「やはり亜人族の国では内輪揉めが起こっていたか…。だが“排斥派”が国を出た理由が不治の病にかかったからだったとはな。ディウル(亜人族現国王)の奴は義弟たちが病持ちだってのは知らないんだったな。今のうちに和解しておいた方が良いと思うがな」
確かに仲違いをしている場合ではない。とはいっても両者ともに憎み合ってもいないから、誰かが仲介役をかって二人を会せたら解決できると思う。まあそのうち何とかなるだろう。
「そして獣人族……よりにもよって魔人族に服従してモンストールの力を取り込んでいたとはな…。強くなる為に邪悪な力を得るというのは、それで道を踏み外すというのは強くなったとは言わない。ガンツの馬鹿は最後までそれが分からなかったようだな」
エルザレスの言葉にアレンは思い詰めた反応をする。
「さて、今後俺たちはどれだけ強くならなければならないかだが……今のカイダでも手に余る、もしくは負けるかもしれない強さを手にしてるんだったな、今の魔人族ってのは」
「ああ。特にザイートがいちばんヤバいだろーな。万全状態になった奴と今から戦うなんてことしたら……きっと俺が簡単に負ける。
魔人族は“序列”持ちも含めてまだ10人以上もいると聞いている。そんな奴らが一斉に侵攻しに来たら……この世界は本当に滅ぶかもな」
俺の見解を聞いたみんなは茶化すことなく深刻そうに受け止めていた。
「情報提供はこんなところかな。
ところで……アレンにも修行の協力をしてほしいんだ」
話を振られたアレンは「?」な反応をする。
「俺に鬼族の拳闘術を教えてほしい」
「私が……?」
アレンはびっくりした反応を見せる。そんなに意外か?
「後でセンやスーロンにも教えてもらうつもりだ。みんなが持ってる武術の知識と型が必要だ。俺に必要なのは正しい、洗練された技だからな」
「う、うん。教えるのは良いんだけど…。それだけで良いの?」
アレンは特に嫌そうな反応は見せず、単に疑問を呈した。
「それこそが今の俺にはすごく必要なんだ。俺はこれまでザイートや他の魔人族にオリジナルの武術をいくつかぶつけたんだが、どうも決まりが悪かったんだ。今の技術はまだまだ粗末だと思う、アレンたちと比べるとな。ただ力が強いだけじゃあこの先の戦いではきっと大苦戦する」
間近で見てきたアレンら鬼族の拳闘武術、以前戦ったエルザレスの竜人武術、どれも正確で洗練された、無駄が無い動きだった。俺が求めるのはその境地だ。
ちなみに単純な力の強化なら自分で何とかできる。
「俺にまず必要なのは技術だ。相手の急所を正確に突く技とか身体をより自在に正しく扱って繰り出す技とかな。
とにかく今の俺にはそういった“技”に関する経験が圧倒的に不足している。
拳闘武術の指導、引き受けてくれるか?」
真摯にお願いをする。するとアレンは俺の手を握って優しく微笑んだ。
「コウガがこんなに頼ってくれるなんて……嬉しい!もちろんコウガの為にいっぱい教えてあげる!」
「ありがとうな、よろしく」
快諾してくれて嬉しく思う。しかし話はこれで終わらなかった。
「えーと、その代わり!拳闘術を教えるその日だけ、私の言うことを何でも聞くこと!約束できる?」
「…………何でもってのは?」
「私を喜ばせること何でも!」
即答だ。よく見ると後ろでカミラが策士みたいな感じを出している。彼女がアレンに吹き込んだな?全く上手いこと言いやがる。
まあ別に良いか。相手がアレンだしな。
「ああ、その条件飲もう。アレンの言うこと聞いて強くなれるなら安いもんだ」
「うん! やったぁ」
アレンは年相に喜んだ。好き合った仲だし、多少えちちな頼み事も……まあ受け入れるか。
「コウガ。私にもしてほしいことがあれば、アレンと同じように条件付きで聞きますよ?」
「またお姉ちゃんプレイか?」
「そ……それも良いですけど、私も色々と―――」
こうして俺の修行の目途は立った。鬼族と竜人族、二つの流派の武術を極めることで俺は更なる強化を遂げられるはずだ。
この後エルザレスたちも同じような要求をしてきたが、調子に乗るなとデコピンをお見舞いしてやった。
「あ、そういえば……数日前に人族の男が訪ねて、滞在しているんだった。紹介してやろうか?」
エルザレスの案内でその滞在者のところへ行くと……
「あ!テメーは!?」
「や、やあ……久しぶりだね。まさかこんなところで再会するなんて」
俺と雇用関係を結んでいた情報屋コゴル。アルマー大陸にモンストールの大群が襲撃すると聞いてどこかへ亡命したと聞いていたが、まさかここにいたとは。
「しばらくイード王国に避難した後、この大陸に戻ってみたは良かったけど、僕の家は跡形もなく消えてしまっていてね。こうしてサラマンドラ王国で住まわせてもらてるのさ。ドリュウさんの伝手で」
なるほどな。まあとりあえず、だ。
ゴチン! 「いだぁ!?なぜ拳骨を!?」
「ハーベスタン王国に俺の素性を勝手にチクっただろ。いつか殴るって決めてたから、今ブッてやった」
涙目になったコゴルにそう言ってやった。