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「天の龍と地の竜vs悪魔」2

 (―――!“序列”級の同胞の戦気が、二つ消えただと?

 クロックとリュドル…。確かラインハルツ王国と旧ドラグニア領地へ向かったはずだが、奴らを討てるだけの力を持つ人族がいるというのか!?

 まさか、例の屍族もどきのガキがどちらかを……!?)


 一方ヴェルドが何故突然別の方向を見て動揺しているのか分からないでいるカブリアスは、この隙を突くべく急接近して竜の牙でヴェルドの肩を抉った。


 「ギャシャアアアアアアア!!」

 「――!ぐ...う...!!」


 ヴェルドは数十m程距離を取って体勢を立て直して臨戦態勢に入る。


 「らしくないな?一瞬とはいえああいう隙を見せるとは」

 「......ふん」


 カブリアスの言う通りだと内心で自身を叱咤してから、両手を両翼から「魔力光線」を放つ。エルザレスとカブリアスも同じく「魔力光線」で応戦する。

 光線の撃ち合いが続く中、互いに覚悟を決めたエルザレスとカブリアスは再び全力の魔法攻撃を放つべく魔力を溜めていく。


 「死中に活、だ。相手が格上だろうが隙さえあれば奴を殺すことは可能だ。足掻くぞ」

 「ああ......行こう!」

 「これ以上長引かせるつもりはない。行くぞ...」


 どす黒い魔力が込められた魔剣を構えて、ヴェルドもやる気を見せる。



 “原子砲”

 “大雷瀑布だいらいばくふ


 エルザレスが大地と光の複合魔法砲を、カブリアスが水と雷電の複合魔法を同時に放つ。

 何もかもを塵にする砲撃と超高電圧電流を含んだ水蒸気爆撃に対し、ヴェルドも両手と両翼から魔力を凝縮させて、強力な魔法を放った。


 “黒き雷撃ダークサンダー” “嵐魔炎華らんまえんか


 一撃目に闇色の雷電魔法を放ち、二撃目に暗黒嵐と炎による三つの複合魔法を放って二人の魔法をまたも完全に破った。三つの属性を掛け合わせた魔法を撃つ者などこの世界に存在しないと言って良いレベルの神業である。それをヴェルドがやってのけたのだ。


 「マジ...かよ」

 「俺が降らせた雨の中だというのにあの炎の威力、くそ...っ」


 魔力の大量消費でだいぶ疲弊した二人だが、折れることなく接近戦に持ち込む。


 「お前も、さっきから強力な魔法攻撃を撃ちまくったことで、だいぶ疲弊してくれてると、良いのだがっ!」

 「確かに...俺の魔法はどれも強力な分消費が激しい。この進化形態を長く維持はできないのは事実だ。けどそれは、お前らも同じだろ?」

 「まぁ...な!!」


 全身に魔力を熾して肉体を超強化させたエルザレスは、己の爪や牙、拳と足を武器にして命を懸けて攻撃を繰り出す。

 ヴェルドも魔剣で応戦する。エルザレスの拳速とヴェルドの剣速は、後者の方が上でありエルザレスの方が追い詰められていく。

 数分間怒涛の攻めの応酬が続いたが、エルザレスが追い詰められる。


 「魔法攻撃戦もこの近接戦も俺の方に軍配が上がっているこの戦いなど、もはや先が見えている。諦めて死ね」

 「かも...な。けどなァ、ここで俺らが折れたら、国が滅ぶ...。それは許容できねぇな!!」


 “蛇龍拳”


 軌道が読めない動きから繰り出す無数の拳が放たれる。同時にヴェルドの背後からカブリアスも雷を纏ったクローを繰り出す。次いで水魔法や雷電魔法も放っていく。しかしヴェルドは、それらの攻撃に対し巧みにいなして容易に相殺していく。


 “竜殺し”


 「ガ......ッ」


 魔法も近接戦も圧倒しているヴェルドの前に、二人は窮地に追い込まれていく。カブリアスが胸に一文字の斬撃を受ける。深めに入り盛大に血が出る。


 魔人族槍術 “螺旋連魔らせんれんま


 「グオオオ...ッ!!」


 魔槍の連撃をモロにくらったエルザレスは、右腕の肘から先の部分が削り取られた。さらに体力を徐々に蝕む効果を持つ暗黒魔法をかけられ、その場で倒れる。


 「竜人族の長もここまでか......お前らの負けだ――」


 「そうはさせん!!」



 エルザレスを魔剣で葬ろうとしたヴェルドの頭目がけて、魔力光線が放たれる。咄嗟にそれを魔剣で防ぎ、放ってきた方へ目を向ける。



 「増援が来たか」

 「お前、ら...」


 「“序列”の戦士たちですら敵わず、族長までもがそんな目に遭うくらいの敵だってのは分かってる!けど、」

 「ここは俺たちの国。ここには俺たちの大切な人達もいる!俺たち戦士が命張らなきゃならねーはずだ!!」

 「敵はもうその魔人族一人だけ。奴さえ討伐すればこの戦争は俺たちの勝ちだ!!全員で奴を殺すぞ!!」



 先程魔力光線を放った男の竜戦士を始め、総勢百数名もの精鋭戦士たちがヴェルドを囲む。皆、覚悟を決めてここに来ているのだとエルザレスとカブリアスはすぐに察した。戦士の覚悟を否定するのは最低レベルの侮辱行為であると理解している二人は、そんな彼ら百を超える戦士たちの特攻を止めようとはしなかった。


 「「「「「おおおおおおおおおおおっ!!!」」」」」


 「限定進化」を発動した者も含む男女の戦士たちは、己が持つ全ての力を解放して来撃を次々に放つ。

 ヴェルドの左右前後から、中空から、上空から、真下からも、全方向から龍の怒りとも呼べる超猛攻が彼を殺さんと向かう――



 「良いだろう...。あの時とは違う。魔人は竜などとっくに超えているということを、

 お前らのその身に刻み込んでやろう!!」



 ヴェルドがそう宣言した直後、彼は自身の魔力を全力解放して、魔剣をグッと構えて......死の剣術を放った――



 魔人剣術奥義 “鏖魔おうま





 「ひぃ……!あれが、魔人族のナンバー2……エルザレスさんたちでさえ………!」


 国の安全地帯にある屋敷内。戦場へ飛ばしていたカメラ役の召喚獣越しからそこの惨状を目にした情報屋コゴルは、顔を青くさせて絶望していた。


 「た、助けてくれ!!このままではみんなが、竜人族の国が……!!」


 コゴルは通信端末を起動して、ある人物に連絡をとばした。

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