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「軍略という武器」2

 追い詰められたことに激怒したモンストールが咆哮とともに全身に魔力を熾して全身が赤く変色していく。最後に大技を放つつもりだ。

 全身をつかった捨て身の突撃を二人にくらわせようとするが、モンストールの体は二人をすり抜ける結果となった。


 「残念。それは幻よ」


 センの「幻術」によって攻撃がすかされた。呆然としたように立ち尽くしているモンストールの真上から、ルマンドの高威力の魔法攻撃が炸裂した。


 “螺旋巨光槍トルネード・ランス


 渦巻く嵐を纏った光の槍が合成恐竜モンストールを貫き、ズタズタに切り裂いて消滅させた。


 「里に直接攻め込んできた敵の主戦力はこれで全部殺したわね」

 「いえ、まだ一人いるわ。魔人族が―――」


 ルマンドが無人であろう地帯に目を向けたその時―――





 「俺ももう終わったところだ」


 俺は余裕ある笑みを見せてセンとルマンドのところに降り立った。


 「さすがね。たった一人で魔人族を討つなんて」

 「それに服の汚れ一つもないなんてね。余裕だった?」

 「まあ準備運動にはなれたかな。“リミッター解除”することなく終わったし」


 俺がそう答えている一方で、先ほど戦った地でバラバラに分断された大男の魔人族の死体がある。


 (あ、れが……ザイートが言っていた、“イレギュラー”……!この俺がまるで赤子の、ように………ッ)


 死ぬ間際に大男の魔人族はそれだけ呟いて死んだ。


 「里の外にいた魔人族の戦気も消えたわ。アレンたちがやってくれたようね」

 「これでまぁ、迎撃戦は終わりになるのかな。俺たちの大勝利だ」


 俺の言葉にみんなが沸き立った。それから先は統率が取れなくなったモンストール・魔物の残党を迅速に処理して軍を全滅。俺が言った通り迎撃戦は鬼族軍の大勝利に終わった。



 それから数分後、アレンたちが里に戻ってきて全員集まった。大勝利とは言ったものの、Sランクの敵との戦いは万事上手くはいかなかったところもあり、死者を数人出してしまい、負傷した鬼も多くいた。

 死んだ仲間たちをアレンたちは手厚く弔ったのだった。



 「ここにいる皆さんが誰一人欠けることなく戻ってきただけでも私は凄く嬉しく思い安心しています。

 皆さんのお陰で、私の...私たちの里、居場所は守られたのです」


 民家には俺とアレンとカミラ、旅を共にした鬼たちが集まっている。カミラが俺たちに感謝の言葉を言いまくっているところだ。


 「いくら優れた軍略が出せても、それを十分に扱えるだけの戦力が無ければ意味がありません。今回もハーベスタン王国の時と同様に、皆さんのような戦士たちがいてくれたことで魔人族軍に勝つことが出来ました!

 本当に、ありがとうございます...!!」


 カミラは俺たち一人一人に頭を下げてお礼を言った。この中で唯一非戦闘員である彼女はそのことを心の奥底で負い目にしていたようだ。みんなが気にしないでいいと言ってはいるがこればかりはカミラはずっと気にするようだ。


 「何度も言うけどカミラがいなかったら今回の戦いによる死傷者はもっと増えていたと思う。俺は強いだけで、カミラみたいに犠牲を多く出さない優れた軍略を練るなんて無理だったし。カミラも軍略という武器で立派に戦ったんじゃないか?」



 俺がそう言うと同時にアレンがカミラを優しく抱き留めてよしよししながら同意する。


 「コウガの言う通り。カミラもちゃんと戦ってた。軍略で私たちに大きな怪我させることなく勝利に導いてくれた。カミラもここにいなくちゃいけない存在。みんなと同じ、大切な存在だから」

 「コウガ、アレン...!ありがとう、ございます......っ」


 カミラはアレンの胸に顔をうずめて、肩を少し震わせる。アレンはもう一度ありがとうと囁いてその頭を撫で続けていた。みんなは笑顔でそんなカミラを見守っていた。


 「俺たちはこれで終わったけれど、外では…世界のあちこちでは同じように魔人族と戦争してるんだよな」


 ギルスがぽつりと呟くと俺は色んな奴らのことをふと思い出す。竜人族、亜人族、あまり交流がなかったラインハルツ王国にハーベスタン王国、そして……サント王国。


 「コウガ、これからどうするの?どこかの戦場に向かうの?」


 アレンが尋ねるとみんなも俺に注目する。


 「………………どうしよっかなぁ」


 本気でどうしようかなって悩んでいる。戦場は大きく分けると6つ存在している。


 「仮に増援に行くとするなら、優先すべきはサラマンドラ王国かな。竜人族とは同盟を結んでる仲だし」


 そう呟きながらも脳裏に浮かぶのは、サント王国で別れたクィンや藤原。そして………。


 「他にも色んな大国が攻め込まれている頃だよね。カミラが暮らしてたハーベスタンも、ちょっとしか滞在しなかったけどイードも。あと一度も行ったことないから分からないけどラインハルツって国も」


 アレンが最後に口に出した国…ラインハルツに俺は少し反応してしまう。あの国は……


 「ラインハルツ王国なら大丈夫だと思うぞ。

 なんせあそこには――――


 人族…いや、世界最強の兵士がいるだろうからな」


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