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「ラインハートの正体」

 それから夕日が沈もうとする時間になったところで、王宮に入る。するとさっそくミーシャ・ドラグニアと会った。何だか以前よりも凛々しくなったか?


 「コウガさん……!来てくれてありがとうございます!それから、連合国軍の窮地を………」

 「あーそのへんの礼はどうせ後でまた言われるだろうからその時に言ってくれ。それより、半年くらいしか経ってないはずなのに、何故か久しぶりに感じるな」

 「私もそう思います。コウガさんとは半年間まったく会えてませんでしたから。

 でも、クィンさんやミワさんとは会ったって聞いてますよ?修行のアドバイスをされたとか」


 そう口に出すミーシャはやや不満顔を見せる。元とはいえ王女がそういう顔を見せるとはな。


 「背、少し伸びたか?佇まいも何だか堂々としてきてるし」

 「はい、私も皆さん程ではないですが鍛錬をしてましたので。魔力もかなり上昇したのですよ」


 ミーシャは年相応の笑みを浮かべて嬉しそうに話す。俺はそうかと答えてから肝心のことを聞き出す。


 「俺、ついでに俺以外の異世界召喚組を元に返す転移魔術はどうなった?もう完成したのか?」

 「9割といったところでしょうか。此度の大戦の準備もあって進捗がどうしてもすぐにはなれませんでした……。しかし完成はもう目の前です!約束はきとんと果たしますので!」

 「そうか。それは良いこと聞いた」


 約束をちゃんと守れる人間は評価できる。ミーシャは良い人間のようだ。しかし転移魔術を完成させるには、魔人族との大戦を終わらせなければならないってわけだ。そうしないと彼女の転移魔術の完成は進まない。


 それから30分後、王宮の大きな会議部屋で会合が始まる。参加者は俺とアレン、サント側からクィンとガビルとミーシャと異世界召喚組、ハーベスタン側からニッズとトッポ(兵士団長)とディウル、ラインハルツからラインハートとマリスとフミル、ってところだ。

 他にもサント王国の要人どもも出席している。自国で会合しているからなのか。


 「魔人族との大戦から半日ほどしか経っておらず、傷もまだ癒えておらぬ者もここにいるであろう。そんな身を起こしてここへ来てくれたことに、まずは感謝を」


 ガビルとクィンが他の出席者たちに頭を軽く下げる。傷ね……ガビル本人も装備で隠しているものの、包帯が胴体にいくつも巻かれている。体力も消耗したままだ。総大将でしかも老人でありながらあんな戦場で剣を振るってたからなー。

 続いて今日の大戦で命を落とした兵士・冒険者たちへの黙とうを捧げて、大戦の主な被害状況と失った主戦力を確認していく。


 「イード王国が、滅亡してしまった……。大国一つが落とされたというのは非常に悲しく、痛いものだ。我が国からも甚大な損失が出ている。コザ兵士団長の討死、魔人族による兵士団の半滅など……。連合国軍の兵力は今、戦う前の半分近くまで失っていると出ている」


 ガビルの報告に部屋が…主にサントの要人どもの狼狽でざわついていく。クィンもコザの死に暗く悲しい表情を浮かべている。ガビルは咳払いをし静かにさせてから声をやや明るくさせる。


 「そんな中でも大きな戦果を上げてくれた者が数名いる!まずは旧ドラグニア領地で戦ってくれていたフジワラミワとクィン副兵士団長。この二人によって“序列”持ちの魔人族を討伐してくれた! 

 そしてラインハート兵士団長。彼も“序列”持ちの魔人族を、他にも数名の魔人族を討伐してくれた!!

