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「時間回復」

 (どうして忍び込むように来たの?普通に訪問したら良かったのに)

 (この国のほとんどの奴らは俺に反感持ってるだろ?だから堂々とお邪魔できるわけねーんだよ。それより修行を見てほしいだって?俺にどうしろと?)

 (うん。私の回復魔術なんだけど、これを武器にしたいって考えてて――)


 美羽は皇雅に自身が考えていたことを全て話した。


 (自分にしかできない魔法あるいは魔術、つまりは“オリジナル”を実現したいと。それも魔人族をも討ち取れるくらいのレベルをねー。

 で、あんたの場合、“回復”をより高次元に進化させたいと)


 かいつまんで全てをまとめた皇雅は無言で思考した後、こんな話をもちかけてきた。


 (学校での雑談で、あるラノベ作品のことを話したことがあったんだけど、憶えているか?

 最弱職業と言われている回復術士になってしまった主人公が、機転を利かせて無双化するっていうやつ。

 で、注目すべきところが、最後のところでお得意の回復魔術を応用させて、ラスボスのステータスと年齢をも再生(=巻き戻し)して弱体化に成功、そのままラスボスを討ったんだ)


 その時の皇雅は懐かしそうに楽しそうに作品のことを語っていたと、美羽は楽しそうに思い返す。


 (巻き戻、す……?)

 (そうだ。傷を巻き戻して傷跡も失った血液も全て元通りってのがセオリーだったけど、巻き戻せるのは果たしてそれだけなのか?否、“回帰”にはさらにその先があった。“肉体”や“年齢”を、さらには“時間”をも巻き戻すことができるのだとしたら?

 俺はこう思うんだ。あんたの“回帰”も、それと同じようなことができるんじゃないかって。それで強い強~~い敵を、弱くできるんじゃないかって)

 (………!!)




 皇雅のこの助言は美羽をさらなる次元へ到達させるきっかけとなった。彼の協力を得ながら、ついに美羽だけが使える究極の回復魔術を実現させた。



 ( “時間回復リバース・ヒール” )  


 それが美羽が編み出したオリジナル魔術だ。対象のステータスを過去の時間へ巻き戻す。つまりは......対象を強制的に弱体化させる魔術となる。

 当然それは魔人族にも有効であり、大幅に弱体化させることが出来た。例えば、「魔石」による大幅な強化に至る前の状態に巻き戻すことも可能だ。

 事実美羽は先の大戦で魔人族リュドルを「魔石」を取り込んだ前の状態にまで巻き戻して弱くさせたのだ。


 (でも、この魔術には大きな代償がついてくる……自分の体力と魔力。

 そして………生命力をも多く削られてしまう……)


 リュドルのステータスや肉体を巻き戻した時間幅は、約10年。巻き戻す時間幅が大きい程、体力と魔力を大きく削ってしまう。1年程度の巻き戻しなら体力と魔力がごっそり削られる程度で済んでいた。

 だが...10年という時間は、流石にそれらだけではあの大きな代償を埋められなかった。寿命を削ったような感覚...それはまるで死神の鎌にかけられるが如く。


 (削られた生命力を元に戻すには時間が必要。一日や一週間程度じゃ利かない。長い療養が必要になる。

 でも今は大戦中…。あまり長く休んではいられない……)


 旧ドラグニア領地に戻らされた美羽はベッドに横たわらせられて回復中だ。クィンに安静するようにとくぎを刺されているとはいえ、彼女たちに任せきりには出来ないと考えていた。自分がこの軍で大きな戦力となっていることは美羽自身も自覚しているのだ。


 (相打ち覚悟をしないで魔人族と相手できる人は、やっぱり君しかいないのかな?

 甲斐田君、今君はどうしてるの?君も鬼族の里でアレンちゃんたちと一緒に魔人族たちと戦っているの…?

 縁佳ちゃんたちも、危なくなったら逃げていいから、どうか死なないで…!)


