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「二人の最強亜人戦士」

 オリバー大陸で最も広い荒野地帯。ここでも連合国軍が魔人族軍と大規模な戦いを繰り広げていた。

 ただこの連合国軍の兵力は他国領域に配属されているものとは異なるところがある。人族と亜人族が一緒になって魔人族軍と戦っているのだ。

 人族の軍はハーベスタン王国。そして亜人族の軍はパルケ王国。ハーベスタン王国は人族大国で唯一、魔族の国と友好条約を結んでいる。故に有事の際はこうして協力して戦いに出ることもある。

 両国とも国の地に強力な結界を張って侵入させないようにしている。そうすることで行き場に詰まった敵軍をこの地帯におびき寄せて一網打尽にするという戦略だ。


 (カミラ・グレッドがいてくれればこれよりも優れた軍略が出ていたのやもしれない……。彼女を行かせたのは誤った選択だったのかもしれない)


 ハーベスタンの兵士団団長トッポは、内心でカミラが抜けたことについてそう評価する。光魔法を駆使して上位レベルモンストールを数体討伐していく。

 半年前に皇雅たった一人に兵士団を半壊させられ、大規模なモンストールの襲撃に追い詰められたことで、兵士団の信用は一度地に落ちてしまった。しかし亜人族による協力によって兵力・戦力を大きく回復させて、信用も徐々に戻すことに成功した。


 (亜人族……今日ほど頼もしく感じたことはない。かの国の兵士団、特に“序列”を持った戦士たちの力は我々を大きく凌駕している……!)


 トッポは亜人族たちがいる戦場に目を向ける。様々な見た目をした亜人の兵士たちが活躍している。半魚人、半獣人、半竜人、人族とあまり変わらない超人など、皆が違って見える。それ故に戦い方も多種多様で、どんな敵が来ようとも瞬時に対応してみせていた。


 (………中でも“あの三人”の戦力はずば抜け過ぎている。彼らこそがこの軍の要……切り札だ)


 最後に戦場の中心にいる三人を一瞥する。そこには破竹の勢いでモンストール・魔物を討伐していく亜人戦士たちがいた。


 “豪炎連弾ごうえんれんだん


 業火を圧縮した弾丸を複数撃ち放って、十を超える数の上位レベルモンストールを瞬殺した。続いて炎で出来た大槌を振り回して近くにいる魔物を全て吹き飛ばした。

 亜人族戦士「序列1位」およびパルケ王国の国王 ディウル。光輝く炎を武器に敵を焼き払い、燃やし尽くしていく。彼は炎の精霊の加護を持った超人種である。


 “雷散拳らいさんけん


 高密の雷を纏った拳を地面に殴りつけ、そこから広範囲にわたる雷閃を飛ばすことで複数のモンストール・魔物を討伐あるいは行動不能にさせる。


 “雷爆らいばく


 次いで空中に跳び上がって、両手から雷を孕んだ光球を投下させる。眩い光とともに雷が混ざった大爆発が発生、Gランクモンストールと魔物を複数討伐した。

 亜人族戦士「序列2位」およびパルケ王国の兵士団団長兼王子 アンスリール。研ぎ澄まされた雷を武器に敵を破壊していく。彼は雷の精霊の加護を持った超人種で、ディウルとは親子関係だ。

 亜人族の国王と王子、亜人族が誇る最強の戦士たちだ。しかし亜人族にはもう一人、その二人に比肩もしくは上回る戦力を持つ戦士がいる。


 亜人族剣術―――


 数十mもの体躯を持つ巨大なモンストールを、たったの一太刀で両断し斬り伏せてみせる。休む間もなく次の巨大な魔物も大剣でぶった斬った。

 戦士ダンク。彼は半年前まではパルケ王国を出て危険地帯にて活動していたが、ハーベスタン王国に移ってそこで暮らしていた。パルケ王国での経歴としては、戦士元「序列1位」で兵士団長を務めていた。その実力はアンスリールもディウルをも凌いでいると言われている。

 この三人が同じ地に揃って共に戦うというのは5年以上ぶりのことで、亜人の兵士たちはそのことに感銘を受けていた。


 (体はもうなんともない。俺や俺について来てくれた仲間たちを蝕んでいたあの病は………もう無い)


 ダンクは今まで以上に軽く感じる体に喜びを噛み締めている。今から半月程前に、ダンクたちのもとに美羽が訪れた。彼女は進化した回復魔法で鬼族の「排斥派」だったダンクら亜人戦士たちの病を完全に治してみせたのだ。

 余命僅かとされていたダンクたちはこの先も生きていける……そのことを知った彼らは大いに喜び、生きる希望という名の火をつけた。そのことが彼らにさらなる力を芽生えさせた瞬間でもあった。


