「ギルス、今よ!」
「ああ!!」
ソーンの呼びかけに応じたギルスは、蟹や蠍が合成されたモンストールの側面部に炎熱魔法を放つ。モンストールが絶叫を上げて地面を転げまわる。
「効いてる!それもかなり!このまま押し切れぇ!!」
二人でSランクモンストール一体を相手している。半年前なら二人でSランクの敵は手に余る存在だったが、今では全く苦労しなくなっている。ソーンは片手間で他の魔物を狩るくらいの余裕を見せている。
「さて、最後はこいつで終わらせるか―――」
モンストールの巨大で凶悪な鋏攻撃を躱しながら中距離まで接近したギルスの両手から紫電が迸る。そして紫電は不規則な軌道を描きながらモンストールの胴体に激突する。
「――――、―――――ッ」
すると蟹と蠍の合成モンストールはみるみる衰弱していき、動きが鈍くなった。
“
吸血鬼種のオリジナル攻撃である「
これまでソーンとキシリトがこの技を先に使えるようになったが、ギルスも修行の末に会得出来た。彼の場合、雷の適正が大きい為、雷電魔法を媒体に「吸血」するようになった。
「ギルスもやっとできるようになったんだ!凄い威力ね、モンストールはもう虫の息よ!」
「ああ、今止めを―――」
ギルスはそのまま獄炎の巨大な槍を投げ飛ばして、蟹・蠍の合成モンストールを討伐した。
「やっぱり私の教えのお陰ね!私が丁寧に教えたからギルスもできるようになったんだわ!」
「キシリトにも教えてもらっただろうが。けどまあ確かにソーンにはよく教えてもらった。そこはちゃんと感謝してるからな」
「……!ふふん、そうでしょそうでしょ!」
キシリトの言葉にソーンは弾んだ声で嬉しそうに笑った。
「ガーデル、隙をつくらせた。今だ」
「分かってる―――」
“
鬣を生やしたゴリラのような合成モンストール(Sランク)の動きが急に鈍くなる。その足元には濃い影のようなものがモンストールを縫い付けるように絡んでいる。
キシリトによる「吸血侵食」 暗黒魔法を媒体にした「吸血」技だ。体力と魔力をごっそり奪われた合成モンストールが膝をついて苦しそうに呻いてるところに、駆けつけたガーデルが合成モンストールの胸部分に爪を立てた両手で高速で突きまくった。
ただ闇雲に攻撃しているわけではない。高速で相手の関節や骨の継ぎ目などを外し剥いでいるのだ。それが鬼族の裏拳闘武術の一つ、「継ぎ剥ぎ」
「!すごい、本当によく効いてる!カミラが言ってた通りだわ!」
合成モンストールの体が尋常じゃない速度で崩壊していくのを見たガーデルが感嘆する。Sランクモンストール…特に様々な魔獣が合成された化け物には、こういった攻撃が特に効くのだ。
そもそもSランクモンストールのほとんどが様々な生物が不自然に結合した合成生物なのである。故にその体のどこかしらに不自然な繋ぎ目が存在する。そこを完全に解いて崩してやれば、敵は簡単に落とすことができるのだ。
半年間にわたってSランクモンストールの生体を解明したカミラはSランクモンストールの対処法を確立させ、裏拳闘武術を得意としているガーデルやセンにこういった技を放つようにと助言しておいた。
「こうなっちまったら体を動かすことすらままならないだろうな……憐れだ」
「憐れむ価値すらないわこんな化け物どもには」
そう冷たく言いながら、二人は崩れていく合成モンストールにとどめを刺して討伐した。
「あとは、あの魔人族か」
「うん。でも大丈夫みたい――」
前衛戦の中心地では鬼族二人と魔人族一人による激闘が繰り広げられていた。本来なら魔人族一人だと里にいる鬼族全員がかかっても苦戦する程の戦力差があったはずだ。
「………!!」
青黒い髪を生やし、発達した八重歯が特徴の男魔人族はそう思っていた。故に自分がこうして追い詰められていることが未だに信じられなかった。
「鬼族に、こんな戦気が…!?たった二人相手に、魔人族のこの俺が何故……っ」
「限定進化」を発動して本気状態になっても戦力差が埋まらないことに魔人族は苛立っている。
「同じ“限定進化”が使える。あとはどっちがどれだけ強くなれたか、なんだけど。当然私たちのほうが上に決まってる」
「アレン」
「うん。お互いに左右から――」
スーロンの掛け声に応じて二人左右に分かれてから、一斉に魔人族へ駆ける。魔人族は即座にどちらを狙うかを見定めて、アレンに標的を絞った。
「そう来るって分かってたから――」
“
魔人族が接近しようとした直後、アレンは地面に手を着いて雷属性の魔力で生成した拘束網を展開する。突如展開したトラップにあっさりかかってしまった魔人族は拘束される。
「こんな、ものォ!!」
拘束出来たのはほんの数秒で、魔人族はすぐに雷の拘束網を破った。しかしそこにスーロンが高速で迫っていたことには、対応出来なかった。
“
魔人族の横腹にめがけ跳び上がりからの急降下蹴りを入れる。彼女の本気の爪先蹴りは本物の槍をも凌ぐ凶器となる。
「ご……がっ」
「...浅い。頑丈ね...!」
手応えがイマイチだったらしく、スーロンはやや苦い顔。すぐ切り替えて次の攻撃に移る。それを迎え撃つかのように魔人族は口腔に高密度の赤い魔力を瞬時に溜めて、火炎の塊を至近距離で吐いた。
「やっぱり火を吹こうとしてたわね!!」
しかしスーロンはすかさず大地魔法を発動して、魔人族の周りの地面を変質、ドーム状にして囲み、火炎ごと魔人族を閉じ込めた。
この魔人族に対しても、カミラの「叡智の眼」で全て暴かれていたため、アレンたちには相手の行動がある程度予測出来るようになっていた。故にこうして魔人族の反撃をも防いでみせた。
「まだ終わらない――」
炎を防いだだけでは終わらず、大地のドームを狭めていく。そのまま圧死させるつもりだ。