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「見えざる狙撃最速の魔人」

 サント王国領地 異世界召喚組・ガビルvs魔人族ジース


 両軍の主戦力同士が激突することになり、そこには誰も邪魔することは許されなかった。しかし魔人族側…ジースが連れてきたモンストールの群れはこの重要な一戦に参加するようだ。

 ジースが片手を上げると同時に、傍らと後方で控えていたモンストールたちが一斉に襲い掛かる。それらに紛れてジースも駆けて行く。


 「小夜ちゃん、お願い!」


 曽根の指示に米田はこくりと頷くと、彼女だけが使える特殊魔術を発動した。


 “死霊操術ネクロマンシー


 瞬間、モンストールたちに異変が起こる。彼女たちに襲い掛かろうとしたモンストールたちがピタリと止まり、ジースに振り返る。


 「おい...何をしている?早くあいつらを――」

 「「「「「ギェアアアアアア!!!」」」」」


 モンストールたちは突如ジースに向けて爪や牙、魔法攻撃を繰り出したのだ。そこに予め待機させていた魔物たちが、ジースを守るように立ち塞がってモンストールたちの攻撃を受け止める。そして反旗を翻したモンストールたちに攻撃を繰り出す。魔人族によってつくられ絶対服従とされていたはずの屍族モンストールが、魔人族に攻撃しようとしている。思わぬ事態に遭ったジースは何が起きているのか分からずにいた。


 「成功したね。敵も混乱している。これで敵を一気に...!」

 「小夜ちゃんは私が護ってるから、あとは皆で魔人族を一気に倒してちょうだい!」


 作戦が成功したことに喜ぶ米田と彼女の周りに大きな盾を出現させて完全護衛態勢に入った曽根を後衛に置いて、堂丸と中西は操られているモンストールたちと共にジースへ攻撃を仕掛ける。

 米田が発動している魔術は、死霊系の生物を操る特殊魔術である。モンストールは元は死んだ生物に瘴気を流し込んでつくられたもので、ある種不死性を含んだ化け物だ。つまり死霊系に分類されるモンストールたちは皆、死霊魔術の術中に無条件で嵌まってしまうのだ。

 半年間の戦争準備の間でそのことに気付いた縁佳たちは、呪術師の中で特に操術系に長けている米田に死霊系の魔術を会得させた。そして見事この戦争で死霊魔術が大いに役立った。


 「すげぇ、Gランクの化け物たちもみんな米田の駒になってやがる。これだけの軍勢なら勝てる、勝てるぞ...!」


 堂丸は早くも勝利を確信して先走ってガンを展開して自身の得意技を放つ。


 “多属性射撃マルチショット


 彼が使える属性は炎熱系のみだが、弾に予め属性を付与させることで多くの属性弾を撃つことに成功させた。

 魔物を多く撃ち抜いて、ジースにも被弾させていく...が、彼女は即座に障壁を展開してこれを防ぐ。

 そのジースに獅子の見た目をしたGランクのモンストールが殴りかかる。


 「......お前らの飼い主である私たち魔人族に牙を向けるとは不良品どもめ!!」


 怒りの形相をしたジースが暗黒魔術を放ってGランクモンストールを攻撃する。さらに襲い掛かってくるモンストールたちにも同様に魔術を多数放って攻撃する。


 「ち......災害レベルの屍族を連れてきたのが仇になったな。まさかこいつらを支配する魔術を使う人族がいるとは...呪術師だな」


 鋭い眼差しで救世団たちを見回して、やがて盾で囲まれているところに目をつける。


 「あそこに屍族を操っている人族がいるはずだ。魔物ども、あそこを蹂躙しろ」


 ジースの指示に従い魔物たちが米田たちがいる方へ向かう。


 だがその途中で――――


 「「「―――――ガ………………ッ」」」


 魔物たちの頭部に、見えない狙撃矢が突き刺さり、魔物が全て即死した。


 「また……あの“見えない狙撃”か……!」


 ジースは忌々しげに砦を睨む。砦からは縁佳の気配が全く感じられない。しかしそのどこかに彼女は確かにいる。

 先ほどもジースに不覚を取らせた、縁佳による不可視の狙撃―――



 “見えざる矢”


 これが縁佳の新たなる切り札、「見えざる狙撃」だ。この狙撃技を生み出したきっかけは皇雅の助言だ。



 (テメー自身を敵から見えなくする技術はもう会得しているんだったな。

 じゃあ次は、矢や弾をも見えなくする・感知されないものにすれば、テメーは完全無欠の狙撃手になれるかもな)



 皇雅の助言・知識を得た縁佳は究極の狙撃技を身につけるべく、「隠密」と「気配遮断」を極限にまで強化させて、それらを矢と銃弾に付与させるという高次元技術の実現に成功した。そうすることで矢・弾の存在をも完全に隠蔽することに成功した。

 元々縁佳にはあらゆる武器に複数の固有技能と属性魔法を付与出来るという素質があった。半年間の修行の中でそれに気づいた縁佳はその素質を磨きぬいて、最強の武器とした。

 そうして縁佳は世界最強クラスのオリジナル狙撃技を完成させたのだ。


 (今度は魔人族に当ててみせる!この狙撃でみんなを守ってみせる!!)


 心の中で啖呵を切りながら、縁佳は狙撃銃に「見えない弾丸」を込めた―――――



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