 美羽はここにはいない生徒たちのことを考えていた。彼らのことを思うと心配な気持ちになってきた。



 同時に、クィンも考え事をしていた。


 (半年間この時の為に必死に鍛えてきたけれど、魔人族には届かなかった。あれらとまともに戦える方は、あれらと同じく規格外の何かにならなければならない...。となれば、やはりあなた以外にいないのでしょうか?.........コウガさん)


 クィンは自身の実力がまだ及んでいないことを悔やむ。しかしこんな彼女でも、多くの兵士が慕ってくれていることを自覚している以上、決して弱みは見せなかった。


 「だから、私が主だってあなたたちに立ち向かわなければならないのです!たとえ敵わずとも……!!」


 クィンは「魔法剣」を構えて、新たに現れた魔人族を睨みながら宣言した。


 「リュドル様をこんな若い女が……!?どうせまぐれだ、すぐにすり潰してやる!!」


 両軍が再び激突した。



                *


 サント王国付近の戦場―――

 異世界召喚組・ガビルvs魔人族戦士「序列6位」ジース


 “見えざる矢”


 ―――――


 「―――チィ!」


 縁佳による不可視・不可知の狙撃…「見えざる狙撃」を、ジースはなおもギリギリで急所の直撃を避ける。彼女の「見切り」は世界最強レベルに達しており、たとえ縁佳の狙撃であろうと感知することが出来る。もっとも狙撃を意識していなければ感知することは不可能ではある。それだけ縁佳の狙撃レベルが神がかっているのである。


 「いける、はあぁ!!」

 「俺も続くぜ!」


 手薄になったジースに、中西が光の「魔力光線」を放つ。さらにその上から堂丸が砲撃を放つ。しかしそれら全てはあっさり破られる。


 「その程度の攻撃で魔人族を討てると思うな、ガキども」


 ジースの「見切り」と、彼女を覆うように発生している黒い羽と翼。この二つが彼女へのダメージをほとんど無に帰している。

 が、その彼女に縁佳が撃った見えない弾丸が迫る。それをジースはギリギリのところで感知して、弾いて軌道を逸らした。



 「ぐ......この“見切り”と“黒翼”の壁を常に発動していないと、窮地に立たされているとは……」

 「くそ、高園の狙撃でもダメなのかよ!」


 堂丸と中西の攻撃は難なく躱し防がれるが、縁佳の狙撃にはギリギリといったところ。とはいえジースに深い傷を負わせることは未だに出来ないでいる。一方のジースも、縁佳たちの猛攻と、米田によって操られているモンストールたちの反逆に手を焼いている。


 「おのれ、裏切りの駒どもが...!こんな雑魚たちに本気を出すまいと高を括っていた…。まあいい、魔人族の本当の力を思い知れ!!」



 “限定進化”



 瞬間、彼女を黒いオーラが包み、それに合わせるように彼女も姿が変化していく。やがて現れたのは、ひと回り大きくなった体躯に黒い包帯のようなものがびっしりと巻き付いている姿、切れ長で鷹のように鋭い眼をしたジースだ。


 「この世界でいちばん強い種族、それは魔人族。その私たちがが“限定進化”した...この意味が分かる?

 終わりってこと!」


 灰色の髪をわらわらと逆立てて黒い魔力を可視化させながらジースは全員に殺意を飛ばす。


 「あれは...ヤバい、私たちも早く...!」

 「ああそうだな!さらに強くなれるのはお前だけじゃねぇんだよ!!」


 中西の言葉に堂丸が頷く。砦にいる縁佳も小さくうんと応えて、異世界召喚された者たちのみに発現する特殊技能を発動した―――



 「「「「「限定強化!!」」」」」



 直後、縁佳たちの能力値が一気に跳ね上がる。「限定強化」は、異世界から来た人間にのみ発現される限定的なステータス上昇のことである。ただし最初から発現するものではなく、過酷な戦闘経験を積まなければこの固有技能は発現しないとされている。



 「ほう異世界人も魔族みたいに限定的に強くなれるのか。とは言え...それでもこの私の、敵ではないな―――」


 “黒刃翼こくじんよく


 「あ”...っ!?」

 「いやあ...!?」


 ジースが手を向けたと同時に、彼女の周囲でドーム状に回り続けていた無数の黒い羽の刃が襲い掛かり、一瞬で堂丸と中西を切り刻んで、血飛沫を散らせた。二人とも夥しい血を流しているものの生きてはいる。


 「殺すつもりで攻撃したはずだが、なるほど...強化しているだけはあるな」

 「く、そ...マジ強い......ッ」

 「嘘でしょ?こんなに強くなった私を、こんな...!」


 ほんの少し感心を寄せて余裕を見せて呟くジースとは対照に二人は立つのがやっとだ。


 「魔物ども、その二人を殺せ」



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