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「サラマンドラ王国 再び」

 ハーベスタン王国の誰にも知られないままカミラは俺たちと一緒に国を去った。船を出してベーサ大陸に戻り、鬼族の仮里に入る。

 人口は30人近くしかおらずでまだまだ少ない。戦える鬼は一緒に旅した奴らくらいだ。


 「ここが今の鬼族の里ですか。先日ここで大規模な戦いが起こったのでしたよね。その痕跡がまだ残ってますね…」


 カミラは興味深そうに里の様相を見回っていた。生まれてからこの元獣人族の国に入ったことは一度もなかったとのこと。

 しばらく回ってからカミラをみんなのところに連れて行き、紹介する。彼女の特殊な固有技能「未来完全予測」を披露して鬼たちの行動や思考を当てるのを見るとみんな盛り上がった。


 「ねーねー、あなたもコウガのこと、好き?」

 「どうでしょうか………私はコウガのことは弟のように想っていますけれど、もしかしたらいずれ、は……」

 「やっぱりライバルが増えたみたいね」

 「でもカミラも鬼族の仲間になったんだから一緒に暮らすで良いんじゃない?」


 色恋事情が好きな女子鬼たちに早速絡まれていたが楽しそうだ。


 「これは、とんでもない味方が来たんじゃないか?」

 「敵の行動や考えてることまで予測する力……集団戦においては絶対的な力を発揮できるぞ」


 男子鬼たちもカミラの能力にご満悦だ。みんなに歓迎されているカミラは本当に楽しそうだった。

 夜はカミラの歓迎会を開いて楽しく過ごした、その翌日―――


 「修行の旅、ですか」

 「ああ。今日から始める。んで、いったいどこへ行こうか考えてたんだけど……」


 アレンとカミラを連れて早速旅に出た。一緒に旅してた鬼たちは里に残って里興しと他の鬼たちとのコミュニケーションを行っている。

 旅をすると言っても行く先に手強い相手がいることはそんなにない。また魔人族と遭遇することがないわけじゃないが、確率はきっと低い。

 しかしながら行く当てがないわけでもない。俺たちが今目指しているのは北に位置するアルマー大陸だ。

 魔物やモンストールを相手に海上戦を数回やったから大陸に着くのに半日近くかかった。この大陸は俺が異世界召喚された地であり、故ドラグニア王国があった大陸だ。

 そしてこの地にはある魔族の国も存在している。俺たちがそこに用があるのだ。



 「よぉ、意外と早い再会になったな?」

 「ああ。またあんたのところで世話になりたくてな」


 竜人族の国 「サラマンドラ王国」。かつて鬼族の生き残り(セン ガーデル ギルス ルマンド ロン)を保護していたところだ。

 そして目の前にいる派手柄の服を纏った壮年の竜人が、族長のエルザレスだ。彼は戦士最強でありかつて模擬戦でぶつかり合ったこともある。実際にとても強い。


 「カイダは相変わらず何も感じることが出来ないが、金色の鬼娘……アレンだったか、お前からは以前よりも強者になったと感じられる。何か強大な敵と戦ったのか?」

 「うん。獣人族を滅ぼしてきた」

 「何だと?」

 「あーそれは―――」


 再会の挨拶を済ませてから屋敷に案内してもらい、これまでの旅のことを話した。


 「…………まさか魔人族が生き残っていたとはな。それに今の魔人族のトップがあのザイートなのか…」

 「奴のことを知ってるのか?」

 「まあな。百数年前ものことだ。奴程の強い敵と戦ったことはカイダ…お前を除けばいなかった。

 ザイートは、先代魔人族のトップの右腕だった男だ」


 百数年前の魔人族のことをよく知っている人物がこんなところにいたとは。


 「ザイートともう一人…気持ち悪い口調で喋る巨漢の魔人とは何度も戦った。殺されかけたこともあったな。あの時から奴らは強かった」

 「………今はそのさらに強いと思うぞ。魔石から生じた瘴気とやらであり得ないくらい強くなったって話だ。俺も分裂体のザイートと戦ったけどやっと互角ってところだった。最近下っ端クラスの奴とも戦ったけど、そいつにも苦戦させられた」

 「お前でさえ手を焼くというのか。今の魔人族……俺の想像をはるかに上回る程の強化を遂げているのか」


 エルザレスは深刻そうに眉間を険しくさせる。その手は微かに震えていた。


 「奴らは、もう動くのか?」

 「ザイート曰く、今から約半年後から動くらしい。準備をするとか何とか。俺たちもその間で修行して強くなろうって考えてんだ」

 「そうか、よく知らせてくれた。これはとても重大なことだ。俺たち竜人族も来る大戦に向けて準備をしなければならんな。魔人族を討つ為に」


 エルザレスの言葉に黒髪の男…戦士「序列2位」のカブリアス、赤髪で尻尾が発達している男…戦士「序列10位」のドリュウなどが頷いた。


 「修行の旅をしているといったな?お前がここに来たということは、そういうことなんだな?」

 「ああ。定期的にここで鍛錬がしたい。あんたらに武術を習いたいんだ」

 「以前ここに来た時も武術を教えたが、どうやらまだ極め足りないようだな。良いだろう。お前に竜人族の武術を全て教えてやる」

 「ありがたい」


 エルザレスは俺の修行に付き合ってくれることを快諾してくれた。カブリアスとドリュウ、さらには他の「序列」戦士たちも歓迎ムードだった。ここにいる誰もがSランク以上の実力者だ。エルザレスとカブリアスに至っては獣人族の王・ガンツよりも強いしな。


 「ところで、アレンよ。鬼族の生き残りたちとだいぶ会えたそうだな?」

 「うん。今は仮里もあって、そこに30人くらい暮らしてる」


 ドリュウに話しかけられたアレンは嬉しそうに頷いて答える。そこから鬼族の生き残りのことも話した。


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