 彼女ら彼無くしては“序列”持ちの魔人族を討伐することは出来なかったであろう」


 ガビルの発表が終わると拍手が鳴る。クィンと藤原は照れた様子で会釈を、ラインハートは無表情で拍手に応じる。隣にいるフミルが何故か嬉しそうににやけている。

 続いてガビルは俺に目を向けてくる。


 「そして………それでも絶体絶命に陥ってしまった各地の連合国軍を救ってくれたのが、異世界召喚された少年、カイダコウガ。この中で連合国軍に唯一参加していない者だが、彼が戦場に駆けつけてくれなかったらこの場にいる者の何人かはここにはいない……ということになっていたであろう。

 この場を代表して礼を言う………本当に、ありがとう…!」


 俺に対して先ほどよりも深く頭を下げてくる。続いてミーシャと藤原、高園が大きな拍手を送ってくる。アレンもノリで拍手してきて気恥ずかしい。後れて他の何人かも拍手をする。曽根や米田も小さくだが手を叩いていた。堂丸や中西はしなかったけど。あと国の要人どもも俺を見ては目を逸らして気まずそうにしていた。あいつら俺のこと嫌いだもんなー。


 「それにしても別に大げさにするほどじゃ…」

 「我が孫と私本人の窮地を救ってくれたのだ、これくらいはさせてくれ。

 それで……君に聞きたいことがいくつかあるのだが、良いかな」

 「ああ、何が訊きたい?」


 ガビルがまず尋ねたのは、俺とアレンがいる鬼族の仮里にも魔人族が攻め込んできたかどうか、そしてどのように奴らを退けたかについて。俺たちはカミラの完璧な軍略のもとでみんなで敵軍を圧倒してやったと話した。カミラの活躍を聞いたニッズとトッポが特に感嘆していた。同時に悔いた様子も見せていた、カミラを手放してしまったことに……かな。


 「次に……イード王国にも行ったと聞いたが、かの国を滅ぼした者について何か分かったことは?」

 「あれをやったのは魔人族のトップ、ザイートだ。奴の魔力の残滓があったから間違いない。あの戦場とあの国全てを奴一人が滅ぼしたんだ」


 それから他の「序列」持ちの魔人族についても話した。奴らと戦ったことある高園やディウル、アレンも続いて詳細を話す。誰もが奴らの脅威を理解したところで戦慄した表情を浮かべていた。


 「はっきり言うけど、“序列”持ちの連中とまともに戦えるのは、まず俺とアレン。連合国軍側なら藤原と高園、ディウルにラインハート。あとは竜人族のエルザレスやカブリアスくらいか。それ以外の奴らは皆、連中に瞬殺されるだろうな」


 俺の意見に反発する奴はいなかった。事実であると自覚しているからだろう。


 「ましてや連中を殺す…討伐するってなると、それができるのはこの俺。次にこれはリスクがあるけど藤原のオリジナル魔術」


 俺に言われた藤原は短く笑う。


 「そしてもう一人………あんただ」


 俺が指摘したのはラインハートと呼ばれている兵士だ。彼は無言で俺を見返してくる。


 「随分俺を高く買ってくれてるじゃねーか、

 「俺はあんたのこともうな、当然だ」


 俺たちのやり取りに何人かざわめく。


 「今……甲斐田の名前の発音、私たちと同じじゃなかった?」

 「ラインハート、あの少年と会ったことあったの?」


 元クラスメイトどもやマリスが疑問の声を上げる中、ラインハートが続きを話す。


 「“俺の真実”を知っているのはフミル国王とマリス、そして甲斐田、お前たちだけだ。マリスには今日の戦いが終わってから話したから最近だが」

 「そうね。凄く驚かされたわ」

 「まさか、私たち以外にもお前の真実を知っている者がいたとは!」


 マリスとフミルがそう言う中、ラインハートが立ち上がってガビルたちに頭を下げる。


 「本当ならばこの大戦が始まる前に明かすべきだったのだが、魔人族側に知られたくなかったからな、今まで伏せてきた。隠していたことをまずは詫びさせてほしい。

 こうしてラインハルツ外の者が俺の真実を知っている以上、もう隠す必要は無くなった。というより、今日ここで話すつもりだった。

 俺の正体ってやつを」

 「………!?」


 ラインハートの得も言われぬ雰囲気に誰もが息を吞む。そして彼は打ち明ける――





 「ラインハートは仮の名。

 俺の本名は、八俣倭やまたわたる。 職業は“侍”だ。そして――」


 俺や藤原、高園たちを順に見てから続きを告げる―――


 「俺も、百数年前に日本というこの世界には存在しない国から“異世界召喚”された異世界人だ。

 初代異世界召喚組……その最後の一人だ」



 俺の、第二世代異世界召喚組俺たちの「先輩」は、全てを明かすのだった。


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