サラマンドラ王国での滞在から一か月後、予定通り国を出ることに。竜人族の武術はほぼ全て皆伝したと言って良い。体の構造・自在な動かし方についてより深く理解できた俺は更なる質の高い技を習得できた。
「では、有事……主に魔人族の件で何かあれば、共に戦おう」
「うん。私たちだけだときっと敵わないから。しばらくは――――同盟関係で」
鬼族と竜人族は魔人族との決戦を果たすまでの間限定で同盟関係を結んだ。領地争いの完全撤廃はもちろん、どちらかが魔人族と戦う際はもう一方もその戦いに出来る限りで加勢するという内容だ。
竜人戦士たちは皆、俺の今の実力が魔人族のそれと同じだと判断していて、それがどれだけ恐ろしく脅威であるのか理解した。一魔族だけでは勝てないと判断したエルザレスは、古くから宿敵関係だった鬼族と協力して魔人族と戦うことを決めたのだ。宿敵とは言っても両魔族間は好敵手関係でもあったため、根はそれほど深くない。
「亜人族とも同盟は結ばないのか?」
「どうだろう?行ってみようとは考えてるけど……」
「亜人族は私の出身国と友好条約を結んでいて、有事の際はその国を優先すると考えられますので、同盟は難しいかと…」
カミラが申し訳なさそうに助言する。確かにな、ダンクたちはハーベスタン王国の味方をするはずだ。同盟を結べるのは竜人族だけになりそうだ。
そういうわけで竜人族と(いちおうは)友達になれたことで俺たちは国を出たのだった。エルザレスもカブリアスも俺やアレンとすっかり打ち解けられた。二人とは本気の模擬戦を通して親しくなれた気がする。俺と本気で戦ったせいか、以前よりさらに強くなってるのが分かる。まあ俺もけっこうレベルが上がったけどな。
ここに来て良かった!
竜人族全員とお別れ……にはならず、ドリュウが俺たちについてきた。鬼族に興味があるらしく、俺と同じく修行の旅に出たいのだとか。彼を新たな旅パーティに加えて、ベーサ大陸へと戻る。
帰りも海に出現する魔物やモンストールを狩りながら移動していた為、里に戻るまで半日以上かかった。
竜人族であるドリュウを目にした鬼たちのほとんどが警戒して身構えたが、アレンや旅仲間の鬼たちのフォローによってどうにか衝突を避ける。
そして今度は鬼族の拳闘武術をアレンやセン、スローンなど近接戦専門の鬼たちに教えてもらい始めた。的確な打突、攻撃が吸い込まれるように急所に突ける技術、緩急つけた技の打ち方など……竜人族に負けないくらい質の高いものを教えてもらった。
( “連繋稼働”の一撃を確実に急所にぶち込めるようになってきた!これなら省エネで敵をすぐに討伐できるようになるぞ!)
技術が向上しさらに強くなれた気がして楽しい気分だ。一方のドリュウは鬼族の拳闘武術を習得するのにかなり苦戦していた。体格的にやりづらいみたいだ。それと他の鬼たちから警戒されることが無くなって割と友好関係を築いているようだ。
もちろん教えてもらうばかりではない。俺はアレンたちと定期的に実戦の稽古に付き合った。
「ハァ、ハァ……くっそぉ、今日もコウガに膝をつかせることすら敵わなかったー!」
「本気で打ち込んでるってのに、傷らしい傷もついてないよな……ショックだぜ」
「く、苦しい……!ずっと攻撃し続けてたからヘトヘト~~~」
大体3~4人と同時に戦う形式で、みんな俺を囲んで攻撃しにかかるパターンだ。これはいずれ戦うであろう復讐相手である魔人族との戦闘シミュレーションも兼ねている。俺をその復讐相手に見立てることでみんなは常に本気で打ち込んでくる。拳闘武術はもちろん、魔法攻撃も超能力も幻術も何でもござれ、だ。
「はっはっはー、レベル差がまだまだあり過ぎるから仕方ねーよ。でもこの実戦稽古は無駄じゃないはずだ。格上の相手とこうして全力出して戦ってるんだから、その分レベルが上がるはずだ。みんなにとって俺は経験値の塊だ。遠慮なく俺を踏み台にしていけよ」
実際、俺と戦った翌日にはみんなレベルがいつも以上に上がっているのを確認している。これを積み重ねるだけでもみんなは今後ももっと大きく成長できるはずだ。
「今日も本気の打ち合いするよ!」
「ああ、かかってこい!」
アレンはドリュウとの実戦稽古をよくやっていた。以前から二人はこうして競うことが多く、すっかりライバル関係になっている。他の鬼たちもドリュウと戦うことがあり、互いに力を磨き合い、技術を教え合っている。
(これは……人族大国の連合国軍にも引けを取らない勢力になれるかもな)
人族大国の連合国軍の動向についてはカミラとコゴルから聞いている。各国の兵士団や主戦力が定期的に集まって戦力とその情報の提供を行っているとか。あと戦闘の連携訓練も行っているそうだ。
藤原やクィンも隣国のイード王国や南に位置するラインハルツ王国へ行って訓練をしているそうだ。
「そういえば、コウガはサント王国にまた行ったりしないの?」
ある日アレンからそんなことを聞かれる。
「クィンが一緒に鍛錬したいって言ってたよね」
「まあ、な。どうすっかなー」
「コウガが実戦稽古の相手をしてあげるだけでみんな強くなれる。クィンとミワもそうなると、思う」
アレンの言葉はもっともだ。しかし俺は彼女たちとはそんなに親しくない(俺はそう考えている)。ましてや元クラスメイトどもとまた会うのも嫌だし。
「ま、気が向いたら、かな」
この時はテキトーにそう答えておいた。
それからまたひと月が経った頃には、鬼族の拳闘武術も皆伝できた。二つの流派を極めたことで滞在を止めてまた旅に出ることを決意した。
「一人で修行の旅……?」
アレンとカミラはやや呆気にとられた反応を見せる。
「ああ。これから危険地帯を中心に世界を周ろうと考えてる。しかも何日も帰らない。食料とか水とかの備蓄も足りなくなるくらい長めの旅になる。俺はゾンビだから平気だけどアレンたちにはキツいはずだ。それに、一度初心に帰って一人でまた旅してみたいんだ」
俺の主張を聞いたアレンたちは惜しみながらも納得してくれた。彼女たちはこれからもみんなと競い合いながら強くなれるはずだ。俺がいなくても大丈夫だ。
そして俺は里を出て、一人武者修行の旅に出たのだった。
(気が向いたら、サント王国に行って、もし修行に詰まってたらアドバイスの一つかけてやろうかな……)
そんなことを考えながら船を出して海を出たのだった――――