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「軍略という武器」

 後衛戦……里内での迎撃戦も、鬼族が優勢のまま終わろうとしていた。



 一体は強暴そうな顎を持ち頭には鋭く頑丈そうな角を生やし、翼竜のような細長くもとんでもない筋力を持つ爪を持った、色々混ざった恐竜の化け物。


 センとルマンドを中心とした鬼戦士たちとゾンビの獣人兵対Sランクモンストール三体。

 そのうちの一体、草食猛獣の角を持ち6本の腕を生やした牛の合成モンストールがセンに襲い掛かる。


 (まずは角で私を突き刺してくる)


 迫りくる角突進を、センは「見切り」で紙一重で躱す。


 (振り向き様に6本の腕でランダムに殴ってくる...)


 続く豪腕の連撃も「見切り」で躱しまくり、避けきれない場合でも自身の拳闘武術を駆使してダメージを上手く受け流す。


 (0.5秒後右上から。その0.2秒後に左から。0.8秒後に右アッパーが。......。.........)


 さらに続く猛攻も同じように躱し、受け流して、正面から防いで、こちらからも攻撃をぶつけて相殺するなど、センは牛型モンストールを完全に翻弄していた。


 「全部カミラが見通した通り。あんたの一挙手一投足全てが予測された通り!あんたの攻撃なんて当たらないわ!」


 濃密な緑色の魔力を角に纏わせた猛突進を繰り出す牛型モンストールにセンは強気に言い放ち、宣言通り予め分かっていたかのような所作で攻撃を躱して、隙だらけになった横部分に裏拳闘武術を打ち込んだ。


 “継ぎ剥ぎ”


 いくつもの魔獣が合成されたモンストールに特効となるこの技をくらったことで体の崩壊が始まる。動きを完全に止めた牛型モンストールの正面に回り込むと、その頭部に紫っぽい魔力を込めた拳をぶつけた。


 “幻砕げんさい


 センが放ったこの拳には特殊な魔力が流れている。その拳に触れた者はたちまち酩酊状態に陥り、やがて精神を汚染していく。


 「頭に直接打つと......脳が壊れていくわ。......終わりね」


 精神と全身が破壊されて発狂していくモンストールを冷たく見下しながら、センは魔獣の急所となる部分を正確に打ち抜いてとどめを刺した。




 異様な模様をした羽から金色の鱗粉が飛び散る。それらはデタラメに散布するのではなく、まるで意思を持ったかのように標的に向かって真っすぐに向かっていった。その鱗粉は不治の病を引き起こす即効性の猛毒。解毒は不可能、触れれば死確定である。


 「そんな猛毒なんかに、絶対に触れてなんか上げないから」


 しかし広範囲で放たれた鱗粉は、標的に触れることはなかった。向かう途中でピタリと進行が止められ、鱗粉が全て丸状になって固められていく。


 「お返しするわ」


 小さく凝縮され続けて弾丸のように固められた直後、標的とは反対の方向...鱗粉を放ったSランクモンストールに向かって音速で跳ね返された。


 「来ると分かってたから事前に防ぐことが出来たわ。私たちを舐めないことね」


 猛毒の鱗粉を見えない力で跳ね返したルマンドは、攻勢に移って追撃を仕掛ける。


 “神通力 波撃はげき” 


 両手を前に突き出して気合いを入れると同時に両手から透明色の波動が放たれる。それはモンストールの体を、内側から破壊する超能力攻撃だ。


 「その触手は私の“神通力”でも厄介だから、外の肉体じゃなくて内側から破壊することにしたわ」


 ルマンドは淡々と告げながらモンストールを内側から攻撃していく。そして彼女の狙い通りに、モンストールの体内のある器官を潰すことに成功する。


 「良し...これでさっきの危ない鱗粉はもう放てないわね」


 ルマンドが「神通力」で破壊した器官は鱗粉を生成するところ。そこを壊せばもう鱗粉は発生しない。彼女が持つ特殊な力だからこそ可能とした対処法である。


 自慢の武器を失ったことに憤慨した様子のモンストールが反撃に出る。触手から様々な属性の魔力光線を放つが、


 「やっぱりそうするよね。全て予測された通り―――」


 ぶつかる寸前で「魔力防障壁」を展開して光線を防ぐ。


 “念衝波動ねんしょうはどう


 そして返し技として放たれた「神通力」で、モンストールの全身をズタズタに捻じり切って消滅させた。


 「さて―――」

 「あとは―――」


 ルマンドとセンがそれぞれSランクモンストールを討伐したのは同時で、二人が合流すると同時に残り一体のモンストール…複数の恐竜型魔物が混ざったSランクの合成化け物が牙を、爪を、尾を向けて襲い掛かる。

体のあらゆる部位全てを凶器として攻撃を振るう。さらにそれらを赤い魔力で出来た鎧で硬質武装化させてもいる。近くにいたゾンビ兵らに当たると炭になったり蒸発したりした。超高熱の鎧武器のようだ。


 「カミラの言う通り、あれは強いわね」

 「ええ。だけど、私たちなら―――」


 センとルマンドは臆することなく他の鬼戦士たちと共に合成恐竜モンストールに立ち向かう。しかしその前に、ゾンビ兵たちを特攻させる。百体近くものゾンビ兵たちを文字通りゾンビアタックさせてモンストールを消耗させていく。


 「あんたたちはそうやって敵を削ることにしか価値が無いのよ。良かったわね役に立てて」


 腹黒い剣幕で冷たく告げるルマンドにセンは苦笑する。そしてゾンビ兵をあらかた消滅させたことでモンストールの体力を大幅に削ったことに成功する。

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