ジースの指示を受けた魔物たちが堂丸と中西に止めを刺そうとするが、米田が操っているモンストールたちが二人を庇った。
「裏切りどもが...消えろ!!」
ジースが放つ「魔力光線」は、Gランク個体たちをも一瞬で滅ぼしていった。瞬く間に米田が操ったモンストールたちが全滅した。
「そんな...災害レベルもあっという間に...」
盾の中で怯える米田。一方の曽根はさらに強い防御魔術を発動していつでも防げるようにする。
「屍族という駒がいなくても、今のお前たちなら...私一人でも十分だ。皆殺しにしてやる――」
(させない――!)
“見えざる矢”
ジースが飛びかかろうとしたところに、縁佳の見えない矢の狙撃が貫こうとする。
「―――っと」
しかしまたもギリギリのところで躱される。
「そんな、強化しても躱されるなんて...!」
青ざめた様子で米田が呟く。
「お前たちが強化した?馬鹿が、私も進化しているのよ。そして進化した私の“見切り”は、敵の次の攻撃を読み取れるレベルへとさらに強化されている。たとえ狙撃であろうともね。仮にあの女の矢や弾が当たったとしても果たしてこの私を倒すのは...無理ね、お前たち程度では」
ジースの体に巻き付いている帯のようなものがわらわらとばらけて意思を持ったかのように動き始めるそれらはよく見ると黒い翼のようにも見える。
「それより、そろそろ姿を見せなさいよ。いい加減こそこそ隠れて狙撃してもこの私には意味無いって分かったはずよ」
そう言ってからジースの両手からそれぞれ炎と嵐の魔力が発動して、全体攻撃規模の複合魔術を放った。
「く...“
ジースの複合魔術を、曽根の最強防御魔術でどうにか防ぐこに成功する。透明色の結界を救世団たちとガビルがいる範囲で囲って、尚も続くジースの猛攻を防ぐ。しかしやがて結界は強引に破られてしまう。そして縁佳がいる砦にも攻撃が及んで、彼女が引きずり出されてしまった。
「う……っく!」
負傷を辛うじて避けた縁佳はジースの黒い翼から逃れて、皆と合流する。
「ゴメン...みんな」
「ううん、みんなを守ってくれてありがとう、美紀ちゃん。ここからは私があの魔人族と戦う...!」
“隠密”を解いた縁佳が、ジースの正面に立って弓矢を構える。狙撃手らしからぬ配置ではあるが、彼女のステータスと敵が特殊な為、仕方がない。
「やっと姿を見せたわね。さぁ...死になさい」
「そう簡単に、私は殺させない...!」
“マルチ・アロー”
姿を現してからすぐに縁佳は無数の矢を放った。雷と風、水の属性が付与された矢が急所を狙って襲い掛かる。
「無駄よ...“
しかしジースは全ての矢を、体にある帯状の羽で撃ち落としてみせる。その羽にもいくつもの属性が付与されている。
「ぐ...“
続いて縁佳が嵐を纏った矢を放つ。意思を持ってるかのように不規則に移動しながら発射していき、やがてジースの真後ろを捉えて射抜こうとする。
咄嗟に振り向いて羽でガードするジース。しかし直後矢が大爆発を起こした。
「あなたの“見切り”には敵わないかもしれない。けれど……!」
“サウザンド・スナイプショット”
さらに武器を狙撃銃に切り替えて千規模の銃弾の雨嵐を放つ。全弾が狂い無くジースを撃ち抜くべく正確に襲い掛かる。
“
爆煙から無数の鞭状の羽が、千発もの銃弾を悉く撃ち落とし、防ぎ、逸らし、消滅させ、潰していく。
「はぁ、はぁ………まだまだ……!」
“インドラの雷”
光輝く黄色の魔力を込めた矢を放つ。それは巨大な雷の矢と化してジースを穿ち、消滅せんとする。
「ほう?さっきまでとはレベルが違うな?これは躱すのは不可能か―――」
ジースは追い詰められた素振りを微塵も見せることなく黒い翼を発生させ、高魔力を熾す。
“
無数の鞭状の黒い羽が迫る巨矢の魔力を削り取り、そして真正面から極太い黒の「魔力光線」を撃ち放って、相殺させた。
「く......これも、駄目なの?」
「インドラの雷」は縁佳の最強狙撃の一つであり、魔力を大量に消費してしまう。それによって縁佳は疲弊してしまっている。彼女の狙撃はどれも確実に敵を射抜く狙撃だった。しかし...今回は相手が悪過ぎた。
ジースの「見切り」の精度は本人が言った通り、魔人族の中でも最強格だ。加えて彼女の特殊な翼の攻撃が「見切り」と上手く連携してどんな攻撃をも躱し防ぐことを可能とする。縁佳の狙撃を以てしてもジースを撃ち抜くのは困難だ。
