時刻は夜、場所は深い森。音も光もないこの空間は、ある少女の修行場所となっている。

　「.........」

　少女…縁佳は瞑目したまま弓を構えて弦を引く。キリキリと弓を引く音だけが響く、それ以外の音は一切無い。

　無音に近い暗闇の中、彼女は刮目と同時に矢を放つ。ヒュンと音を立てて矢は森を駆けそして―――

　ドス―――ッ

　正確無比ダミー人形の頭部を射抜いた...。

　だが縁佳はその神業を誇ることはせずに、次の矢を弓にかけて射出態勢に入る。

　「堂丸君、お願い」

　縁佳がそう言うと遠く離れたどこかから銃か何かを構える音がして、その数秒後に発砲が響いた。

　発砲音と同時に縁佳は矢を放つ。狙いはさっきのようなダミー人形...ではなく、射出の直前に耳にした発砲音のところ...でもなく、発砲によって放たれた、どこへ放たれたのか分からない射出物を―――

　―――カィン......ッ

　ダミー人形と同様に射抜き、撃ち落としてみせた...。

　「.........っ、ふぅ......」

　先の狙撃を終えた縁佳は肩の力を抜いてその場でへたり込む。長く深呼吸をして呼吸を整える。しばらくして縁佳のもとに彼女の仲間が二人やって来る。

　「すっげぇな高園！全部正確に射抜いたよな。数十発全部命中だったもんなー。スゲーよマジで...！」

　縁佳をベタ褒めする堂丸。

　「お疲れ様縁佳ちゃん。はいタオル」

　米田は縁佳を労ってタオルを渡す。三人は昨日までラインハルツ王国に滞在していたが一旦サント王国に帰ってきていた。

　全５０回にわたる狙撃を行い、縁佳は全て的を射ることに成功している。米田の魔術で作った動かないダミー人形と堂丸のガンで撃った弾を的にしてだ。しかもこの暗闇の中で。堂丸に至っては彼がどこにいるのか分からない場所からの砲撃を射るわけで、いわば死角から放たれた高速の見えない弾を射抜いたということになる。堂丸が個人的感情抜きにしてもベタ褒めするのは当然のことと言える。

　しかし、そんな神業レベルの狙撃は当然容易ではない。狙撃の強力な固有技能「鷹の眼」の長時間の発動はそれなりに負荷をかける。「千発千中」というこれも強力な固有技能もあるとはいえ、超精密狙撃は狙撃手に多大な負荷をかけている。

　事実今の縁佳はだいぶ疲弊している。縁佳の体力はこの三人の中では高い方に位置しているがそれでもこの疲労度である。そして縁佳はそんな今の自分の現状を良しとはしていない。

　次の戦い...災害レベルのモンストールの何倍も強いと言われている魔人族との戦いで、５０回の狙撃で疲弊しているようでは自分は役に立たないだろう……と、縁佳は予感している。

　実際この目で魔人族の姿を、その脅威を見て知っているから予想出来ることだ。

　「まだまだこんなんじゃ...喜んでられないよ。次からは今の状態をもっと長く維持出来るようにしなきゃ...。威力ももっと上げて...魔人族ともしっかり戦えるくらいに...」

　今の狙撃を誇るどころかまだまだと自身を戒める縁佳を、二人は感心する。

　「お、俺も...高園くらいに励まねーとな！高園ばかりに負担かけさせないように！なぁ米田、俺らももっと強くなろーぜ！」

　「うん......そうだよね。縁佳ちゃんと一緒に私も戦って、みんなの力にならないと...」

　それから少し話した後に堂丸が先に帰っていった。残った二人はある相談をする。

　「私はこれからどう強くなればいいのかな？呪術師ってことは何か呪いの魔法とかを覚えれば良いのかな…？」

　「どうなんだろう、私も呪術については全然詳しくないから……。こんな時、甲斐田君がいたら何か教えてくれたかもしれないね」

　「あ……そういえば縁佳ちゃんは甲斐田君にアドバイスをもらってたんだよね？どう強くなったら良いのか、とか」

　「うん。漫画やアニメに出てくる狙撃の必殺技をいっぱい教えてもらったよ。難しそうだけど頑張って習得すればもっと強くなれるかも」

　同時に縁佳は皇雅に教えてもらった技の中で一つだけ気になってることを思い浮かぶ。「あれ」は本当に実現可能なものなのか……。

　「私たちがもっと強くなるには、甲斐田君の知識が必要になるのかも…」

　縁佳は遠く離れてしまった皇雅のことの想う。また話がしたい、出来ることなら一緒に鍛錬がしたい…と考えるのだった。

　（回復……「回帰」、かぁ）

　同時刻、美羽はベッドの上で一人長考していた。

　（治すと巻き戻す。後者の方が治療レベルが上。私の“回復”はそれが出来る……。だったらそれをもっと極めることが出来たら……）

　ミーシャやクィン、縁佳が最近実力をつけてきているのを目にしたことで、美羽も自身の強化を急がなければと強く思うようになった。

　（魔力の質と量を高め上げる鍛錬をいつもやってるお陰で魔力はさらに強くなってるけど、これだけじゃあきっと魔人族と戦うことすら出来ない。何か特別な……私にしか出来ない魔法、魔術を発現させる必要がある……）

　皇雅の不死を活かした馬鹿力、アレンたちの「限定進化」、縁佳の神がかった狙撃、クィンの「魔法剣」など……その人が得意とする最強の武器をより高次元へと進化させる必要がある。

　美羽の場合自身の最強の武器とは、やはり「回復」であろう。

　「うん……どうやったらさらに極められるか、色々試そう」

　美羽は究極の「回復」を目指すことを決めた。