サラマンドラ王国には一か月程滞在する予定だ。その間で人戦士たちから武術をしっかり学ぶ。あとは……彼らとの模擬戦を少々、かな。
滞在二日目……早速竜人戦士たちから拳技や蹴技、他にも色々な格闘術を習い始めた。小学生の頃に習い事で格闘技をある程度修めてはいただが、生死をかけた本物の戦士たちが修めた技はそんなものを軽く凌駕するレベルだった。今まで身につけてきた技の知識は一旦忘れて、完全な初心者として取り組むことにした。
「そこで腕はこう……そうそれで正解。で、下半身はこういう感じに――」
日によってはアレンにも鬼族の拳闘武術を教えてもらった。彼女の教えは上手だった。難しい言葉が出てこない文分かりやすかった。俺自身も飲み込みと要領は良い方なので、教えられたことを次々吸収していった。まぁ飲み込み早い理由は、俺の固有技能「武芸百般」のお陰もあるが。色んなことを教わって技を習得する度に強くなっていく気がして、非常に楽しい日々を過ごした。
一方の俺も教えてもらうばかりではなく、アレンたちの修行の相手もしてあげた。彼女たちが色んな技を繰り出し、俺はそれをしっかり観察して実際にくらってみたりもした。それによって技の知識をより多く学ぶことができた。
鬼族は激しくも的確に急所を突くという、数ある武術の流派で最も要領の良さを極めたもの。
竜人族の武術は俺のオリジナル武術と似た要素があり、自身の筋肉を自在に伸縮・肥大化させて、必要な部分に集中して魔力を集めて攻撃させるという己の身体を完全にコントロールすることを重点においている。さらには関節や骨までもあり得ないくらい自在に動かせる技術にはすごく驚かされた。
どっちも異なるタイプだけど俺にとってはどっちも必要な技術だ。鬼族の仮里に帰ったら鬼族の拳闘武術もしっかり学ばせてもらおう。
話は変わるのだが……竜人戦士たちとの模擬戦ではどいつもこいつも「限定進化」を発動して容赦の無い本気をぶつけてくる。俺がとても強くて不死身(というか死んでいるから死なないだけ)だという理由で常に全力を出しての模擬戦になってしまう。まあこれも互いの修行の一環として取り入れるようになった。
「序列」戦士たちの本気戦も面白いけれど、俺が楽しみにしてることは、あいつらの「進化した姿」をみることだ。
以前戦ったエルザレスの姿もド迫力あるものだったが、他の「序列」戦士たちのもそれはそれは素晴らしかった!現代で大人気のモンスターを狩るゲームとかに出てくる竜のモンスターを実際に目にしているようで、「ああ、異世界だなぁ」という気持ちにさせられるのだ。
鰐の顎を持つ地の竜、雷を纏う獣の竜、巨大な翼を持つ翼竜、荒々しさを感じさせる肉食恐竜、炎を自在に操る赤い鱗の竜、氷を纏い厳かさを感じさせる青白い龍などなど……どの戦士も俺をワクワクさせた。
「面白ぇえええええ!!」
「何をはしゃいでる?次は俺だぞ。技をちゃんと見てるんだろうな?」
「ああ悪い。もちろん技もちゃんと見てるよ」
ドリュウの進化した姿も見栄えが良い。鋭く巨大な尻尾のみを武器にして戦う巨竜となった彼の実力はさらに上がっている。今のアレンとも引けをとらないと言って良い。「序列10位」らしいがそのうち階級が上がるんじゃないか?
