「皆、役目を全うしてここに来たようだな」
「はい。しかしこの3人を以てしてこの状況とは。これが魔人族か...」
オッドは冷や汗を垂らしながらヴェルドを睨み据える。リュドによる氷剣の雨をくらったはずのヴェルドは、ほんのかすり傷程度しかダメージを負っていない。
「私の本気の攻撃をこうも簡単に...。なら、“限定進化”――」
リュドが「限定進化」を発動す。彼女に合わせて残りの5名も進化する。
「来るなら来い。その代わり...今度は殺すつもりで反撃するが良いか?」
「構わねーよ!俺も殺すつもりだからなっ!!」
「――っ!ダメだァ!!!」
魔力の濃度を上げながら問いかけるヴェルドの背後から、暴竜と化したリーザスが巨大な拳を振り下ろす。同時にドリュウが叫ぶも、間に合うことはなかった。
爆音を鳴らして地面が大きく陥没する。リーザスが放ったこの拳の一撃は、災害レベルの敵でも頭蓋を砕く威力がある。魔人族でもこの拳をくらえば当然無事では済まない――
「そういう一撃は 俺の動きを完全に止めてから放つべきだったな」
ズバン――ッ
「あ?.........ぁあ”―――」
しかし......今回は相手が悪過ぎた。
リーザス本人が気付いた時には、彼は既に胴体が両断され――
その直後には、彼は獄炎に燃やされて、灰になっていった。
「まずは一人か...」
「「「「「――――っ!!」」」」」
単独でSランクモンストールと相手取り、討伐した実績も持つリーザスがあっさり殺されたことに、誰もが驚愕し戦慄した。
「一人でかかろうとするな!二人か三人かで連携を取って攻撃するぞ!!」
エルザレスが素早く指示を叫び、カブリアスとともにヴェルドへ向かう。
“
腕部分を形態変化させたエルザレスの回転が加わった掌底。それはただの掌底ではない。掌には炎の魔力が込められており、触れると標的を内から焼いていく効力もある。
しかし隙を見せていないヴェルドにその攻撃がまともに当たることはほぼ無いだろう。
ただしそれは彼が独りだったならの話だ。
“雷縛”
「っ!拘束魔法か――」
「抉れろ―――」
エルザレスの、肉を焼き抉るであろう掌底は...
カッッッ―――
「く、そ......っ」
ヴェルドが放った「魔力光線」に妨げられて失敗に終わった。それどころかエルザレスの左手が深手を負うという返り討ちに遭った。
「まだ拘束は終わっていない!今だっ!!」
カブリアスの叫びに応じるように、エルザレスに代わって3人の竜戦士がヴェルドを殺しにかかる。
ゲーターが巨大な顎で嚙み砕こうと、メラルが超強化された牙で穿つべく落雷の如く突進して、シャオウが剣よりも斬れる強力な翼で斬りかかろうと、三者それぞれ殺意を込めた一撃を放つ――!
“
その3人は......ヴェルドが突如発生させた闇色の魔力の渦に呑まれてしまい――
「メラル―――!!」
「え......シャオウ!?」
寸前、シャオウが自身の翼を振るってメラルを渦の外へ脱出させた。しかし彼女の右腕と右脚が消滅してしまっていた。そして残りの二人は......
「う”あぁ...っ!そん、な...。シャオウ、シャオウ...っ!!」
「ゲーター、シャオウ...っ!」
完全に干からびた状態で現れて倒れる。その二人を、ヴェルドが無慈悲に止めを刺して完全に殺した。
「俺の動きを止めたのは良いが、肝心の魔法攻撃をも止めなければ意味が無い。俺の魔法攻撃の質はお前らとは比べ物にならないレベルだからな」
あっという間に竜人族の最強戦士を3人も殺害したヴェルドはいつの間にかカブリアスの拘束をも破ってさらに攻撃を仕掛ける。
“
ヴェルドが自分のところに向かってきたことを自覚したリュドが咄嗟に氷でできた魔力砲撃を放つ...が、
“
氷の砲撃は、黒い炎を纏った剣に両断された...。
「リュド...!くそっ」
即座にカブリアスが水でできた竜の爪でヴェルドに斬りかかるが、剣を持ってない方の手から放たれた暗黒魔法で吹き飛ばされる。
「が、おぉ...!」
“
砲撃を破られたリュドは尚も迎撃の手を止めることなく、絶対零度の氷の波動を至近距離で放つ。
“
しかしヴェルドの炎と闇の複合魔法によって破られ、そのままリュドをも呑み込んだ。
「あ、ああぁ......っ!」
「まずい......リュドっ!!」
闇色の獄炎に焼かれているリュドに、オッドが救援に向かう。その間にエルザレスどドリュウがヴェルドに攻撃する。
“粒子砲”
「その攻撃はもう見切った」
ドリュウが口に溜めていた大地と光の魔力の塊を放とうとしたが、その直前にヴェルドが「瞬神速」でドリュウの懐に接近して、真下から神速の闇の拳を叩き込む。瞬間、ドリュウの口が大爆発を起こして自爆してしまう。
「ガ......ッ」
白目を剥いて力無く膝を着くドリュウに魔剣を振り下ろす...が、寸前のところでエルザレスが割って入り剣の軌道をずらした。
それでも、魔剣はドリュウの胴体に深く斬り込んで、盛大に血の華を咲かせた...。
「ご、ふ...ッ」
「死ね」
なお追撃しようとするヴェルドの斬撃を、エルザレスが必死に逸らして防ぐ。彼自身もドリュウも相当の傷を負ってしまう。
「ほう、生き延びたか。“限定進化”もしないで俺の攻撃から生還した奴は久々だ」
「ぜぇ、ぜぇ...お前も、進化してないから、だからだろうな...」
「......なるほど。やはり進化する必要があるようだな...
お前らを闇に沈めて殺しきるには...!」
竜人族たちと魔人族一人の戦いが始まってから数十分、9人もいた最強戦士たちが、3人死に、3人が瀕死の重傷を負い、まだ戦える戦士が3人といったところだ。しかし状況は圧倒的に竜人族側が不利に当たっていた。
「残りの戦闘可能な竜人は......3体。とはいえうち一体は取るに足らない雑魚か。ちなみに辛うじて息がある奴らを入れると5体残っている、か」
瀕死のリュドを介抱しているオッドを見下しながら戦況を確認するヴェルドに、オッドは悔し気に睨むことしかできないでいた。
「オッド。俺たちは今から本気を出す...分かるな?お前をも巻き添えにしかねんから、リュドとメラルと、ドリュウを乗せてここから離れろ」
「エルザレス様、力及ばず申し訳ございません。カブリアスも......勝ってくれっ!!」
エルザレスの指示を聞いたオッドは素早く行動する。瀕死の三人を背に乗せて国の僻地へ飛び去った。
「カ......ブリアス...。生き、延びて...」
リュドはオッドが飛び立つ寸前にそう零して意識を失った。
「魔人族の小僧が...!五体引き裂いて葬ってやるから、そのつもりでかかってこい...!!」
「お前らこそ、俺との絶望的な戦力差を思い知って死ぬがいい!」
濃密な魔力とオーラを発生させて形態を変えていく竜人二人に対してヴェルドもまた、闇色のオーラを大放出させながらその姿を変えていく――
「「「限定進化!!」」」