それからまたしばらく経った後、今度は高園が訪れてきた。今日は訪問者が多いなー。
「テメーは何のようだ?」
「その………これからどうすればもっと強くなれるのかなって相談しに…(“は”ってことは誰かがここに来たのかな?)」
高園に鍛錬方法のことで相談され、テキトーに応じてやる。こんな狙撃攻撃が出来れば大幅に強くなれるんじゃねーかとか、ほんの少しだが漫画やラノベに出てくる狙撃キャラの必殺技を教えてみたりとか言ってみた。高園は俺の話を嬉しそうに聞いていた。
「…………明日から本当に出て行っちゃうんだね。私はこうg………甲斐田君にはここに残って欲しいって思ってるんだけど……」
「無理だな。もちろん人間関係のことが大きな理由になってるけど、俺自身も真面目に修行しないといけねーって考えてるし。ぶっちゃけ俺がこんなところにいても全然強くなれねーし」
「………甲斐田君がドラグニアで遭った魔人族がいちばん強い個体で、甲斐田君でもとんでもなく強いって思わされるくらいだったんだよね?」
「ああ。奴に勝つ為にはガチで鍛えるルートは避けられない」
高園は何故か頬を少し赤らめて俺に微笑みかける。
「何だか、部活動に打ち込んでいる時と同じに見えるね。あの時みたいに必死に努力しようとしてるのが凄く伝わってくるよ」
「そうなのかもな。まあ元の世界ではレースで勝つ為。この世界では奴との命を懸けた戦いに勝つ為と、規模と重みはだいぶ違うけど」
「うん……そうだね。でも甲斐田君ならきっと勝てるよ。私はそう信じてる」
「それはどうも」
「人のことは言えないけれど……修行頑張って!」
不思議と、今日の高園とは穏やかな気分で話すことができた。
その日の夜は本当にパーティーが開かれて、兵士たちや国王、元クラスメイトなどが参加して楽しそうに飲み食いしていた。ちなみに国の要人どもは招待されていない。パーティーに参加しているのは潜入調査に行った奴らくらいだ。特別にミーシャも参加しているけどな。
俺はというと…アレンやクィン、ミーシャくらいとしか会話はせず、クラスで固まっている藤原たちとは全く話さなかった。
「何だか、異世界召喚したあの日の夜のことを思い出しますね。こうして同じようにパーティーを開いてました」
「そうだったな」
あの日から全てが始まった。色々あり過ぎた。俺なんか一度死んだし。あれからまだ一か月程度しか経っていない。濃過ぎる時間を過ごしたものだ………。
そんなこんなで夜が過ぎ、朝が来て、俺とアレンがサント王国を出る時がきた。
「私もまた鍛錬をするわ。回復魔法をもっと極めてみようと思うの」
「そうか。頑張れ。あんたなら究極の回復魔法を会得できるかもな」
「ええ!誰も死なせない最強の回復術師になってみせるわ!」
藤原が握手を求めてきたので応じる。彼女の手は温かかった。
「時々この国に来てくれませんか?一緒に鍛錬したいと思ってますので」
「んー、気が向いたら?」
クィンとも握手をする。アレンに見てよろしくお願いしますと言うとアレンは嬉しそうにクィンに抱きついた。
「ん?テメーらもいたのか」
「まーね。いちおうあんたもクラスメイトなんだから」
後ろにいる曽根に話しかけるとそう返される。意外過ぎる返答に少し驚く。
「………テメーらももうちょっと強くなっとけよ。じゃないとこの先の戦いでマジで死ぬぞ」
「そのつもりよ。もっと強い防御魔法を習得してみんなを守るんだから!」
曽根はきりっとした顔で俺にそう宣言する。彼女の隣に堂丸が並び立ち、俺に指を突き付ける。
「お前なんかに負けはしねー。いつかお前の顔面に拳を叩き込められるくらいに強くなってやる。あと、高園を守るのも俺だからな!」
「あっそ」
意外だな、こいつが俺にそんなことをわざわざ言いに来るなんて。何か変な物でも食ったか?
「必ず皆さんを元の世界へ返す魔術を完成させます。コウガさんも修行頑張って下さい!」
「今度は、一緒に戦えるくらに強くなってみせるから…!!」
ミーシャと高園の言葉に頷くと、アレンと並んで王宮の門から出る。
「まずはハーベスタン王国に行こうか。カミラから呼ばれてるんだった」
「ん。行こう!」
異世界での旅がまた始まろうとしている。今度は修行の旅になりそうだ―――