「じゃあ……行くぞ」
「おう」
戦士「序列2位」カブリアスとの模擬戦もエルザレスと同じくらい白熱したものだった。オリバー大陸で戦った魔人族よりも技のバリエーションがあり、楽しめた。雨・嵐・雷が飛び交う魔法攻撃戦とかも迫力満点だったな。
「限定進化」してからも戦士たちの繰り出す武術のキレは洗練されたままで、きれいだった。彼らの動きを1ミリたりとも見逃さず記憶し、分析して真似をして、学びまくった。
ある日、アレンに拳闘武術を教えた日の夜―――
「んっ♪良い!それ好きぃ。もっと♪」
「分かった―――どうだ?」
「あ………ん♪脚気持ち良い、ほぐれてく~~」
用意してもらった3人用の寝室部屋にて、俺はアレンにマッサージを施している。
アレンと約束した「何でも言うこと聞く」の内容がこれになる。疲れが和らぐようなことをして欲しい、という要望とのことでトレーニング後のマッサージをするようになったのだ。
アレンにはたいそうお気に召したようで、いつもマッサージを楽しみにしてくれるようになった。脚に軽い手圧を加え、全体を擦り、トントンと優しくたたく。これらを体験している時の彼女はいつも蕩けた顔をしている。
元の世界で部活動後のクールダウンの一環として、簡単なマッサージ方法を取り入れた。所詮は素人レベルだがアレンはそれでも喜んでくれた。
いつの間にか、拳闘武術を教えてもらう日以外にも…ほぼ毎日マッサージをするのが当たり前になってしまった。
「一人でもやれるマッサージも教えてやろうか?」
「ん…それも良いけど、一人でやれるようになったらコウガのマッサージを受けられなくなるから、やっぱり…いい^~~~あはぁ」
「そうか(教えた後も毎回やってやっても良いけどな)」
アレンが気持ちよさそうに顔を緩めている様を、カミラは羨まし気に見つめている。
「カミラも、コウガにやってもらえば良い。とってもいいよコレ」
「で、ですが、二人と違って私は戦場で戦わないですし、むしろ私がお二人にマッサージをする立場であるべきなのですが…!」
アレンに勧められるも修行していない身であることを理由に遠慮してしまいやや奥手になっている。そんなカミラに俺は苦笑する。
「カミラだって魔人族の動向を考えていたり人族の大国の戦力も分析しているそうじゃないか。あの情報屋コゴルと協力して色々調べてるんだろ?そういうのもけっこう疲れが溜まるんじゃねーか?遠慮無く言って良いぞ」
「じ、じゃあ…お願いします//」
照れながらも俺におねだりした。その仕草に少し照れたのは秘密だ。
「それじゃあ………肩とその周辺を中心に。ここ最近夜になると肩が妙に凝ってしまいがちで…。年のせい、とは思いたくはないのですが。こう見えて朝稽古もしていますので」
カミラは肩をすくめてそう主張する。彼女の職業柄デスクワークとかで肩が凝るということになるそうだが、彼女の場合……別のところも原因になっているのではと考えられる。
「む、ぅ」
アレンも俺と同じ考えらしく、カミラの女の象徴とする二つの双丘を凝視して小さく唸る。
「そういうことなら、そこをしっかりほぐしていこうか。肩周辺だけじゃなく、肩の筋肉と連繋している筋肉とかも解すからな」
「お願いします……………は、あぁ♪」
早速カミラにもマッサージを施していく。筋肉質なアレンよりも柔らかい体だ。カミラをマッサージしていると、これが女の体なんだなってことがより実感させられる。女の体ってこんなにも柔らかくてなんかずっと触っていたくなる…なんて少し危ない思考にさせられる。
もちろんアレンにも彼女だけの良さがある。筋肉質と言ってもその筋肉はガチガチに硬いものではなく柔らかみがある。ハリがあって質感も良い。アスリート目線からでも最高レベルの筋肉だ。俺も見習いたいくらいだ……もう死んでいるからもう意味無いが。
まぁ要するに二人とも素晴らしい体だということだ。
「ああ^~~気持ち良かったです。コウガは本当に何でもできますね。桁外れな戦闘能力だけじゃなくこういったマッサージや料理などにも長けていますよね。今さらなんですが、コウガは何者なんですか?」
「何者って言われても…バグレベルの戦闘能力に関しては俺も未だよく分かってねーんだよな。けど家事とかマッサージとかは、まぁ十数年にわたる経験の賜物ってやつかな。ガキの頃から色々かじってきた結果が今の俺ってわけ…かな」
何故か陶然とはぁはぁ喘いでいるカミラの問いに俺は漠然と答える。答えた通り、ゾンビになった原因はまだ分からない。チート技能までついてそのお陰で能力値と固有技能が凄いことになったのだが……。
やはり地底で取り込んだあの瘴気が原因か。ザイートの奴も俺のゾンビ化については分からないと言っていた。俺がモンストール…屍族に近しいということは分かったがこの不死機能はどう考えても異常だ。
いつか分かる時が来ればいいな。俺に不都合な真実じゃなきゃいいが…。
「まあなんだ…。一緒に強くなろうな。邪魔な魔人族を倒して、鬼族の里を再興して、平和をつかみ取ろう」
「うん!そうだね!」
「ついていきます。どこまでも」
魔人族との決着がついたら、元の世界へ帰るつもりだ。
だけどもし帰ることができなかったら……彼女たちとこの世界で暮らす、という未来もある。俺としては元の世界へ帰るのがいちばんだが、この生活も良いなーとも思う。親しい大切な仲間たちとの暮らし…。そんな未来も一つの可能性となる。
(けれどやっぱり帰りたいよな…絶対に!)
改めて元の世界に帰ることを強く誓った。