空から爆弾が...否、黒い炎の塊が落ちて来る。それが敵がたくさんいる地に着いた瞬間、目が眩む程の光の発生と同時に全てを炭と化すレベルの炎と爆発が起こった。
「炭になるか灰になるかは、俺にも分からん。まぁ確実に言えることは...今のをくらった敵は確実に滅ぶ」
上空からそう呟くのは、序列7位「
赤い鱗とよく斬れそうな翼を持ち、おとぎ話に登場しそうな竜の体躯で、切れ長のトカゲ目で真下を見下ろすオッドは、口で炎を溜めている。こうして溜めることで先程のような強力な炎球を放つのである。彼が戦って去った跡は、たいてい焦土と化して炭や灰となった物があふれると言われている。
「さて......今の攻撃を躱した奴がいたようだが、なるほどお前も俺と同じ飛行系か」
下の敵が全滅したことを確認したオッドは、同じく空にいる敵を目で捉える。長い嘴とオッドよりも大きく鋭い翼を持つ一方体は肉食恐竜のもので尾は蠍の同じものというキメラ型の怪物が、オッドを見据えている。
「Sランクのモンストールはお前みたいに生物とは言えない形をしている怪物ばかり……どれも見るに堪えない姿をしてやがる。速やかに消してみせよう」
オッドは口に溜めていた炎球を、モンストール目がけて高速で放つ。モンストールも魔力光線でそれに対抗する。
が、モンストールの真上から今しがた炎球を放ったはずのオッドが登場して、猛禽類よりも鋭く禍々しい足爪でモンストールを切り刻んだ。そして魔力光線を放ってモンストールを墜落させる。
「空中戦で、モンストール如きが俺に敵うと思うな――」
落ちて行くキメラのモンストールに向かってオッドはそう冷たく言い放った――
戦場のあちこちに氷の残滓が散らばっている。ただの氷の破片がほとんどだが、中には氷漬けになった魔物の死骸や同様に氷漬け状態になったモンストールの体の一部なども戦場に転がっていた。
後に仲間の戦士たちが語るには、魔物やモンストールのほとんどが彼女の氷の魔法攻撃をくらった途端氷漬けになって生命を終えたとか。一瞬で細胞全てを凍り付かせて活動を停止させたとか。
動けなくなった敵など死んだも同然。他の竜人戦士は次々敵を狩っていった。
敵を大量に凍り付かせた本人は今、単独でSランクモンストールと戦い、そして今止めを刺そうとしていた――
“
青と白が混じった鱗を纏い冷気を放つ龍…序列4位「
「あのね、私たち竜人族戦士たちは魔人族と戦うことを想定して半年間も準備...修行をしてきたの。Sランクモンストール2体程度で私たちをどうにかなんてできるわけないでしょう。私たちを甘く見過ぎよ」
氷の礫と化していく怪物に向かって、「限定進化」を解いた彼女は冷淡に言葉を吐き捨てる。銀髪を揺らして白装束を整えて剣を鞘に納める。
序列は元は3位だったが、数日前にドリュウによって下剋上されたことで今の序列に至っている。彼女はそれが悔しく、猛特訓してきた。今ドリュウと戦えば序列がまた変わるかもしれない。
「これでここに侵攻してきた敵は全滅したかしら」
「はい!リュドさんのお陰で迅速に敵を屠ることに成功しました」
仲間の応答を聞いた彼女はそうと呟いて、さっきから感知している強い戦気が放つ方...エルザレス・カブリアス・ドリュウたちがいる地に目を向ける。
「普段ならここで一休みしているところだけど、国を脅かす存在がこの国に現れたそうね。だから今回は休みは無しよ。すぐに族長たちのところへ加勢するわ」
リュドの言葉に戦士たちは全員はいと答えて一斉に移動した。
国の僻地にて。
「感じるかカブリアス、ドリュウ.........来るぞ。さっきまでのとは格が違い過ぎる、強大な力を持つ敵が」
竜人族戦士の頂点、サラマンドラ王国を治めている族長…エルザレス(今日は特に派手な戦闘服装備)は、黒い雲がある方角を見つめながら厳かに告げる。彼の傍にいる竜の戦士...同じく黒髪で赤い鎧を付けているカブリアスはああと応えて頷く。
「ここに近づいて来ている...。禍々しくて強大な戦気だ。初めてだな......敵に対してこんなに畏怖の情を抱くとは」
「......100年以上前にも、これに匹敵する戦気を放つ敵がいた。奴を屠ることは叶わなかったが」
「相手は……“序列”持ちの奴でしょうな」
竜の入れ墨が彫られた鎧を装備している赤髪の戦士…ドリュウは眉を険しくひそめる。
「へ、へへ……。あの方がもうすぐ来られる……。貴様らの命も、あと数分って、ところ、だ……………」
三人の近くで倒れている魔人族は力無く笑った後力尽きて死んだ。他にも数人の魔人族の屍が転がっている。エルザレスたちはこの地にて三人で魔人族数人を討伐してみせた。「序列」を持たない魔人族程度ならエルザレスたちの方が圧倒していた。
「ほう、揃ってお出迎えとは感心するな」
三人の頭上から冷たい声がかかる。彼らが空を見上げるとそこには人間の少年よりもやや高身長の、黒髪で赤い瞳の魔人族がいた。その見た目は皇雅を彷彿とさせた三人だった。
「魔人族戦士“序列2位”ヴェルドだ。魔人族長の命により、この国とお前たち竜人族を滅ぼしに来た」
冷淡な口調で自己紹介と目的を告げるヴェルドが放つ邪悪で強大な戦気に、三人は内心で戦慄していた。
「貴様は、先日宣戦布告をした魔人だな。単身で我々のところに来たのは愚かだったな。力に驕り切った魔人族が!」
「………先にここに送り込んだ同胞たちが全滅か。それに各地に投入した災害レベルの屍族たちもほぼ落とされている。竜人族もこの数年で随分進化したものだ」
ドリュウの凄みにヴェルドは怯むことなく戦況を瞬時に把握し、竜人族を評価する。
「えらく余裕でいてくれるな?ドリュウの言う通り、俺たちを滅ぼすならザイートの奴を連れてきた方が良かったんじゃねーのか?それともネルギガルドやベロニカのどちらか連れてきた方が良かったんじゃないのか?どちらにせよお前一人で俺たちをどうこうしようとは、舐められたものだ」
「こちらの戦力をある程度知っていたのか。ふん、我ら魔人族の長が出るまでもない。他の“序列”持ちの同胞も不要だ。お前らは俺一人でもおつりが出る程度だ」
エルザレスの挑発に対しても動じることなくヴェルドは傲然と言い返す。自分一人でエルザレスたち全員を殺すと表明するヴェルドはからは何の強がりやハッタリも感じられない。それが虚言ではなく、事実になるであろうこと。ヴェルドからはそういった意思が見て取れる。
「修行を始める前のカイダよりも強い…それもずっとな。竜人族史上、最も強い敵がおそらくこいつとなるだろう。これよりここは死地となる。されど、敗北も死も許されん。お前ら、生きて勝利するぞ」
「相手はコウガと違って不死ではない。殺す攻撃をすればちゃんと死ぬ。行くぞ!」
「必ず奴を討ちましょう。魔人族にこの国と仲間たちを滅ぼさせはしない!」
序列3位「
序列2位「
序列1位「
三人がそれぞれ意気込んで武器を構えて魔力を全開で熾す。それを見たヴェルドもドス黒い魔力を熾して戦闘態勢に入った。
「「いざ―――」」
竜人3対魔人1による激戦が始まった―――