「調子に、のるなァ!!」
けれどそれは叶わず、ドームがあっさり破られる。現れた魔人族の両手両足が黒く変色しており、それらから濃密な魔力が感じられる。
「あれは部位に魔力をすごく集中させて硬化・強化させてる。コウガがやってたのと似ている」
アレンが魔人族の武装状態を素早く見抜く。
「ぉおおおおお!!」
魔人族が吠えながらアレンたちに殴りかかろうとする。上へ跳んで角を地面に向けて急降下してくる。二人とも距離を大げさにとって回避する。
続いて魔人族が豪速の蹴りを放つと、スーロンが大地魔法で拳に岩を纏って迎え撃ちこれを防ぐ。
“雷槍”
蹴りを止められて拮抗しているところにアレンが爪先に「雷鎧」と魔力を集中させた蹴りを胴体に放つ。
“
しかし魔人族は胴体を黒く硬質化させて最強の防御技を発動して蹴りを防いだ。苦悶の声をあげつつも傷はついてなかった。
「攻撃はまだ終わってない――」
“
休む間無くアレンは連打技の究め技を放つ。「雷鎧」で加速させて一気に百数発もの拳と蹴りを放っていく。
「お、オオオオオオ……!!」
「ここからはお前たち魔人族に対する憎悪を込めた攻撃をするから......かなり荒くて過激になるから――」
そう告げた直後、アレンの顔つきが般若の如く険しくなった。
“
手足は刃物のように振るって魔人族の体を斬りつける。刺したりもする。つむじ風の如く拳術を放つ。殴る...斬る。蹴る...斬る。
「こ、のォ!!」
魔人族も負けじと応戦するが、アレンの速度・威力全てが上回り、ダメージを重ねていく。
“
さらに憎悪と怒りのままに武撃を放つ。放った右拳には鎧の補正と魔力だけじゃない。怒り憎しみといった気持ちも乗せている。想いが乗った拳は強い、たとえ憎しみであろうとも。アレンたちはそう信じていた。
「ォぉおおおおおおおお!!」
どうにか連撃から逃れた魔人族は口から極大の「魔力光線」を放つ。
「「………ッ」」
二人とも直撃は避けたものの腕や体を少し負傷させる。今度は魔人族が追い打ちをかけて一気に狩ろうとする。
“
二人に肉薄しかけたその時、魔人族が立つ地面が全て砂に変わり、もの凄い勢いで下へ、下へ落ちていく。
「こ、れ……はっ」
「無駄よ。その砂にも魔力が込められてるから。あんたを地の底へ引きずり込んでいくわ。しばらく動きを止めてもらうわよ」
スーロンによる最上級の大地魔法。蟻地獄のように敵を地中へ引きずり落としていく。最深50m近くまで沈めることが出来る。
「アレン、お願いね」
「うん。準備は出来てる...!」
スーロンが魔法を発動してから、アレンは次の一撃を打つべく力を溜め続けていた。打つ方の右拳は腰の方へ引き寄せて構える。最強の一撃を放つ為には全身から力を加速させながらパスする必要がある。皇雅に教えてもらったこの力の加速パスを実現させる―――
“
スーロンの魔法攻撃が発動される。魔力が込められた砂を一斉に爆発させて魔人族を地上へ戻した。
「ふざけ、やがって……!鬼族風情がアアアア!!」
今までの流れをくらってコケにされた様子の魔人族がぶち切れた様子で、全身を黒く武装させる。そこから彼自身の最強の一撃を放とうとしている。
一方のアレンも次の一撃を放つことに集中している。パスの起点は下半身から...爪先、足首、脚、腰...上半身へ。
体幹を通して、肩を通して、腕、手首、そして拳に達した頃には、その速度は超音速の域に!
“
アレンの全てを乗せた拳と魔人族の捨て身によるアタックが激突する。アレンが見た魔人族の最期は憤怒の形相だった。
拮抗したのはほんの一瞬で、アレンの拳が魔人族の顔面を粉々に潰し、決着がついた。
「そうやって私たちを格下に見てばかりだから、お前は敗れたの。この世界の害悪め...」
既に死に絶えた魔人族に、アレンは冷たくそう吐き捨てた。残心をとって魔人族が完全に死んだことを確認してから、アレンはその場でぐったりした。同時に彼女の右手と腕にもの凄い痛みが襲う。
「い、たい......コウガは凄いなぁ。こんな技、私じゃ何度も撃てない」
このセリフを皇雅に言ったら、
(俺はゾンビだから。いくら撃って体が壊れようが平気!)
――って答えるのだろうな、と想像したアレンは小さく笑った。
「ちょっとアレン、大丈夫?」
スーロンに介抱されてようやく立ち上がり、戦いに勝利したことを改めて喜び合う。二人のところに仲間の4人も集まってきた。
「俺たちが介入する余地がなかったな。見事だった」
「ん。あの魔人族は弱かった」
「まあ私たちが凄く強くなったからかもだけど」
負傷したところを簡易的に治療しながら、アレンたちは残りのモンストールと魔物を討伐しつつ、里へ戻って行った。