「さて、魔人族にたてつく愚かな大国を私の手で滅ぼしてあげる。そしてザイート様による新たな世界創造に貢献して―――!?」
悠然と進撃するジースだったが、何かの危険を察した彼女は近くにいたモンストールを咄嗟に盾にした。その予感は正しかったようで、盾にしたモンストールは何かに被弾し、絶命していた。
「狙撃だと?しかし弾や矢の飛来など視認出来なかったわよ?どこから―――」
索敵をしていたところに周りの兵士たちよりも強い戦気を放つ者たちが近づいてくることに気付く。ジースのもとに現れたのはガビルと異世界クラスメイトたちだ。
「お前たちがそうみたいね。確かにさっきまでの雑魚どもよりは強くはある、か」
ジースの余裕そうな態度にガビルが憤りの表情を見せる。そんな彼を前に行かせないよう曽根が盾を構えて守りの態勢に入る。
「いつまで睨んだままでいるつもり?それとも視線で殺す気かしら?」
「…はるか格上である貴様を相手に、自分から突っ込むという無謀などしてなるものか。蛮勇でもないだけだ。お前こそ、攻めてこないな?」
「お前たち全員私の足元にも及ばないのは確かだけれど油断は出来ないわ。さっき受けたあの見えない狙撃……。まったく、どこから狙撃してるのかしら?姿も見せずに陰湿ねまったく...」
ジースの嘆息にガビルたちは内心戦慄している。先ほどの「見えない狙撃」は当然縁佳によるものだ。彼女が新たに会得した狙撃技。それがあっさり防がれたのだから動揺するのも無理はない。
(まさか……あれを察知されるなんて。あの魔人族、察知能力がとても優れている……とても強い。
それでも、敵を射殺すことだけに集中しなくちゃ。クラスのみんなや兵士たちが私に狙撃のチャンスをつくってくれる。その瞬間を逃さずに……仕留めてみせる!)
そう何度も自分に言い聞かせることで、揺れない自分を形成している。狙撃手にとって、沈着冷静でいることは何よりも大事だということを、部活動を通して彼女自身よく理解しているからだ。
その間にも兵士たちがジースにかかろうとする。彼女は手からナイフサイズの漆黒の羽をいくつも飛ばして迎撃する。
“
鋭利な黒い羽は兵士たちの急所を的確に突いて落としていく。レベルが高い兵士たちですらガードするのが精一杯で近づくことすら出来ない。
「それにしてもそこの老兵って連合国軍の総大将なんですって?総大将がこんな戦場にのこのこやってくるなんて、おかしな話。お前の首を取れば連合国軍もお終いね。大手柄のチャンスだわ」
「この首、易々と取らせはせぬぞ!」
「へぇ―――っ!?またかっ」
ジースに縁佳の「見えない狙撃」がまたも襲い掛かる。それをギリギリで察知したジースは黒い羽を展開してギリギリで防ぐ。
「私の“見切り”の練度を舐めないでほしいわね。油断してお喋りしているように見えたのかしら」
ジースは辺りを、特に後方の砦に目を向けてそう言ってみせる。
(気付かれてる……?いえ、まだよ!大丈夫、私はここで私のすべきことを全うするだけ!)
縁佳は平静さを保って次の狙撃に備える。
「ガビル様、前に出ないでください!相手は魔人族です!」
「“救世団”の少女たち!頼む、皆で魔人族を討ってほしい!」
「周りにいる敵は我らでどうにかしてみせる!」
兵士や冒険者たちは異世界召喚組に魔人族の相手を頼む。
「へっ。俺たち凄く期待されてるぜ。高校生だった俺たちが、世界を滅ぼそうとしている敵と戦うことになるなんて......燃えるシチュエーションじゃねーか!!」
ガンランチャーを構えてテンション高めに吠える堂丸。彼は先ほど単独でGランクモンストールを討伐してみせている。
「魔人族を見るのはこれで二度目だけど、凄いプレッシャーね。怖いけど、私たちが何とかしないとだね」
巨漢の人間をも隠せるくらい大きな盾を傍らに置く曽根は険しい顔でジースを見据える。
「み、皆で挑めばきっと撃退できるはず...!」
少し噛みながらもどうにか勇気を振り絞って声を出す中西は内心でも震えている。
(足を引っ張らないようにしなきゃ。こんなところで死にたくはないから)
無言で心の中で呟いている米田の周りには兵士による護衛を十人程つけさせている。
「へぇなるほど?このガキどもが異世界からきた……。
忌々しい!全員殺してあげる...!」
顔を険しくさせたジースの体から無数の黒い羽が生じる。その一つ一つに高密度の魔力が込められている。
「死なせない、誰も……!みんなで魔人族を討ってみせる!」
縁佳は強い意志を矢に込めて、撃ち放った―――