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「美羽の究極の回復魔術」

 「その様子だと、予断が許されない程の状態ではないようだな?回復はある程度済んだみたいでよかった」

 「......ええ、心配かけたわね。というより今はあなたの方がマズいんじゃない?」


 魔人族との死闘を終えて、マリスのところに来たラインハートは、安堵のこもったため息をつく。それを見たマリスは今度は彼の怪我を気にかけて、部下に回復魔法をかけるよう命令する。


 (魔人族…さらに力をつけていたな。俺もそれなりに強くなったつもりでいたのだが、想像以上だった)


 未だ残っている魔人族...クロックの死体を目にして内心で呟く。倒れているクロックを睨みながら、マリスはそこに近づいていく。


 「...復讐か?自分の国を滅ぼした諸悪の根源に対しての。そいつはもう動けない...というか死んでいるが。それでもお前の気は晴らせるのか?」

 「ええ...。たとえ死んでいようが、最後の始末くらいはやらせてほしいの...。この手であいつを殺したかったのが正直な気持ちだけど、それを成し得る力が無かった...!だけどせめてこれくらいは私が...!」

 「そうか......なら止めはしない。お前のやりたいようにやれ。俺は、ちょっと休んでからまた動くとする」

 「.........ありがとう」


 再度激情に駆られるマリスを見ても宥めることはせず、彼女の背を押すことを選んだ。マリスは振り返らずに礼を言って、後始末に向かった。


 (これで、一旦終わってほしいところだが………)




 クロックを討伐したことで軍の統率が無くなったモンストールと魔物たちは兵士団と冒険者たちによって掃討された。

 しかし大戦の終わりはまだ訪れてはくれなかった。第三波として現れた魔人族軍が攻め込んできたのだ。


 「まさか……クロック様が討ち取られただと!?」


 その中には魔人族もいて、クロックが死んだことを目の当たりにして呆気に取られている。


 「敵の大将は討ち取ったようなもんだ。それに俺たちはまだ力があり余ってもいる。だからここは一旦撤退した方が賢明じゃないのか?そっちの戦力をいたずらに削ぐだけになるぞ」


 クロックとの戦闘により怪我と疲労がまだ残った状態のラインハートは魔人族にブラフをかける。


 「……………舐めるなよ人族ども!“序列”持ちの同胞を討ったからといって我らが折れるとでも思ったか!ザイート様の命令は貴様らの国を滅ぼせとのことだ。我らがクロック様に代わってその使命を全うするまでだ!!」


 いきり立った魔人族が後ろに命令を飛ばして、モンストールと魔物の大群を動かした。


 「ちっ、やっぱり退いてはくれないか……。もうひと頑張りしなければな……!」


 二振りの刀を構えたラインハートとマリス率いる兵士団は、再び戦場に身を投じたのだった―――



                 *


 旧ドラグニア領地付近の戦場地。この地でも「序列」を持つ魔人族が現れ、死闘が繰り広げられていた。

 それはラインハルツ王国付近の戦場にてラインハートがクロックを討ち取った時と同じ頃のことだった―――



 「な...なんだ、よ?そいつ、はよぉ...??そんな魔術って、ナシだろぉが...!!」


 武術・魔法攻撃の両方に長けているバランス型の魔人族…「序列7位」リュドルが、絶望した表情を浮かべて、今の有様を受け入れられない様子でいた。その目線の先には、魔力・体力が大幅に削られて、膝をついて今にも倒れそうでいる美羽の姿があった。


 「......ッ!......ッ!...ァ、ッ.........」


 呼吸が荒く、唇が変色していて、顔色が最悪の状態でいる美羽に、リュドルの恨み言に反応する気力さえなかった。意識を保つのがやっとの状態だ。


 「てめ、ぇ...!何か言――(ザシュウウッ!)――ィガァ!?」

 「......私がいることを、お忘れなく...」


 無反応の美羽にさらに罵声を浴びせようとしたその時、リュドルの首元から一直線に剣が突き刺された。クィンの今の剣の腕は、魔人族をも刺す、斬る、切断することが出来る程までに成長している。至近距離で首を貫くことなど今や容易いことだ。


 「ガ...!ヂギジョ、オォ......!!」


 血の泡を吹いて、痙攣した後、リュドルは絶命した。が、油断することなく即座に炎熱魔法でリュドルを焼き尽くして灰にした。


 「終わりましたが……ミワ!!」


 後始末も終えたことを確認したクィンは、即座に美羽のところに駆けつける。虚ろな目をした彼女に、携帯していた回復薬(美羽自作)を飲ませる。数分経って、目の焦点が合うようになり言葉も発するようになった美羽を見て、ひとまず安堵した。


 「魔人族は私が葬り去りました。ミワのあの“オリジナル回復魔術”のお陰です!けれどミワ、あなたが...」

 「魔人族相手に、温存はダメだったわ...。だから切り札を使わざるを得なかった。ううん、私が魔人族たちと戦う場合、この力は欠かせない...。物理的力も魔力も私たちをはるかに凌ぐ彼らを倒すには、これしか...!」

 「ですが一回使えば、さっきみたいに瀕死寸前になってしまう...。今後何度も使えば、命に関わる事態に!あなたには死んでほしくないのです!」

 「......。クィン、以前に魔人族の長と遭遇したって聞いたけど、さっき討伐した魔人族の戦力は、その長って人と比べてどれくらいだった?」


  話をすり替えられるも、クィンは美羽に肩を貸して歩きつつ答える。


「戦闘力はほぼ...いえ、討伐した方の魔人が少し上だったと思います。けれど長の方はまだ力を温存していたとのこと。本気になった魔人族を統べる長の戦力は、想像つかないです。さっきみたいに、真正面から挑めば、おそらく何もできずに殺されるかもしれません...」

 「そう、なんだ...。だったら尚更、私のこの力が必要になってくると思うわ。真っ向勝負でどうこう出来る敵じゃなくなった以上は...」

 「そう、かもしれません。けれど私は、ミワを犠牲にしての勝利なんて嫌です!絶対に...!だから、思いつめないでくださいね!」

 「うん、ありがとうクィン。私だって死にたくないしね...」


 それきり会話は止み、クィンと共に後衛に退避した美羽は、先ほど彼女が使った切り札のことを思い返していた。


 (私の最初の回復能力は“治す”つまり“治癒”が主体だった。鍛錬と戦闘を積んでいくにつれて、そこから“再生・戻す”...つまり“回帰”へとレベルアップさせた。

 それが開花したばかりの頃は、回帰の究極についてまだ気付けないでいた。そのことに気付くことが出来たのは、甲斐田君。君のお陰……)


 この大戦が始まる数か月前、美羽が修行に行き詰りかけていたタイミングで、皇雅が彼女のところにこっそり訪れてきていた。


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