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「同じ手は通じません」

 「ガッ!?――――ペア”......ァ」


 モンストールがルマンドに接近する直前、モンストールが見えない何かに全身が強く捻じられて変形していく。やがて渦状に潰れていき盛大に血肉をまき散らして消えて果てた。

 「神通力」...言い換えると超能力と言われている「神鬼種」にしか宿らない特殊技能。魔法の類ではあるけど属性魔法とは別物らしい。

 それはあらゆる物体を自在に浮かせて操ることができ、さっきみたいにあらゆる物体を際限無く捻じって潰して破壊することができ、何か波動のようなもので攻撃ができるというもの。

 魔力に比例して威力が上がるらしく、魔力が非常に高いルマンドだからこそ発動できる特殊能力。強い、いやマジで強い。俺が不死身じゃなかったら大苦戦していたかもしれない。


 ここは鬼族の仮里。名前はまだ無い。この地帯には非戦闘員の鬼たちはいない。彼らはカイドウ王国の残骸である王宮に避難させている。そこには負傷した鬼戦士たちもいる。戦いで負傷した者たちはそこへ俺がすぐ連れていく。

 里の外にはアレンたち前衛、ガーデルやギルスたち中衛が、侵攻してくる魔人族軍を食い止めて返り討ちにしている。しかし迫りくる敵軍は正面や空からだけじゃなかった。

 下……「地底」から侵攻してくる敵軍も存在していて、里の中心から奴らは突然現れた。里の周りには頑丈な防御柵が張り巡らされておりその周囲にも多くの戦士たちが防衛しているから里の中は安全だと油断していたところに、こうして下から現れて民や家、土地そのものを滅ぼす……というのが魔人族軍の卑怯で非道極まりない軍略だったのだろう。



 「けど残念でした~~~!テメーの浅過ぎて見え見えの軍略なんて、とっくにお見通しでした~~~!!」


 俺は煽り調子で声高々に告げる。里の中心地は戦場と化していた。しかし鬼族戦士から犠牲者は一人も出ていない。逆にモンストールの屍が百…千…それ以上積もっていた。


 「ありえない……!まる、で……我々がここに来ることを、予め分かっていた、よう………」

 「だからそう言ってんだろ。テメーらが地下を通じてこの里の中から襲撃してくるってことは、前から“読んでいた”んだよバーカ」


 俺によって重傷を負わされて倒れている白い髪の女魔人にそう告げる。


 「俺たちについている軍略家を舐め過ぎだ」


 後ろに目を向ける。そこにはセンとルマンドに護られているカミラの姿がある。彼女は戦う前からこうなることを予測していた。だから俺やルマンドといった強力な戦力をここに配置させたのだ。

 彼女はモンストールのこういった襲撃を以前にも体験していた。ハーベスタン王国を襲った大規模な侵攻。中でもSランクモンストールは地底から侵攻し、「魔力障壁」をも破って国の中から出てきたのだ。

 そのことをよく憶えているカミラは、下からの襲撃にも完璧に備えていた。


 「優れた軍略家に、同じ手は通じません」


 カミラは青く輝く目で戦場を見通していた。


 「カミラ、そこからでも見える?」

 「ええ...バッチリです。この戦い、私たちが勝ちました...!」


 センの問いにカミラは「勝てる」ではなく「勝った」という強気過ぎる勝利宣言で答える。


 「カミラが言うなら間違い無いね。私たちはもう。あとは、実践するだけ」


 そう言ってセンとルマンドは抑えていた力を少しだけ解放する。他の鬼たちも勢いづけてモンストールの数を順調に減らしていく。

 この鬼族の軍は凄く強い。カミラによって全てを予測し、敵の動きを分析する。それらをもとに十分に対策を練った上で鬼たちが統率取れた戦闘を行って各個撃破する。戦士一人一人が人族の兵士数十人分の戦力を誇っている。

 中でも一緒に旅したことがある鬼たちは際立って強い。Sランクの敵一体だけなら彼女たちそれぞれ一人だけで確実に討伐できるくらいだ!