 「俺たちもそうだけど、ダンク様の動きが以前とは比べ物にならないくらいにキレがあって冴え渡っている。それに力も半年前の何十倍も増している」

 「そうだな。というよりは、かつて兵士団団長だったあの頃に戻ったと言うべきだろうか。あの人こそが亜人族最強の戦士だ…!」


 元「排斥派」だった亜人戦士たちはダンクの活躍を目にして士気を高める。亜人族の中では元「排斥派」の戦士たちがいちばん活躍していた。


 「アンスリール、あれがダンクだ。かつて我が国最強の戦士と謳われた男が、帰ってきてくれた」

 「いつぶりだろうか、あの人の戦っている姿を見るのは。昔と比べて大きく成長した気になっていた俺だが、まるで追いついた気がしない。それどころかさらに引き離された気がするよ」


 ダンクの姿を見ながら二人はそう呟く。ダンクは数年にわたってモンストールが多数棲息する危険地帯で暮らしていた。そこで多くのモンストールと戦ってきたことで大幅な強化を遂げたのだ。二人とダンクとの違いは間違いなく、くぐり抜けてきた修羅場の数の違いだろう。

 ディウルは無言のまま駆け出して、Sランクのモンストールと魔物を同時に相手しているダンクに並び立って戦い始めた。


 「義兄殿」

 「今言うことではないのだが言わせてほしい。今までよく戦ってくれた。同じ病に罹った戦士たちを率いて守り、我が国に強大なモンストールの侵攻が無いようあの危険地帯でずっと戦ってくれた。我が国を護る為にお前たちは病に蝕まれていた身で戦ってくれた。病にかかったお前たちの力になってやれなかったこの愚王が、皆を代表して礼を言う」


 話しながらも迫りくるモンストールに光輝く豪炎を放って迎撃するディウルに、ダンクは短く笑った。


 「大した実力だ。長々と話しながらもSランクのモンストールを圧倒している。それも“進化”していない状態で。立派に国王を務めておられるようだ」


 オリハルコンの硬度で武装させた大剣でSランクの魔物の猛攻を受け止め、カウンター斬りで魔物の胴を斬るダンクは、三日前のことを少し思い出す。




 ハーベスタン王国王宮にてダンクはディウル・アンスリールとの再会を果たした。挨拶をしたものの何を言おうか迷ってしまい、黙ってしまう。ディウルも同じようで黙り、お互い黙ってしまった。

 ダンクはとりあえず、国を出た後の数年間を話した。病のこと、鬼族に対する憎悪が無くなったこと、病はもう完治したことなど……。ディウルはダンクをじっと見つめて、一言も聞き逃すまいという姿勢で話を聴いていた。

 話が終わったところで、ディウルはダンクの手をとって力強く握った。


 (温かい、思いやりのある握り方だ……)


 ダンクが顔を上げると涙を必死にこらえているディウルの顔が映っていた。


 (よく、生きて帰ってきてくれた……!諍い争って袂を分かった家族の手をこうして握る日がきてくれて、本当に良かった……!!)


 ダンクは歓喜と安堵に震えているディウルから目が離せなかった。そしてディウルの肩に手を置いて労わるように叩いた。


 (すまなかった。未熟だった故に鬼を赦すことが出来ず、義兄殿に刃を向けてしまった。望まぬことをしてしまった)

 (全て赦す。いや、お前の憎しみは当然のものだった。妻を……お前の姉を死なせてしまった私に責がある)


 数年続いたいがみ合い・蟠りが解け、二人の仲が修復したのだった。





 「さらに強くなったなダンクよ!」

 「義兄殿もな。三日前よりも戦気が増している、何か良いことでもあったのか?」


 二人は快活に笑い合い、互いの大技を放ってモンストールと魔物を討伐してみせた。


 「パルケ王国に帰ってくるだろう?お前たちの居場所ははじめからそこにある」

 「そうしたいところなのだが、ハーベスタン王国には恩があってな。この戦いが終わった後もかの国の力にならなければならない」


 肩を並べる二人を見たアンスリールは嬉しそうに笑む。この光景を目にするのは何年ぶりだろうか。




 それからアンスリールも加わり災害レベルの敵勢を全滅させたところで、三人の前に新たな刺客が現れた。


 「あらぁ~~~ん?亜人族の中でも特に強い戦士が三人☆ あなたたちがこの軍の要のようね!」

 「魔人族……!」


 逆立った銀髪の巨漢魔人……ネルギガルドは、三人を面白そうに眺めて笑う。


 「戦士“序列5位”ネルギガルドよぉん!ザイート様の命令のもと、あなたたちを殺してからパルケ王国もハーベスタン王国も滅ぼすとするわぁん!!」

 「滅ぶのは貴様の方だ…!民と国の未来は、我らが守り切る!!」


 啖呵を切った後、ディウル・アンスリール・ダンクは一斉に「限定進化」を発動して、ネルギガルドと戦い始めた―――


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