「今のがお前の最大攻撃か?だとしたらもう分かったでしょ、お前たちの頑張りなど塵芥に等しい足掻きということが」
ジースは酷薄な笑みを浮かべながら、黒い羽を縁佳に照準を合わせる。しかしそこに堂丸が割り込んできてジースに砲口を向ける。
「させるかよ……!!」
“炸裂弾” “
魔力を込めた炸裂弾と炎熱と光の複合魔法を大筒越しで撃つ。しかしそれらもジースの黒い翼であっさり破られる。
「………ッ」
ジースの様子が一変し、動きをピタリと止めてしまう。米田による「幻術」だ。
“
隙を見せたジースに、大地の鎧を纏って武装した曽根が攻撃しにかかる。その物理威力はGランクモンストールを殴り仕留める程だ。
「―――数瞬意識が飛んでいた。私を幻術に嵌めるとはやってくれる」
“
ジースの全身を帯状の黒い翼がまとわりついて武装化する。そして鎧を纏った曽根と近接戦を繰り広げる。
「か…………っ」
「ふん。話にならない」
武術の質と素の力ともにジースの方が上であった以上、曽根に勝ち目は無く打ち負けてしまう。防御力が高い彼女だからこそ耐えることが出来たもののダメージは深刻だ。
“魔法剣――
曽根に入れ替わるようにガビルが光魔法を纏った「魔法剣」で斬りかかるが、武装したままのジースの武撃に敗れ去る。
「ぐ……ぬぉ」
「総大将がわざわざ首を差し出してくれるなんてね。笑えるわ」
魔力を込めた手刀を放とうとするが曽根がガビルを連れてどうにか回避する。彼女たちを援護するように縁佳と堂丸が狙撃・射撃するが。
“螺旋旋風弾”
“大炎槍”
嵐の銃弾も砲口から放たれた槍状の炎弾も、武装したジースの武撃と魔法攻撃に破られてしまった。ふとジースは後方にいる中西に目を向ける。
「………………」
4人と違って彼女だけ攻撃に参加していないことに気付いているジースは蔑んだ笑みを含めて話しかける。
「そこのプリーストのガキは、もう諦めているようね?私とお前たちの戦力差を理解し始めている。もう敵わないと」
「……!」
中西は顔を青ざめさせて震える。しかし仲間たちがいる手前で本音を見せたくないのか、魔法杖を握りしめて反発してみせる。
「ば、バカにしないで!私だって救世団の一員、連合国軍の切り札なのよ!!」
“水砲”――「聖水」付与
魔法杖から小さな光を纏った水の巨弾が放たれる。それを目にしたジースの顔つきが少し変わる。
「あれは、私たち魔人族や屍族に特効とする特殊な水魔法……!」
警戒した様子のジースの両手から高威力の暗黒魔法が放たれて、光る水の巨弾を打ち消して見せた。
「う………そ…」
中西は美羽の教えによって「聖水」を生成出来るようになった。これによりモンストールをより多く討伐出来るようになった。しかし魔人族の前には威力がまだ未熟だった。
「はん、少し警戒が過ぎたようね。その光る水魔法は脅威だけど、肝心の使用者が弱すぎるもの」
「なん、ですって……!?」
「聞こえなかったのかしら?お前がこの中でいちばん弱いと言ってるのよ。戦気も総大将とあまり変わらない。魔力だって、私の駒どもを操った呪術師のガキよりも劣っている。お前がこの中で足を引っ張ってるのよ」
「………!!」
指を差されて無慈悲に告げられて、中西は顔色を悪くさせて震えてしまう。彼女自身も心の底では自覚していたのだ。彼女自身がこの中で戦力がいちばん劣っていることを、先ほどから自分だけまともに戦えてなく足を引っ張ってしまっていることを。
(私だけ、みんなと同じくらいの修行を積まなかったから。みんながいれば何とかなるって思い続けていたから……。あの時……カイドウ王国に行く任務だって、私は………っ)
実際中西だけが6人(美羽と縁佳たち)の中で成長がいちばん遅れている。この半年間での修行が皆よりやれてなかったことと、カイドウ王国への潜入調査に同行することなく大きな経験値を得なかったことが、彼女と皆との差別化が決定づけていた。
「そんな、こと……分かってた。私がこの中でいちばん弱いってこと。それは私がみんなと同じくらい頑張らなかったから。
でも仕方ないじゃない……!怖いんだから!!」
やけくそ気味に魔法攻撃や「魔力光線」を撃ち放つがジースに全て破られる。
「ふん、既に折れてしまっているなんてね。これなら楽勝かもね」
「「「「………!!」」」」
ジースは勝利を確信した様子で笑みを含む。縁佳たちは焦燥にかられていた。
連合国軍は劣勢になりつつあった………。