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「黒翼の魔人」

 旧ドラグニア領地にて魔人族との死闘が始まった同じ頃―――


 場所はサント王国。この地にも斥候役の魔人族が現れて、服従か滅亡かの選択肢を迫ってきたが、ガビルの一喝でこれらを拒否。それによって大戦の火蓋が切って落とされた。

 ここにいるサントの兵士たちは、一人一人がCランクの敵を単独で倒せる実力を持っている。さらには異世界召喚された皇雅のクラスメイトたち5人もいて、全員が災害レベルの敵と互角以上に戦える実力をつけている。

 大戦が始まってから下位レベルの敵があっという間に殲滅されており、上位レベルの敵相手にも優勢をとっている。


 「凄い、これが異世界人たちの力……!」

 「Aランクモンストールですら余裕で葬っていくぞ!頼もしい!」

 「ガビル国王様も老いてなおもお強い。さすがは元Sランク冒険者の英雄……!」


 兵士や冒険者たちは軍の中心である異世界召喚組とガビルを大いに評価した。2万はある兵士・戦士たちの士気を彼らの活躍によってさらに上げている。国王ガビルはかつて、Sランクの中でも特に強く、伝説の冒険者として名を馳せていた。冒険者を引退して王位についた今でもその実力に衰えはあまり感じさせられない。

 一方の異世界クラスメイトたちも、この世界から来て7ヵ月程度しか経っていないにも関わらず、その成長は凄まじいものだった。急成長の理由は異世界召喚の特典である「限定強化」などももちろん関係している。


 「っ!Sランクのモンストールじゃないのか、あれ」


 宙に浮いている堂丸は前方を見てそう告げる。彼の目線の先には凶悪な顎をした翼竜らしき怪物が飛行してきている。このままでは砦があっさり陥落させられるであろう。

 そんな予感をよぎった兵士たちが団結しようとしたその時―――


 “超電光狙撃レールショット


 砦の方から弾丸サイズの雷弾が飛来していく。その速度は亜光速に達し、翼竜モンストールの額に命中する。直後モンストールの全身を雷撃が襲い、まばゆい光を伴った爆発が起こった。爆発の煙が晴れたところには頭部が消失した翼竜モンストールがあり、その胴体が力無く墜落していくのだった。


 「すっげ、一撃必殺だ……やっぱ高園は凄く強えーよ!」

 「そうね。縁佳だけが私たちの中でずば抜けているわ」


 堂丸と曽根が誇らしげに評価する。砦の上部には二人が褒めた縁佳の姿があった。


 「次弾、装填―――」


 縁佳が今放った弾は超濃縮・縮小した雷属性の弾丸だ。小さな弾丸でありながらも威力はSランクモンストールをも一撃で仕留められる程だ。この狙撃技は彼女自身が新たに発明したものではない。


 (凄い威力……私一人じゃこんな狙撃銃の一撃なんて思いもつかなかった。

 甲斐田君のお陰で私はこんなにも強い狙撃が出来るようになった……!)


 異世界クラスメイト…特に縁佳がここまで強くなれたのは異世界召喚の特典だけではない。彼女もまた、皇雅の助言や合同鍛錬によって大きく成長出来たのだ。




 (――か、甲斐田君!?どうしてここに!?)

 (――クィンが一緒に鍛錬したいって頼まれてたから。それと、修行に行き詰ってるのならテメーのも見てやろうかって考えてもいる。暇つぶしにはなりそうだしな)

 (――うん!お願いします!!)



 終始無愛想な態度でありながらも丁寧に技を教えてくれた皇雅のことが脳裏によぎった縁佳は頬を染めて小さく笑う。


 (ありがとう甲斐田君。あなたが来てくれたお陰で私はあなたがいるステージにさらに近づけた気がする…!)



タカゾノヨリカ 18才 人族 レベル130

職業 狙撃手

体力 8900

攻撃 7300

防御 7780

魔力 8200

魔防 7800

速さ 6590

固有技能 全言語翻訳可能 気配感知(+索敵) 鷹の眼 隠密 気配遮断  

千発千中 雷電魔法レベル9 嵐魔法レベル8 水魔法レベル8 属性狙撃  

魔力防障壁 限定強化



 今の縁佳は一人でSランクモンストールを倒せる程に強くなっている。彼女の強みは、狙撃手と相性が良い固有技能にある。「隠密」と「気配遮断」で自分の存在を無レベルまで消して敵に感知されることを防ぎ、生来彼女が持っている狙撃能力で敵の急所を的確に射抜いて確実に殺すのだ。

 彼女には武器が2種類ある。一つは最初からあった弓矢。今では「神弓使い」とサント王国でそう称えられている。

 もう一つは先程モンストールを仕留めてみせたこの狙撃銃である。前者はカーブを利かせて矢を放って敵を翻弄させる、言わば弾道を読ませないのを武器とするに対し、後者の銃はその威力にある。防御力が高い敵に対して銃は絶大な効果を発揮する。さらに使い手が縁佳ほどの狙撃の名手の手によれば高火力の狙撃を確実に急所に射抜き、殺してみせる。

 たとえ魔人族が相手でも、射殺すことが出来るだろう―――





 (隙を中々表さない。さすがは魔人族……!)


 しかし現実は厳しく過酷なものだった。現在縁佳たちとガビルは、一人の女性と対峙している。灰色のショートヘアでスリム体型、さらには背中に黒い翼を生やしている。彼女はもちろん人族ではない、魔人族だ。

 戦士「序列6位」ジースは、不敵な笑みをガビルに向けている。


 彼女が出現したのはほんの数分前。モンストールの群れに紛れて地下から現れ、瞬く間に数百もの兵士と冒険者を殺害してみせた。彼女は常に周囲にモンストールを配置させて不意打ちを防がせている。たとえ相手が弱者でも一切隙を見せようとしない彼女は、純粋に強い戦力を持っている。


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