鬼の怒り」2

 第二の集団戦も佳境に入る。階級が高い獣人戦士たちの数も半分以下まで減った。


 魔法剣 “火炎纏かえんまとい


 クィンの得意技であり十八番技でもある魔法剣の一太刀が、猪獣人の首を刎ねた。生命力が高い獣人戦士との連戦で、彼女からは疲労の色が見え始めている。残心をすべく首が無くなった猪獣人に目を向けると、


 「そん、な!?」


 首無し状態であるにも関わらず、猪獣人はクィンに殴りかかってきたのだ。拳の一撃を躱し、そこから猪獣人の背に剣を振り下ろすが、これを躱してみせた。


 (首を失って10秒は経つのに、しかも攻撃を避ける動きまで!?いったい…)


 理解を超えた現象にさすがのクィンも呆気にとられてしまう。しかし猪獣人の体は糸が切れた人形のように力無く倒れて二度と動かなくなった。


 「クィン。こいつらは脳を潰せば絶対に殺せる。たぶん心臓を潰す・首を刎ねるだけじゃこいつらは死なない」


 クィンを助けたのはセン。彼女の手は猪獣人の頭部の血で真っ赤に濡れていた。彼女が転がっていた頭部を破壊して絶命させたのだ。


 「この獣人たちは、頭を破壊しない限りは即死しないのですか!?」

 「そうみたい。アレンとスーロン、ルマンドが確認してるわ。こいつらやっぱりおかしいわ…!」


 センは忌々しげに言葉を吐く。クィンも得体の知れない敵と直面したことに戦慄している。

 一方でアレンはまたも獣人戦士と一騎打ちをしていた。


 「まさかとは思っていたが、侵入者のほとんどが鬼族じゃねーか。数か月前に捕らえていたあいつら以外にもまだこんなにいたとはな。しかもこの国に貴様らからのこのこやってくるとは」

 「っ!やっぱりこの国に仲間たちが…!」


 ツキノワグマの獣人はアレンに憎悪の目を向ける。


 「貴様ら鬼族が滅んでくれたお陰で戦に負け続けてきた我らの溜飲は下がり、領地を増やすこもできた!

 だというのに貴様らはまた、我らから奪うというのか!?獣人族の我らにとって貴様ら鬼族は、モンストールと同じ悪の侵略者だ!ここで全員殺してくれる!!」


 ツキノワグマ獣人はかつて起こった鬼族との領地をめぐった争いで何度も敗れたことに対する恨み言を吐いてアレンたちに殺意を向ける。彼に同調するように他の獣人戦士たちも怒り・憎悪を向けて武器を構える。全員の体からは黒い瘴気が漏れ出ていた。

 そして一斉にアレンたち鬼族に攻撃しにかかる。対する鬼たち全員から戦気が倍近くまで膨れ上がる。

 刹那、獣人戦士全員の首がとんでいた。鬼たちがすれ違いざまに一瞬だけ力を全力で行使してみせたのだ。


 「勝手なことばかり言うな」


 アレンの口から怒りがこもった声が出る。打ちあがった獣人戦士たちの頭部が空中で静止する。ルマンドの「神通力」によるサイコパワーだ。


 「お前たちはただ戦争で敗れて、領地が得られなかっただけでしょ?それに私たちは領地を奪っただけで、お前たち戦士を…民を捕らえたりも虐げたりも殺したりもしてこなかった。殺したのは戦場でだけ!間違ったことはしてこなかった!」


 アレンの言葉を獣人戦士たちは呆然とした顔で聞いている。


 「お前らは何だ?里が滅んで散り散りに逃げていた仲間たちを容赦無く捕らえてここに連れて何をしているの?もし奴隷扱いしていたり、虐げていたり、殺していたりしてるのなら、絶対に許さない!みんな殺してやる!!」


 アレンの叫びと同時に、ルマンドの神通力が獣人戦士たちの頭部を破壊した。


 「「「……………っ」」」


 その凄惨な光景を美羽とクィンと縁佳は戦慄・怯えが混じった表情で見ていた。





 第二の集団戦を終えたアレンたちに疲労の色が見え始める。藤原が保有している自製の回復薬(体力と魔力が5割以上回復する)で少し休憩をとる。


 「なぁみんな。黒い瘴気を纏った獣人どもの正体が分かったぞ。あいつらは―――」


 と、アレンたちに情報を提供しようとしたその時、


 ―――――ドッッッ


 こっちに向かってきた「魔力光線」を躱す。明らかに俺を狙ったものだ。姿をさらしていたせいで新たな敵に見つかったようだ。


 「ちっ。避けられたのかよ。いちばん弱そうだったからすぐ殺せたと思ったのに」


 「魔力光線」が飛んできてから数秒で次の敵がやってきた。今まででいちばんデカく凶悪なオーラを出してる熊獣人だ。あのサイズと凶暴そうな雰囲気からして、ヒグマか。

 熊に続いて3人の獣人が降り立つ。


 (こいつら、全員災害レベルだ)


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