 さて、この地にいる鬼族軍の戦力は、鬼戦士だけじゃない。


 「「「「「ガアアアアアアア!!」」」」」


 そもそも下から襲ってきたモンストールどもを多数討伐した奴の大半が、俺がつくっておいたゾンビ兵どもだったのだ。

 半年前、ここが獣人族の国「カイドウ王国」だった時、鬼族でここを滅ぼしたことで獣人族の死体が山のように積み上がった。その後処理が困難であったこと、そして今回のような大戦に向けた戦力増強の確保ということで、俺が獣人族の戦士どもを俺に絶対服従となるゾンビに変えてやったのだ。「技能具現化」で手に入れたオリジナルアイテム「屍族転生の種アンデッド・シード」を使ってな。

 普段は鬼たちや俺の目につかないよう地面深くへ潜らせて待機させていた。しかし今はこうして大戦の駒として戦わせる為に使っている。地底からのこのこ侵攻してきたモンストールや魔人族を待ち伏せて、逆に不意を突いてやった。

 獣人ゾンビの数は数百体いる。中には生前では「幹部」だった強い戦士もいるから、この軍は量と質共に最強を名乗って良いレベルだ。

 まあこの軍の本当の強みは当然、鬼族戦士たちにある。彼ら強さの真髄はここからだ!



 数分後、強大な力を持った敵が新たに四体出現。一体は蝶の様な羽を生やして胴体からは尖った触手を生やした化け物。

 一体は草食猛獣の角を持ち6本の腕を生やした二足の牛のような化け物。

 一体は強暴そうな顎を持ち頭には鋭く頑丈そうな角を生やし、翼竜のような細長くもとんでもない筋力を持つ爪を持った、色々混ざった恐竜の化け物。

 そして最後は、3mはありそうな体を持った魔人族だ。


 「情けない、こんな奴らに討伐されるなど…!」


 大男の魔人族は力尽きた女魔人に冷たくそう吐き捨てて両腕に濃密な魔力を込める。


 「やっぱりSランクモンストールって、何か生物としての範疇を完全に逸脱してるよな。しかも見た目が生理的に無理。あんな奴らに里を滅ぼされたと思うと...!」

 「そうね。あなたのその憎悪を今ここで吐き出しなさい。うってつけの相手が目の前にいるから」


 センとルマンドは蔑みや憎悪に満ちた目を、三体のモンストールに向ける。


 「じゃあカミラ、お願い」

 「はい―――」


 二人の呼びかけにカミラは頷くいて「叡智の眼」と「未来完全予測」を発動する。

 カミラは青く輝いた目を敵三体に向けて見据える。魔人族に向けないのは、俺が奴を狩るからだ。俺と奴との戦力差を既に把握できた彼女は分析が必要ないと判断したのだ。


 「敵の“全て”を把握しました。いいですか、まずあの羽を生やしたモンストールは――」


 敵の「全て」を読み取ったカミラは、センとルマンドに早口で敵の情報を分かりやすく説明する。あいつの属性はああだ、こういう戦い方をする、こんな立ち回りをする、そして弱点はこれとこれ......全部しっかり教えてもらった。


 「何をごちゃごちゃと―――」


 大男魔人が不快さをあらわにしてカミラに襲い掛かろうとするが、


 「ごぅ………!?」

 「テメーの相手は俺だ。さっきの女魔人よりもレベルが高いみたいだから、俺の修行の成果を試すには丁度いいかもな」


 大男魔人の顔面を鷲掴みにして動きを止める。苛立ちと殺意がこもった目で俺を睨んでくるがちっとも怖くない。鼻で笑ってやる。


 「―――以上が敵の情報です」


 カミラの指示を聞き終えたセンとルマンド、そして他の鬼たちも一斉に連携をとる。


 「周りにいるゾンビ兵も上手く使え。そいつらはもう死んでいるし替えも利く。いわば俺たちの奴隷だ。存分に使い潰してやれ」

 「ええ。こんな奴らどう使おうと心がちっとも痛まないわ」

 「コウガ、その魔人族の相手お願いね。カミラは私たちがいるから大丈夫!」


 そう言い合ってから俺は顔面を鷲掴みにしたままの大男魔人を連れて遠くへ離れていった。


 「こ………の……下等な人族がァ!!(どういうことだ、全く振りほどけない!?)」

 「さて、準備運動には丁度いい相手かもな。 やるか~~」

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